変態の多いインターネッツですね!
見た目は実に変態的だし、観客たちが顔をそらしているぐらいにヒドイ絵面だが……ランナーBさんの実力は本物である。あの人だってPVPトーナメント上位に入ったプレイヤーだ。それに、ポポさん以上に弓矢の扱いに熟知している。
サービス開始初期から【狩人】のままプレイしている猛者だ。そして、基本的に遠距離攻撃を主体とするこの職業でソロ部門を勝ち上がれる実力を持っていた――そのまま、今日までプレイし続けていた彼(彼女?)がどういった強さを誇るのか。それが目の前の光景に集約されている。
『だからこの人とは戦いたくはなかったのだが』
『アチキについてこれるだけ、ポポちゃんもやるわねん! だけど、勝利は譲らないわ!』
『ガーディアンでの初黒星とか嫌なのだが……本当にやり辛いな』
ポポさんが放った矢を的確に撃ち落とすランナーBさん。っていうか、飛んでくる矢にピンポイントで矢をぶつけて撃ち落とすってどうやっているんだよ……見たところ、目測で放っているようにしか見えない。
『あれマジでどうやっているんだ?』
『観測データだと、完全に目測だって』
運営側もポカンとしちゃっているじゃないか。ほら、簡単に理解できない動きをするんじゃないよ。
「人のこと言えないですけどね」
「いやいや、泡移動とかひたすら練習した果てに習得したからね。それ言ったらアリスちゃんだってジェット移動いきなり使いこなしていたじゃないか」
「最初のほうはちょっと制御失敗したりもしましたですよ」
1日で動けるようになった時点で、おかしいんだよなぁ……なお、周りのプレイヤーたちには同じ穴の狢と言われました。君らだってジェット移動愛用者だろうに。知っているんだからな、移動用アイテム実装されたにもかかわらず、初期組は自分でスキル使って飛びまわっているの。っていうか周りのプレイヤーが見覚えのある人たちばかりなんだけど。ベヒーモス戦とかクラーケン戦で見たことのある顔ばかりなんだけど。
たまに空を見上げれば、誰かが飛んでいる。それが今のBFOだ。僕らがいまだにアレなプレイヤー呼ばわりされる所以はそこにある。影響を与え過ぎたんだ……
「あ、動きがあるですよ」
アリスちゃんの一言により、視線を戦いの場に戻す。
ランナーBさんの動きからするに、装備の性能と使っているスキルは【狩人】特有の遠距離攻撃の強化。それと、反撃を喰らっても躱せるように俊敏値を強化するものだろう。自分にバフをかけるエフェクトも発生しているし、スキルでもステータスを強化しているのは間違いない。
ポポさんも短く【古代のウォッチ】を使用して高速移動を織り交ぜながら攻撃を加えているが、そのことごとくが弾かれるか躱されている。魔導兵器を使っている分手数も多いはずなのに……それに、貫通矢も弾かれているのは何故だろう? と、そこで運営サイドから解説が入る。
『貫通矢も弾かれているなぁ……』
『ホーミングにしても防がれていますね。貫通はなんで弾かれているんです?』
『飛んでいる矢を、真横から攻撃できれば弾けるからそれだな』
『凄まじい曲芸ですね……』
凄まじいってレベルじゃないでしょ。
『ふむ……これ、吾輩つんでいないか?』
『あらん。それじゃあ、アチキの勝ちってことでいいわねん。さあ、お尻を出しなさい』
『たった今、負けられない理由が出来た』
『いいわん。そうよ、全力のぶつかり合いこそアチキの求めるものよん。半端に降参するようなら、本気でそのケツを狙うところだったわん』
あ、ポポさんの顔が青くなった。そして、更に高速移動して拡散された矢を放つ。周囲を跳び回り、あらゆる方向から放ったことでほぼ全包囲攻撃と化していた。
さすがにランナーBさんも防ぎきれなかったようで、矢が刺さり――膝をついた。その表情には驚愕が浮かんでおり、一瞬何が起きたかわからなかったようだが……すぐに思い至ったのだろう。ポポさんのほうを見ている。
『麻痺狙いとは、嫌らしい手を使うわねん』
『だったら恐怖心を煽って相手に本気を出させる悪趣味な言動をやめたまえ。ひやひやしたぞ。たとえ冗談でもキツイものがある』
『あらん? 張り合いがなかったらカツを入れるのは冗談じゃないわよん』
『…………なおのこと悪い』
ポポさんは非常に疲れた声を出しながら動けないランナーBさんの頭部めがけて矢を放った。今度も拡散、そして頭部を貫いたエフェクトから貫通矢を用いたことがわかる。
頭部クリティカル、それが何本も同時に……大ダメージでランナーBさんの姿が消えていった。
『勝ちはしたが……奥の手を使いすぎたな。さて、次はどうしたものか』
背中が煤けたなぁ……インターバルに入り、次の対戦まで時間が出来たが…………会場は微妙な空気に包まれてしまった。人のこと言えないんだけど、初期組問題児多すぎじゃないかな?
「凄い戦いだったですね……言動はアレでしたが」
「ランナーBさん、面倒見が良くていい人なんだけどなぁ…………結構スパルタなところもあるらしいから、悪い面が噴き出たんだろうね」
「アリス、最近思うです。周りの人のいい面と悪い面の入れ替わりが激しいなって」
「アリスちゃんもだよ?」
「分かっているですよ。そしてお兄ちゃんもですからね」
「分かっているよ」
「それにしても、弓って結構簡単に矢を入れ替えられるんですね。拡散とか、ホーミングは弓の特殊効果だって聞いたですけど、貫通とか麻痺は矢の効果ですよね?」
「うん。たしか、ダイアルみたいなパーツがあってそこで切り替えられるんだったかな……僕も使ったこと自体はあるんだけど、結構前に触ったきりだからあまり詳しくはないからちゃんと答えられないんだけど」
と、そこでダイアルであっているぞって声が後ろから聞こえてくる。どうやら聞こえたから答えてくれたらしい。後で調べてみたところ、スロット番号が割り振られていて、弓の装備時に専用のインベントリから矢を装填しておくことで対応スロットにダイアルを合わせて切り替えられることが分かった。
雑談もそこそこに、次はアイツの番なのだが……今、何の職業だっけか?
「うーん……茶プリンのやつ、結構いろいろな職業に手を出しているみたいだからなぁ。何を使うかわかんない。種族は変えていないからフェアリーのままだろうけど、マジで何をしてくるかわかんねぇ」
「具体的に、どういうのが好きとかないんです?」
「ない。本当に雑多にいろいろと使うから……(ゲーム内で)最後に会ったときは【狂戦士】だった。その前は【魔導士】って真逆のスキル構成だったし」
「しかも両方上位職じゃないですか……お兄ちゃんの【海賊】みたいな特殊系ならわからなくもないですけど」
ちなみに、度々上位職と呼んでいる職業があるが……こういったものは別の職業でフラグを立てることで転職できる職業のことを指す。下位版よりステータスとスキルが強力になっているのが特徴だ。ただし、特化型になるので弱点も増える。
アリスちゃんの言った特殊系には上位職が無いのだが、育てると上位職並みに強力なスキルを習得できる職業のこと。【海賊】の他には【サムライ】や【忍者】などが該当する。生産系も一応ここの分類に入る。というか、ヒルズ村の住人はほとんどがこのタイプの職業を使っている。
「ポポさんも茶プリンのことを知っているみたいだけど……いったい何をやらかして名前を知られたのか」
「やらかしたの前提なんですね」
「僕の友達だぞ?」
「納得です」
そして周りのプレイヤーたちよ、あーって顔をするんじゃない。声も出すな。悲しくなってくる。
インターバルもそろそろ終わるので、ポポさんがフィールドに出現し――ほぼ同時にアイツも出てきた。少し問題はあるが。
見た目はフェアリーなのに相変わらずのコワモテ。一瞬ビビる見た目だが、そこは問題ではない。
問題なのはその装備……マジか、マジかぁ…………アホじゃねーの?
「お兄ちゃん、どうかしたです?」
「いや、アイツの着ている装備……なんでよりにもよってそれを着てきたのかってツッコミを入れたい。ポポさんも目を丸くしているじゃないか」
「ただのピエロの服装ですけ、ど…………え、まさか?」
「うん、そのまさか」
特殊系の職業に限った話ではないのだが、主に特殊系職業に多く実装されているので多くのプレイヤーからは特殊系職業にのみ存在すると思われているもの……職業専用装備だ。現に、あれはとある特殊系職業の専用装備。
というか見た目がピエロの時点で何の職業かわかるだろう。うん、あのアホ……【遊び人】にしやがった!?
『あなたのことは知っているぜ、ポポさん。BFOで一番の情報通。俺のことも知っているみたいだしな』
『あ、ああ……茶プリン。あのロポンギー君――村長君のほうが通りがいいかな。彼とは友人だそうで、時たま一緒にいるとこを見かけるね。まあ、大抵素材集めで一緒にいるだけで面白みはなかったが』
『一緒に行動しているわけじゃねーしな。俺はレベル上げメインだし』
『複数の上位職を同時に育てているのは素直に感服するよ。コントローラーを握っているわけではなく、実際に体を動かしているようなものなのにガラッとプレイスタイルを変えられる臨機応変さは吾輩も驚いた……で、なぜその職業にした』
『どうせ対策とられるんだったら、対策の取りようもない職業にすれば無問題だ! コイツなら、予想外の攻撃を繰り出すんだぜ! 俺にも予想外になるからな!』
『なるほど、村長の友人か』
ポポさん、それどういう意味だよ。周りも深く頷くなよ。
アリスちゃんは隣で苦笑い……って、この流れどこかで見たことあるぞー。
まさかの【遊び人】でガーディアンに挑むという暴挙に運営側も苦笑い。実況の二人も乾いた笑い声しかでなくなっているじゃないか。
『どうするんですかねー……何が起きるかわかりませんよ』
『まあ、ステータスは群を抜いて低いから。普通にやったら間違いなくポポさんが勝つんだけど、何が起きるかわからないのが【遊び人】の怖いところなんだよな……アレ、PVPで唯一即死攻撃が可能な職業だし』
『マジですか。マキシマーさんマキシマーさん。確率的には?』
『恐ろしく低い』
『なら大丈夫かな』
『あっ』
フラグくさいことを実況が言っちゃった……たしか、【遊び人】の奥義スキルである『クリティカル・ワン』は即死判定が出ることもあるんだったよな。
まあフラグくさいことは言っているが、よほどの豪運でもない限りは――と、そこで茶プリンの奴が不敵に笑っていることに会場のみんなが気が付いた。いや、ふっふっふって笑っていれば嫌でも気が付くが。
『ふっふっふ。ハーッハッハッハ!』
『……何がおかしいのかね?』
『確かに即死判定が出る確率は低い。だが、それを克服する方法が1つあるんだよ! 即死判定の出る確率を増やす方法、それは幸運値を大幅に低下させること。だが、とても高い幸運値を持つ【遊び人】ではそれも難しい――そこで、称号【皇帝のおもちゃ】を装備する!』
『そ、その称号は!?』
『そう。ガンガー帝国皇帝の好感度90以上で獲得できる称号だ。効果は幸運値の大幅低下という産廃称号だが……即死発動型【遊び人】における構成のみ輝く!』
『――――まさか、そのための職業専用装備か!?』
『そう! 【遊び人】の職業専用装備はパッシブスキルの幸運値ブーストを停止させる代わりに他の能力値を上げるもの! これにより、純粋に幸運値低下の恩恵を受けられる!』
『それは恩恵というより呪いでは?』
『行くぜ――『クリティカル・ワン』!! この戦い、俺の勝利だ――――』
あっ(察し)。
「お兄ちゃん、今……」
「言うな。言ってやるな。世の中には言わなくてもいいことがあるんだ」
直後に、フィールドに大爆発が起きた。ただし茶プリンを中心としたもので、ポポさんは超高速移動で後ろに下がっていたため無事だった。
なお、茶プリンはキラキラと光る粒子になって天に登っていったのである……無茶しやがって。




