幻想の小瓶
観戦後、少しPVPで白星を稼いだ後にログアウトしたわけだが……翌日、いつのまにやらイチゴ大福さんとかポポさんが当たり前のように総勝ち星数の上位にいたのは草が生えた。ガーディアンの後でどんだけのスピードで稼いだのか。ニー子さんはガーディアン戦前から稼いでいたので除外。
今日は僕とアリスちゃんがガーディアンを担当するので早々にコロッセオの待機室にきている。
「ステータスの状態はPVP用のキャラよりも低くなっているですね」
「上位3人に対して難易度下げるためだって。それにしてもアリスちゃん、なんというか懐かしい装備だね」
「久々に袖を通したですよ。強化はしていたですけど、使う機会がなくて」
アリスちゃんが着ているのは前回PVPイベントにおいて彼女が装備していた白いロリータファッションの装備だ。ディントンさんが製作した代物で、あれからも強化自体はされている。しかし、より性能の高い装備を手に入れ続けていたので今の今まで使う機会がなかったのである。まあ、水着イベントで僕以外のみんなは装備を入れ替える土壌が出来上がったから……僕はむしろあれで道が決まったようなものだけど。
ちなみに、今の僕の装備も普段とは異なっている。というか、僕も懐かしの炭鉱夫ルックだ。頭にはしっかり安全ヘルメットを装備している。
「おっとそろそろ時間だね」
「ですね。蹴散らしてあげましょうです」
「ハハハ、過激過激」
フィールドに転送され、挑戦者を待つ。ほどなくして最初の挑戦者が現れるが、昨日も含めて知り合いの出てくる確率多すぎないかな。
「あれやな。悪名が轟いておるから、みんな及び腰なんよ」
「PVPならステータスの差は縮まるっす。そして、ガーディアンだと通常時よりも更に下がるって聞いたっすからね。勝たせてもらうっすよ!」
自称太公望マンドリルさん。遊郭ルックのど・ドリアさん。直接会うのは久々の2人が対戦相手か。
『本日のガーディアン戦、初戦は噂の村長&桃色の悪魔コンビがお相手するぜ! 実況は俺、MCマキシマー。本日の解説にはこの人、ポポさんをお呼びしているぜチェケラ!』
『よろしくお願いする。あと、ホログラム映像っぽいのはVR機器ではなく、カメラ、マイクとモーションキャプチャーなどを使っているためだ。いわゆる、Vの者と思ってくれ』
『なんでわざわざそんな手を……』
『長時間のトーク、吾輩のログイン制限的にこうするしかなかったのだ』
『わざわざそこまでしていただいてありがとうございます……いや、私物っすよね?』
『もちろん私物だ。何に使っているかはご想像にお任せする』
『あまり深く聞くと話が脱線しますので本日のガーディアンが使うアイテムについてご紹介させていただきます。今回は消費アイテムである「変化薬」だ』
『随分とシンプルな代物を用意したものだね』
『技術的には既に可能な範囲で、サーバーにかかる負荷のテストさえ済めば実装可能なブツなんですけどね。詳細は今、2人が使ってくれるのですぐにわかりますよ。皆さん、ご注目!』
マキシマーの発言で、視線がこちらに集中する。中々緊張するが、動かないと始まらない。アイテムを使用してすぐに効果が僕たちに現れる。
「――ほう、そういう類のアイテムなんやね」
「なっ――その姿は!?」
アリスちゃんのほうは更に懐かしい姿になった。背が縮み、耳はネコミミからエルフほどではないが尖ったものへ。背中には透明な羽が浮いている。
僕は体が大きくなり、筋肉質になる。おでこの辺りに角が生え、声も若干低くなった。
「違和感もないし、なかなか面白い感じに仕上がったね」
「お兄ちゃん、オーガだとそうなるですか……アリスはもうこの見た目にはならないと思っていたですけど、少しの間ならアリかもしれませんね」
『というわけで、効果は一定時間種族を変更することが出来る、だ! 消費アイテムで近々実装予定だぜ!』
『ふーむ。そう簡単に種族変更できるのかね?』
『体型変更の制限にも関わってくるんだけど、現実の体のスキャンをして最初に作成する基準データってのがあるんだぜ。で、そいつをベースに各種族に調整するんだ』
『なるほど、リアルとの齟齬を少なくするためか』
『で、その基準データがあるからこそこういう風に一時的に種族変更をするときに参照できるって寸法さ。まだブラッシュアップの必要性があるが、今回はリアルとの体型差が少ないモデルと、体型差が多いモデルの2人に試してもらったってわけ』
『どちらがどちらなのかはあえて聞かないが、状況は?』
『問題ないな。普通に使えている。あと、もちろん種族変更によるステータス変動も起こるからな』
そのあたりも種族ごとに補正値という形でステータスが変動するからこそ、消費アイテムで種族変更をお手軽にできるようになった要因だろう。
あと、種族を変えたいけど決めきれないという人も多いだろうから、そのお試しのためにも用意されたと思われる。今回はイベント用なので効果時間は対戦中な上にPVPでも使えるように調整されているが、本実装された場合は仕様が異なるとのこと。
「懐かしのフェアリーとなったアリスと、オーガになったお兄ちゃんと勝負ですよ!」
「たまには力技も試してみたいってね」
「村長はんは元々力技やろ」
「桃色の悪魔が、本気になったってことっすか」
「っていうか誰なんですかそれ言い出したの! おかげで運営からも定着しちゃったじゃないかです!」
「…………あ、たぶん俺っちっすね」
「チェストー!!」
『試合開始!!』
「まって! 俺っちの目の前に幼女のエンチャントキックが迫っているのぉおおおお!?」
マンドリルさんが慌ててかわすが、アリスちゃんは跳び蹴りの態勢のまま手のひらからジェット噴射して上空に飛び上がる。そして、体をドリルのように回転させて回避行動後で隙が出来たマンドリルさんめがけて――射出された。
「新技、『クイックストライク』です!」
「ぐぼあああああ!?」
「しかし、種族を変えたところで強さ自体が大きく変わるわけやないと思うんやけど。彼女、筋力値はむしろ下がるから攻撃の威力は下がるんやない?」
「だからマンドリルさんがまだ生きているんじゃないか」
「なるほど、より長く苦しむんやな」
「なんで俺っちがダメージを受けている横でほのぼの談笑できるんすか!?」
「まあ、種族が変わったってことはいつもと違う戦い方もできるってことなんだけどね。アリスちゃん、コンビネーション攻撃行くよ!」
「はいです!」
アリスちゃんが炎の魔法でマンドリルさんを上空へ発射する。それを僕が泡でからめとり、下へと落とす。その後、全力でデッキブラシをフルスイングした。
「ふっとべ!」
「のおおお!?」
「あらまぁ、汚い花火やわぁ」
「たーまやー」
『さすがに3対1じゃマンドリルさんは分が悪いな』
『というか彼は何故エントリーしてしまったんだ? 相方が彼女なら手助けしてくれず、四面楚歌になるのは分かり切ったことだったろうに』
『会場ドン引きじゃないですかね、コレ』
『ふーむ……いや、意外とそうでもないみたいが』
『あれー?』
『……ああ、先日の動画で彼らの所業は知れ渡っている。つまり』
『あー……なるほど。皆さん口をそろえて言うわけですね、知ってた。と』
どういう扱いだコラ。
だがしかし、この反応では否定できない……とりあえずど・ドリアさんを倒してから――って小さな白旗を振っている。
「降参するえー」
「何のために参加したですか……」
「参加賞欲しかったし、あとはマンドリルの面白いリアクションを目当てに」
「貴女も随分な性格しているですよ」
「あ、次の人は苦戦するだろうけど頑張ってなー」
次の対戦相手……その時、背中にうすら寒い感覚が襲ってくる。横を見ればアリスちゃんも体を震わせており、これから来る何者かがこの悪寒の原因らしい。
本日は短い時間で行うということでインターバルは挟まずに2戦だけの予定。なので、次の挑戦者がすぐに現れるのだが……出てきたのは2人の女性プレイヤー。片方は少し露出度の高いくノ一衣装に身を包んでおり、もう片方は小麦色の肌にベストとスカートを合わせたJKルック。というか見慣れたヒルズ村の住人の桃子さんとらったんさんだった。
「いや、身内かよ!?」
「なんか、顔が怖いですよ……どうしたです?」
「いま、補習地獄を乗り越えた先――あーしは羽ばたくの! このさげぽよな日常から!」
「よーし話が通じないやつだ。ある意味酔った銀ギーさんより質が悪い!」
「拙者、頑張ったんでござるよ。2人でコンビネーション攻撃決めようね、キャハって……よぐそと殿、実家に帰るとかでPVPイベント中ログインしないんでござる――――勇気を振り絞ってもダメなときはダメなんでござるよ! ストレス発散に付き合ってもらうでござる!」
「八つ当たりじゃないですか!?」
『次の対戦カードは問題児VS問題児だ!』
『対戦カード、作為的じゃないかい?』
『…………マジでランダムなんだけど、持っているなぁあの2人』
「今回は悪い方向にね!」
「どうしてこうなったです」




