行動(結局はプログラムで動いている)
魔王という肩書は伊達ではない。今まで戦ったボスモンスターの中でもかなりの上位に位置する機動性を持ちながらもとてつもない高火力。耐性付与できない即死攻撃を持っていながらもそれ以外の攻撃でさえ即死しかねないほどの威力を持つ。
「口から火を吐いたです!?」
「回避回避! 次即死パンチ来るよ!」
「嫌じゃ、またワシが殴り飛ばされる未来しか見えな――」
「ライオン丸さん!?」
「さっきからなんでライオン丸ばかり狙われているのよ!?」
「っていうかー村長はー、攻略方法調べていないのー?」
「全部調べたら面白くないじゃん。ほどほどにしか調べていないよ」
あと、僕が育てている職業でのおすすめ立ち回りなんて載っていなかった……オーソドックスな立ち回りは絶対にかみ合わないし、ある程度臨機応変に戦える編成を参考にはしていたんだけど……仕様変更が何度かあったために、情報が少し古いものだったと攻略中に気が付いたのだ。
「いやぁ、うっかりうっかり」
「うっかりじゃニャい!」
「ダメだこりゃ」
「でも絶対、完全に対策して挑んだら作業ゲーになってつまらないからってのが一番の理由よね。いや、分からなくはないけど」
「…………むしろ、ここにいる全員同じような理由で中途半端にしか調べていないですけどね」
ギクリッとアリスちゃん以外の全員が図星をつかれた顔をした。蘇生完了したライオン丸さんも苦い顔をしながらその場に出現する。彼も同じ気持ちのようで。
結局のところ、村民たち全員ある種の同類なのだ。類は友を呼ぶとも言う。
「じゃがどうする。魔王が上に飛んでいるうちに考えをまとめないとまた殴り飛ばされるんじゃが」
「このインターバル的な時間がもったいないのよね」
パターンが読みにくいとは言っても、ある程度の傾向はある。例えば強力な攻撃を使った後は少し空中を飛んでインターバルが挟まるなど。タイマンで挑んだ場合は的確に防御してくるなどか。もう一つ気が付いたんだが……ライオン丸さんが即死攻撃を連続で喰らっているのでようやくわかった。
「この中で一番防御力高いのは誰?」
「そりゃライオン丸でしょ。村長とアリスちゃんは種族補正で防御力が低いし、ワタシは職業補正で防御力が上がらない。あるたんなんて種族補正も職業補正も防御力は低いからこの中じゃワーストでしょ。後はディントンとライオン丸だけど、エルフとドワーフなら防御力の種族補正はどっこい。職業補正でライオン丸のほうが上ね」
「それがどうしたのー?」
「いや、即死攻撃ってたぶん防御力優先なんだろうなって思って」
「でもー、防具の分もあるしあまり差はないんじゃない?」
「あー、確かにそうね。アリスちゃんとかかなり防御力高いし」
「となると補正値のほうを参照して即死攻撃の優先順位決めている感じかな」
「そっか。それはありそうね」
「となると防具を換えてもワシが即死攻撃で狙われるという事じゃな――そんな理不尽な!?」
「理不尽っていうか、数値上のことだから仕方がニャいニャ」
「がんばれー」
「そんな他人事みたいに」
「実際他人事だし。即死攻撃のタゲ取ってくれていればワタシたちが戦いやすいもの。これは必要な犠牲なの、分かって頂戴」
「ライオン丸さん、あなたのことは忘れないです」
「いやいやいやいや。これゲーム。死んでも蘇生可能」
「とか言っている間に魔王様着地したけど?」
「あのインターバルなんのためなのかしらねー」
「たぶん、ああやってパターンをリセットして動きが固定化しないようにしているニャ」
「即死攻撃はパターンあるけどね」
僕が一言添えた次の瞬間、空気が破裂するような音が鳴り響いた。魔王が柏手のように手を合わせており、そのためになった音のようだが……あの動きは初めて見るな。
「あれ? あんな行動あったかしら?」
「アリスも少し動画サイトで調べたですけど、あの動きは知らないですよ」
「アタイもだニャ」
僕、ライオン丸さん、ディントンさんも首を横に振る。つまり、今から放たれる魔王様の攻撃は誰も知らないということでファイナルアンサー?
「村長の顔が青くニャったニャ」
「ヤバい予感――総員ばらばらに退避!」
背中がぞわっとする感覚に襲われ、回避行動に専念する。泡を出し、地面をすべる。別にデッキブラシじゃなくても泡と足をかけられる何かさえあれば良いので、スコップで射線上と思しき場所から退避した。
アリスちゃんがジェット噴射で空中へ、ディントンさんが僕と同じようにハサミと泡魔法で地面を滑っている。いや、いつの間に習得したんだこの人……他のメンバーは、みょーんさんとライオン丸さんが走って逃げていた。
しかし、ただ一人。あるたんさんだけはその場でこけてしまっている。
「ってあるたんさん!?」
「あ、オワタ」
「みょーんさん、アタイの命を諦めニャいで欲しいニャ―――――あああああ!?」
魔王の足元から黒い影がにょきにょきと伸び、それがいくつものロープのような物体となってあるたんさんへと迫っていく。
「嫌ニャ、触手プレイは嫌ニャ!」
「ねえ、心なしか口元が笑っていないあの子?」
「露出度高い装備は好き好んでしているようじゃからの」
「ああいうのにも理解があるんでしょ」
「っていうか呑気に何言っているですか」
アリスちゃんが僕らにツッコミを入れるが……いや、だってねぇ…………何というか、助けに行く気が無くなる表情だったというか、そんな感じ。
「どんな感じですか。っていうかあるたんさん死んだですよ」
「あれ!? 触手で拘束する系の攻撃じゃなかったの!?」
「影の槍で貫いたですよ」
「…………なんだろう、僕の心って汚れていたのかなぁ」
「いや、今のはあるたんが妙なことを口走ったのが原因でしょ」
「ところでこっちにその影の槍が来ているけどー」
「回避回避!」
ディントンさんが忠告していなかったら貫かれていただろう。急いで躱し、滑ってあるたんさんの死亡地点で蘇生薬を使用する。ふよふよと浮いていた魂がキラキラとしたエフェクトと共にあるたんさんの姿へと切り替わった。ただ、どこか不満げな表情だったが。
「ただの攻撃だったニャ」
「よーし、大丈夫そうだな。サポート役だろうが何だろうが前線に蹴っ飛ばすぞー」
「望むところだニャ!」
「最近、あるたんさんも自分の趣味嗜好を隠さなくなってきたね……どこかのお嬢様とコンビでも組む?」
「いや、アイツとは解釈違いだからニャ。相容れニャい」
「どういうこだわりがあるのか知らないけど、同じようなものだと思う」
「失敬ニャ!」
「そこの二人、駄弁っていないで助けて――」
「あ、ライオン丸さんが死んだです」
「やっぱり即死攻撃は補正値基準っぽいわよね」
はいはい。蘇生蘇生。ライオン丸さんもあるたんさんと同じように復活したが、こちらは若干涙目だった。とりあえず、会話の端々にでも召喚獣の攻撃を挟んでみてはいるのだが、あまり効果はない。
無駄話はしつつも、全員で適当に遠距離攻撃は仕掛けている。魔法があまり効いていなかったので投擲武器が基本だが。
「ダメージ出ていないですね」
「弱点は聖属性なんだけど、決めようとすると避けるのよね」
「動きを止める方法はニャいのかニャ」
「あったらとっくに使っているしー」
「……あるかも」
「え、それ本当村長!?」
「うん、そういえば最初の魔法攻撃でガードして動きが止まっていたなぁって」
みょーんさんが神妙な表情になり、連続攻撃魔法を放つ。落雷が8回、魔王城中で見たスキルだ……消費MPはそれなりにあるが、連続攻撃を魔王がどう対処するか――全部ガードしたな。
「続けて村長!」
「あいよ!」
魔法攻撃主体で召喚獣の攻撃を指示する。氷の女王、マーメイド、ジャックランタンの順で攻撃してもらうが……ジャックランタンの攻撃の時だけガードせずにそのまま前に突進してきた。
「炎属性はガード無しか!」
「ならばこちらもチャージビーム発射じゃ! って、これも無視か!?」
「無属性はスルーするみたいニャ」
「駄洒落ですか?」
「偶然だニャ! って、アリスちゃんは何か魔法を使わないのかニャ?」
「アリスの場合は炎属性特化ですよ……シーモンキーを召喚できるですけど、それにしたって水属性ですから」
「村長のマーメイドで水属性ならガードするってわかったからニャ」
「そもそもシーモンキー近接攻撃ですから」
「そういえばそうだニャ。あ、村長ー! アタイ風属性攻撃つかえるニャ!」
「じゃあお願い! ディントンさんは?」
「呪い属性なら使えるわよー」
「…………たぶん意味ないだろうなぁ」
風属性も止まらず、呪い属性を喰らったら目が赤く光った。なお、特に意味はない模様……じゃあ呪い属性でも動きは止まらないのと変わらないじゃん。
「変な小ネタ発見してんじゃないわよ」
「今回はディントンさんに言ってほしい」
「テヘペロ」
まあ、適当にふざけられるレベルで余裕が出てきたともいう。いや、最初からこの調子だからずっと余裕だった、すなわち楽勝だった? なんて世迷言を考えつつ、対処方法を頭に思い浮かべる。いや、むしろ――ハメ技を思いついた。
でもなぁ……そういった方法に頼るのもなぁ…………いや、1回やったら修正入りそうだし、これが最後のチャンスだ。やって終わろう。
「みょーんさんと僕で動きを止めるから、総攻撃の準備をお願い!」
「聖属性付与のダンスがあるから準備しておくニャ!」
「アリスもそれ系の演奏するですね」
「じゃあ、私はアイテム使って能力値上げておくねー」
「ワシもチャージ開始しておくぞ」
「それはいいんだけど、村長。策はあるの?」
「さっき見てもらった通り。行動パターンが複雑だとしてもある程度決められた動きはある。即死攻撃は防御力の補正値参照とかね。魔法攻撃は属性ごとにガードか無視か決められているみたいだし……雷、水、氷ならガード優先みたいだから」
「共通点何かしらね」
「……空から降ってくるもの?」
「ああ、それか!」
なるほど、天候系がガード対象か。
えっと、全部ガードするわけでもないだろうし……スキルのクールタイムを考えつつ、攻撃のためのタイミングを考えると――よし、ひらめいた。
「じゃあ、蹂躙。はじめよっか」
「うわぁ……村長がひどいこと言い出した」
「一応これ、エンドコンテンツなんじゃけどな」
「楽に戦えるなら……もっと難易度の高い、魔王城下の古代遺跡にでも行く?」
「ごめん。さすがにそこは僕も遠慮したい」
そこ、ニー子さんが『やってられっか!?』って投げ出したところだからね。運営が完全に悪ふざけで実装したクリアできるものならクリアしてみやがれ系ダンジョンだから。
余計なこと考えたが、魔王戦に決着をつけてやる。




