小休止・美化活動
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唐突だが、僕らの住んでいる地域の学校では美化活動としてゴミ拾いの行事がある。清掃ルートの確認やら、諸注意の確認やらいろいろとやることがあったのでログイン時間が減っていた今日この頃。
とは言っても、魔王城挑戦以降特に目立った出来事もなくレベル上げとクエストを適当にクリアする日々だったのでクリスマスイベントまでに調整するだけなんだけど。
すでに告知がなされていて、公式サイトに書かれていたのは『武神サンタクロースとホワイトクリスマス』という名のおバカイベントであった……『その者、赤き衣を纏いて彼の地に降り立つ。勇者たちよ、立ち上がれ! 彼の存在と戦い、報酬という名のクリスマスプレゼントを勝ち取るのだ!』という出だしのバックストーリーと共に新モンスター『武神サンタクロース』が紹介されていた。
見た目は筋骨隆々の巨大なサンタクロースで、紹介動画を見た限り身長は4メートルぐらい。すさまじい速さでBFO中を駆け抜けるので足止めしてダメージを与えろというイベントだ。討伐報酬もあるが、ダメージを与えるだけでも報酬が貰える。なお、サーバー内に一体のみ出現して24、25日の二日間だけ戦うことが可能だ。
問題は一体しかいない、という点だ……HPも当然多いんだろうなぁ。きっと凄まじく強いんだろうなぁ。
とても嫌な予感がするが、今更言っても仕方がない。終業式前の学校行事をさっと終わらせて最近レシピ解放されたホーミング性のある爆弾でも作ろうと思っていたところ、目の前に数人の小学生が現れた。
そして、隣のコワモテが騒ぎだした。
「ほら、初々しい少年少女たちが現れたぞ」
「騒ぐな騒ぐな。毎年のことだけど、小中合同の学校行事なんだから当たり前だろうが……それに、中学生は小学生があっちこっちいかないように面倒を見るんだぞ。事故とか起きたら後が面倒だろうが……」
「それはそうだけども。でも小学生だぜ?」
「黙れロリコン」
「ロリの嫁がいるくせに何を言っているのか」
「テメェそれを言ったらおしまいだろうが!」
コイツの名前は山茶花ダイゴ。ゲーム内では『茶プリン』という名前のプレイヤーだ。
会話からわかる通り、こいつは僕がロポンギーだということも知っている。一応ゲーム内でもフレンド登録はしているが、一緒に遊んだことはほとんどない。たまたま野良のレイドで一緒になったことがあるぐらいか? 素材集めで適当に周回していた時だから記憶に残っていないが……
「茶プリンさんよぉ……BFOで決着をつけようぜ」
「いや、暴走特急のロポンギーさんとタイマンとか死ねるんで遠慮します」
「冷静に返すなよ。っていうか誰が暴走特急だ」
「鏡を見て言おうぜ、夏休みの読書感想文、何を題材にした?」
「たしか今年は……ゾ○リを大真面目に考察して書いたと思う」
「なんでゾ○リ? っていうかそういう行動をするから暴走特急なんだろうが」
「くそっ、否定できない」
「さすがあの親にしてこの子ありだよ……この間の授業参観、すごかったな。お前の両親二人して中世の貴族風の恰好してさ」
「……あのことは言わないでくれ」
「ああ、お前はお前で気にしているんだな」
ちょっと遠い目になってしまう。
誰が暴走特急だ、って言いはしたが実のところ僕自身突拍子もないなと思ってはいる。ただ、その時は大真面目に突拍子もないことをやっているのだ。結局ダメじゃねぇか。
いや、話が逸れたな。そろそろ真面目に清掃活動をしないといけない。
「さて、担当はこのあたりの公園を中心に周辺の道路のゴミ拾いだな。小学生たちが車道に出ないように気を付けておかないと」
「おおう。切り替え速いな……なあ、あの子お前のことじっと見ていないか?」
「うん? ……あー、あの子か」
いつだったかこの公園であった子が僕をじっと見ていた。同じ町内に住んでいるだろうからたまに見かけることはあったが……見た感じ、僕が通っていたところとは違う地域の小学校だな。僕の住んでいるところは同じ町内に小学校が二つあるのだ。中学は公立に進めば同じところになるが。
「あー、お兄さん、お久しぶりです」
「うん。久しぶり……えっと、そういえば名前聞いたことなかったね」
「は、はい…………さ、桜井と言います」
「よろしく、僕は桃木優斗」
「ついでに、俺は山茶花ダイゴだ。今日の美化活動、何か困ったことがあったら聞いてくれよな」
挨拶もそこそこにお互いゴミ拾いを始めたわけだが……桜井ちゃん、何やら小声で『ついに名前を聞いてしまったです……自分への戒めが』とか言っていたんだけど……戒め?
「なあ、あの子とどこで知り合ったんだ?」
「いつ頃だったか……夏イベントよりは前だったし、ちょうど半年ぐらい前か。この公園でなんか悩んでいたのを見つけて、相談に乗った的な感じのことがあったんだよ」
「なんでそんなにふわふわしてんだよ」
「実際、ハッキリと相談に乗ったわけじゃないからね。ちょっとした助言をしたぐらいだし、その後も数回偶然あっただけだから。名前も初めて聞いたし」
「ふーん……浮気か? 奥さんに言いつけるぞ」
「いや、奥さんじゃないし」
「でもBFOに結婚システムが導入されたら結婚しそうじゃん」
「言うな……っていうかそれ、本当に実装されるのかねぇ」
「可能というか、結婚システムのひな型は既にデータとして存在しているらしいぞ。ただ、人間関係のトラブルが増えるだろうから実装に慎重になっているんじゃないかって話だ」
「たしかに、昔の2DMMOでもその手のトラブルはあったらしいからなぁ……よりリアルなVRMMOだと更にトラブル起きそうで怖いわ」
「だろー。まあ、ゲーム内での結婚なんてボーナス目当てでするぐらいでちょうどいいと思うけどな」
「案外そういうところの考え冷めているね、君……ロリコンなのに」
「ロリの嫁がいる人に言われたくはないね」
「まだ言うか!」
「そっちだって、俺はロリコンなんじゃない。純真な子が好きなんだ! そして、そういう子は大体ロリだからロリコンだと思われるんだ!」
「……むしろロリじゃない純真な子って? っていうかうちのロリは純真とは程遠いんだけど」
僕がそう言った次の瞬間、桜井ちゃんがずっこけた。
「だ、大丈夫!?」
「へ、平気です……な、何でもありませんから」
「見事なずっこけっぷりだったな」
「見たところ怪我はないようだけど……」
顔に傷でもできたら大変と彼女の顔を覗き込むが……良かった。特に怪我はしていないようだ。しかし、よく見ると瞳の色が灰色なのか。海外の血でも入っているのだろう。
綺麗な色だったので思わずじっと見ていると、だんだんと彼女の顔が赤くなってきた。
「は、はわわ」
「なんだか熱くなってきているけど……大丈夫――あいた!?」
後ろからダイゴにはたかれる。っていうかいきなり何をするんだ?
「何をするんだはお前だよ。そんな至近距離で顔を近づけたら真っ赤になって当然だろうが。むしろ顔が青くならなかっただけマシだろうがよ」
「あ、そっか……ゴメン。嫌だったよね?」
「だ、大丈夫です! ぜ、全然大丈夫ですから!」
どこかぎこちない動きでゴミ拾いに戻る桜井ちゃん。悪いことしたかなぁ……
「本当にお前の嫁さんに今の報告するぞコラ」
「やめて。あの子にあることないこと吹きこまれると後が大変なんだから……」
「くそっ! なぜ、俺のところには純真無垢な少女が現れないんだ!」
「そういう事言っているからだと思うけど……純真無垢な子ねぇ」
周りの女性陣を思い浮かべるが……アリスちゃんも最近は大分落ち着きを得たが、それでもうん……純真無垢とは違うだろう。あとツッコミ属性も得た。
みょーんさんは既婚者だし、いろいろと擦れた部分もある。ディントンさんは……最近、変態性が上がって来てしまっている。ゲームを始めた頃は体形を気にしていたというのに、この前は『過激な格好をするコスプレイヤーの気持ちがわかってきた自分がいるのー』とか言っていた。
あるたんさんは露出狂の気があるうえにMだ。らったんさんは絡みこそ少ないが、結構悪ノリとかする人だし……ヒルズ村以外にもロクな人いないよな。ドMお嬢様とかS気のある着物美人とか最近太ましくなってきた引きこもりお嬢様とか。
「――純真、無垢?」
「なんで宇宙の真理を垣間見たような顔をしているんだよ。意識が遠くに行っちゃっているじゃないか」
「いや、僕の周りに純真無垢な人なんていなかったよなぁって――炭鉱の新人たち……ダメだ。けっこう早くに順応しちゃったか」
及第点はケチャップソースさんだが、あの人はあの人でツッコミ属性だし純真無垢とは違うだろう。僕の周囲ではかなり珍しい普通にいい人なんだけどね。いや、悪い人がいるってわけでもないけど。
「そもそもオンラインゲームが趣味な人に純真無垢な人っているのか?」
「…………いや、確かに」
ダイゴの指摘ももっともである。結局、僕らにはそんな人は縁遠いってことだな。
「いや、俺は諦めていないから!」
「現実を見ようよ」
「いや、可能性はある! 現にこうしてロリっ子の嫁がいる友人がいるのだから!」
「友人って……どこにそんな人が?」
「オオイ!」
「冗談だよ……」
とまあ、そんなこんなでゴミ拾いの間無駄話もしていたが、目だけは小学生たちが無茶しないように監視していた。もっとも、変なことをしている子はいなかったが……ただ一つ気になったのは、桜井ちゃんだけ一人で黙々とゴミ拾いをしていたことだ。
ダイゴも気になったらしく、二人で頷き合い彼女のところへと向かう。
「桜井ちゃん、さっきから一人でやっているけど、友達と喧嘩でもしているの?」
「いえ、アリ……じゃなくて、わたしは学校に友達いないので」
「言っていて悲しくならない?」
「いえ、ネットに友達がたくさんいますし、可愛がってもらっていますから」
「……ネットの姫とか?」
「そういうのじゃないですからね! 年上が多いからってだけです!」
「ああ、妹とか娘を可愛がる感じの」
「たしかにそれもあるですけど、もっとちゃんと一緒に冒険とかする感じのアレですからね!」
「その年でネトゲ? あまりのめり込むのもどうかと思うけど……」
「お兄さんだって、大差ないと思うですけど」
痛いところを突かれる……あと、この打てば響くようなツッコミ、どこかで憶えが……?
「っていうか学校に友達がいないのもそれはそれでどうなんだ?」
「そちらのお兄さんも余計なお世話です……あと、そもそも桃木さんも前に聞いた話だと、帰ってからも基本ゲームですよね? 普通に友達いたですか?」
「とはいっても学校で話すぐらいだしなぁ」
「コイツ、根っこはアレなレベルのゲーマーだしな。あと、20世紀末のアニメ大好きでその手のネタ多いし」
「あ、それで妙に古いネタが多いんですか……」
「いいだろ、好きなものは好きなんだから――って、桜井ちゃんの前でその手のネタやったことあったっけ?」
「い、いえちょっとぽろっと出ていただけですよ」
「まあ、無意識に出ることはよくあるからそれか」
「……」
「うん? ダイゴ、どうかしたか?」
「いや、もしかしてと思っただけで……お前が気が付いていないならいいや」
「?」
なぜか僕の肩をポンポンと叩いて生暖かい視線を向けてくるんだけど……なんなんだいったい?
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「冷やかしに来たぞー」
「冷やかしなら帰ってくれー」
美化活動も無事に終了し、その日にログインして適当にアイテム整理をしていたところ、ダイゴ、もとい茶プリンがヒルズ村に遊びにきた。
「っていうか茶プリン、何しに来たんだよ」
「だから冷やかしに。あと、ちょっと確かめたいことがあったんだけどな」
「確かめたいこと?」
「それと一つ気になったんだけどよ、なんでお前の村の住人達あんなに驚いた顔しているんだ?」
「うん? ……皆さん、どうかしたんですか?」
「いや、村長が他のプレイヤーに敬称付けないの初めて聞いたからびっくりしたんじゃぞ」
「あーそっか。確かに年上判定した人にはさん付けしているか。年下も君かちゃんは付けているし……コイツ、リアルの知り合いなんで。同い年相手ならこんなもんですよ」
「どもー。こいつのリアルフレンドで茶プリンって言います。よろしく!」
「よ、よろしく……っていうか、村長。あなたリアルフレンドとかいたのね」
「別に一緒に遊んでいるわけでもないんですけど……ただのクラスメイトですよ。みんなもそこまで驚かなくてもいいだろうに……うん? アリスちゃん、どうかした?」
「い、いえ。なんでもないですことよ」
「いや、それは無理があるから。なんか冷汗凄いよ?」
「…………ああ、やっぱりだったかー。俺の勘もなかなか鋭いぜ」
「茶プリン、どうかしたか?」
「いや、確かめたいことも確かめられたし。楽しくなってきたなーって思っただけ。気になっていたことをスッキリさせたかっただけだからさ、特に何もしないぜ」
「いや、何がしたかったのか聞きたいんだけど……教える気は?」
「ない! あと、今日リアルであったあの件だけど……言っても意味がないのが分かったから言わないでおくわ」
「それはありがたいけど、またどうして……」
「別に。結婚式の友人スピーチにでも取っておくことにした!」
「おい、なんだそのテロ発言!?」
「いやいや、笑い話になっているって! それじゃあ、俺はフレンドと古代遺跡に挑みに行くから!」
そう言って、アイツはさっさと教会からファストトラベルしていなくなったけど……どうしたんだ、いったい?
「ああ、ついにバレてしまったです……」
「うん? アリスちゃん、どうかした?」
「いえ、こっちの話です……少なくともすぐどうこうなるわけじゃないですから」
「? まあ、アイツもこれ以上昼間の件を蒸し返さないみたいでほっとしたけど……」
「村長、昼間の件って?」
「いや、こっちの話。リアルの話題だから」
「それじゃあ聞かないけど」
でも、なんでアイツはアリスちゃんに昼間の件を言わなかったのだろうか……謎である。
「ところであのコワモテの外見で種族フェアリーなのはなにかの罰ゲームなの?」
「いや、アイツの趣味」
「えぇ……」
なんでここでロポンギーの本名を明かしたのか。
100話超えて、ゲームがシーズン2に入ったからです。
一つの節目を超えたので、ここからは劇中設定を明かしつつ各キャラにスポットを当てた話も書く予定。