2月24日 3
花田は、何食わぬ顔で戻ってきた金森から鍵を受け取ると、礼だけ言って、一目散に教室へ走った。顧問が朝練に顔を出すまでに、事を済ませなければいけない。金森のことなどはもう頭になかった。
彼は教室の鍵を開けると、明かりも点けず、居並ぶ机の間をかき分けるように進んで、自分のロッカーの前で立ち止まった。僅かに息を荒げながら、錠をかけ忘れていたロッカーの蓋を開け、その奥にしまわれているものを取り出す。例の、賽銭箱を擬した貯金箱だ。ずっしりと重くなっているそれを、ロッカーの上に置く。
貯金箱は、既に、賽銭の投げ入れ口に溢れかえるぐらいまで十円で満杯になっていた。花田は、よく貯めたもんだと自分を褒める。毎朝起きるごとに十円、一時間勉強するごとに十円、挙手五回につき十円、ヒット性の当たり五本につき十円……と貯めていった結果である。彼はそういった面では「優等生」であったから、貯め切るのにはさほど時間を要さなかった。しかし、彼はそうやって貯めた大量の十円玉の使い方が思い浮かばなかったために、この賽銭箱が一杯になった後は、それをロッカーの中に放置して、新しい貯金箱を使っていた。そっちの方は、今、生憎家にある。
ティッシュ箱程の大きさだから、少なくても五千円ぐらいはあるだろうか。花田は、そう期待しながら貯金箱の出し口になっている直方体の小さい一面を、半ば強引に引き開けた。すると、勢いで中身がジャラ、ジャラとけたたましい音を立ててロッカーの上に散乱した。優に全体の三分の一程度は出てしまったようだ。それらが窓からの朝日を受けてキラリと瞬く。
散らばった先で積み重なっている十円玉の山を前に、花田は、うむ、と考え込んだ。とりあえず、ナオヤへの罪滅ぼしと餞別代わりのコーラで十五枚、金森へのお礼で十五枚、それと無駄に走って喉が渇いた自分用に十五枚、あとは、部長になってから融通がきかなくなったアイツへの口封じに十五枚。総じて六十枚が入用と結論付ける。
その枚数を数え終わってやっと一息つくと、花田はハッとして振り返り、教室の時計を見る。針は7時20分を少し過ぎた辺りを指していた。もうそろそろ、顧問が職員室の机から立ち上がる頃だ。やべえ、と花田は呟き、数え分けた六十枚を慌ててユニフォームの両ポケットにしまうと、残った十円玉を乱暴に貯金箱の中へ戻し、出し口を閉めるだけしてその場に放置し、教室を飛び出した。自動販売機は玄関ロビーにある。
証拠隠滅のために鍵をかけ直したりとかいう気の利いたことはしなかった。




