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十話

ガチ勢×ガチ勢!



 眩しさに閉じていた瞼をようやく開けると、そこはグレイスが想像していた通りの花咲く楽園が広がっていた。

 しばし感動に息を飲む。シルヴィアは、と隣を見ると、なぜか固まって前を向いて立ち尽くしていた。


「?」


 グレイスがそちらを見た。


 天空を舞う翼の生えた幼児――エンジェルが花を降らせている。透明な羽がついているのは妖精だろうか。聖書や絵本で見たものと同じだった。

 荘厳で穏やかな雰囲気……のはずなのに、エンジェルと妖精の間にあるものがぶち壊していた。


『祝! シルヴィアちゃん里帰り! グレイスちゃんいらっしゃい!』


 横断幕である。グレイスは見間違いかと目を擦り、もう一度見上げた。どう見ても横断幕だった。


「パパ! もう、グレイスもいるんだからちゃんとして!」

「パパ!?」


 光り輝きすぎて良く見えないが、それなりの長さのある横断幕を両手で広げているのがまさかの神だというのか。驚愕するグレイスに、シルヴィアは心底やるかたない表情でうなずいた。


「うん、パパ……。ごめんね、憧れ壊して」

『ひどいよシルヴィア。みんな待ってたんだよ!』


 予想外すぎるパパに呆然としていたグレイスだったが、天からの声に淑女の礼をとった。


「はじめまして、グレイスと申します。バーネットの家は捨てましたゆえ、グレイスとお呼びください」

『グレイス、我が娘によく仕えてくれた』


 パパにもそれなりの見栄があるのか娘の前だからか、まともな言葉が返ってきた。


「もったいないお言葉でございます」

『人の世ではさぞ生き辛かったであろう。困難の中、見事に愛し子との友諠を貫いた。その意気や良し、我らはそなたを歓迎しようぞ』

「あ……っ、ありがとうございます」


 神から直々に認められ、グレイスは感激のあまり涙ぐんだ。今までのすべてが報われた思いだった。

 その感激をだいなしにするのがパパである。天の国が揺れるほどの大声で宣言した。


『よーし! じゃあこれからシルヴィアとグレイスちゃんの歓迎会だ! 者共準備はいいかー!!』


 おー! と歓声があがり、パン、パパン、と光が色とりどりに輝いて弾けた。

 唖然とするグレイスと額を押さえたシルヴィアの前にテーブルがセットされ、ケーキや果物が次々と置かれていく。あれよあれよと座らせられていた。


「い、いいのかしら。私まで」

「……ごめん。好きにさせてあげて」


 シルヴィアが首を振った。娘が里帰りして張り切るのはもう仕方がないのだ。パパだもの。

 しかも今回は親友グレイスを伴っている。むしろもう地上に降ろさない気満々だろう。


 そうこうするうちに奇抜な衣装に身を包んだ一団が現れた。シルヴィアに向かって手を振っている。


「お嬢ー! やぁっと帰ってきたね!」

「姫様お久しぶりです!」

「ご無事のご帰還、お喜び申し上げる!」

「姫よ、我らも帰ってまいりましたぞ!」

「やったーお嬢だ!」


 精霊である。それぞれ眷属を引き連れての帰還にシルヴィアは苦笑した。このぶんでは聖女が使える精霊魔法はずいぶんしょぼいものになるだろう。


『精霊も帰ってきたし、もう地上なんて気にしなくてもいいかなー?』


 いいともー! 聖女に使われていた彼らはずいぶん鬱憤を溜めていたらしい。グレイスがシルヴィアを見る。シルヴィアは黙って首を振った。

 食べて飲んで騒いで夢見心地の祭りの開始だ。天の国に苦しみはない。ここは喜びに満ち溢れた世界。

 それでもやはり物足りなさを覚えていくのだろう。シルヴィアはふとそう予感した。自分も身を焦がすほどの恋がしたいと思ってしまった時、愛し子はパパから旅立つのだ。そう言えばパパが手放してくれないから表向き友達探しだが、愛し子にとって恋は遠い憧れだった。


『未練が残るのもアレだし、いっそのこと地上を滅ぼしちゃっていいかなー?』

「それはやめてパパ!」


 シルヴィアが叫んだ。地上を映す鏡にブシート山が噴火しているのが見える。やりすぎ! と怒るも、パパはしょんぼりするだけで反省していなかった。


「良い人もいるから! 男がみんなカインみたいなのじゃないから!」

「そうですわ。主よ、懸命に生きる人々に慈悲をお与え下さい!」

『えー……。じゃあ、カインのやつを困らせるだけにする』


 なんだか早くも地上に逃げたくなってきた。パパが娘のために全力すぎる。

 グレイスはカインを困らせるのには賛成らしく、目を輝かせた。


「あら、素敵ですわ! ちまちま嫌がらせしてやりましょう!」

『お、グレイスちゃん話がわかる!』

「もちろんですわ。シルヴィアを蔑ろにした男が王なんて! レオナ共々苦労すればいいのよ!」


 やばい。ただでさえやばいのにグレイスまでパパに加わった。燃え盛る炎に強風ではどこに飛び火するかわからない。本人だけならともかくとばっちりで国が亡んだりするからパパはやばいのだ。


「パパ、グレイスも落ち着いて。もうちょっと穏便にいきましょう!」


 どこへ行っても気苦労が絶えない。愛し子には、パパの愛が重すぎる!




これにて最終回です。お付き合いいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初から最後まで楽しく読めました!パパのキャラ濃すぎ笑
[一言] 心配症な方のパパならカイン王子をマッハ15でハレルヤパンチするところですが、なぜか赤い背広の方のダンディなパパで再生されます。 災害まで20年の猶予があって良かった…。愛し子と聖女の特性をは…
[良い点] 面白い物語を有り難うございます!!! [気になる点] ここの文章、神様がグレイスに向けて言っているようで少し文章が紛らわしい気がしました。 ↓↓↓ グレイスが目に涙を溜めてシルヴィアに縋…
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