(6)放課後の訓練①~魔法の自主練はいつもの場所で~
今日の授業もすべて終わり、これからは自由時間になります。これからは、楽しい放課後になる予定でしたが、あまりの体たらくな4人がいたため、急遽訓練に充てる事にします。
こんにちわ、ヒカリ=サギミヤです。
王立魔術学園に入学してから、初めての本格的な授業でした。まだすべての教科を受けたわけではありませんが、結構実戦向きな授業内容です。
「では、メーリア、テレサ。それからリョウコ、マナミ、コトリ、コウタ。いつもの部屋に行きますよ。特に、リョウコ、マナミ、コトリ、コウタの4人は、体力がなさすぎです。もう一度訓練のし直しですね。
では、行きましょうか。」
「はい。お手柔らかにね、ヒカリちゃん。」
リョウコが、嫌味たっぷりに返事をする。
「それは、あなた対次第ですよ。」
「あのう、ヒカリさ、いや、ヒカリちゃん?」
「何ですか?アイリーンさん?」
私たちが移動しようとしたところで、魔力をほとんど使い果たしたアイリーンさんが、重たい体を持ち上げて私たちの方を向きました。
「先ほど先生が仰っていた『魔力強化を使える者』とは、ヒカリちゃんたちではないでしょうか?」
「たぶんそうなりますが、それがどうしたというのですか?」
「昨日の自己紹介でもいいましたが、いま私は、空間魔法を勉強中です。」
「確かにそんな事を言っていましたね。『なかなか習得できない』とも。」
「はい。『恥も外聞のすべて捨てろ』とヒカリちゃんが言えば、今すぐにでもそんなくだらないモノは捨てて見せます。どうか、私の魔法の師匠になっていただけないでしょうか?」
「メーリアやテレサではなく、私でいいのですか?」
「はい。今よりも強くなれるのならば、たとえその者が奴隷であっても師事したいと思っています。」
私は、しばらく考えるふりをして、クラスメイト達を見渡します。すると、
「私もお願いします。」
「俺も!」
という風に、クラスメイト約10人がアイリーンさんに続いて頭を下げてきました。
「わかりました。では、今頭を下げている人たちの魔法を教えますね。ではいきましょうか。」
そう言うと、私は仲間の6人と頭を下げている人たちとともに一度教室に転移します。
「服装はそのままでいいので、荷物を持ってとある場所に行きましょう。」
教室に戻ったのは、ただ制服などの荷物を回収するためだけです。荷物の回収が終わると、『精神と〇の部屋』にあるお城の前に全員で転移します。
転移した広場は、いつも私とメーリア、テレサがこの部屋で利用している城の外。広場を挟んで城と対面するように3階建ての建物がある。
高台の上にあるこの広場の先には、広大な原野が広がっており、そのはるか先には、巨大な湖と、…をも貫かんとするほどの高さがある山脈が聳え立っていた。そして、この空間が、現実の世界とは違うと、はっきりと認識させているものが、真っ白な空だ。
「ヒカリちゃん、1ついいですか?」
「何?テレサ。」
「私、直接精神と〇の部屋の転移できるなんて初めて知ったんだけど。」
「ああ、そのこと。この空間は私が創ったのよ。創造者の私にだけの特権ね。」
呆れた顔で、テレサが納得しました。
さて、呆けた顔で固まっている皆さんに、この部屋の事を説明しないといけませんね。私は、両手を数回叩いて、皆の意識を覚醒させます。
「いま私たちがいる場所は、『精神と〇の部屋』という魔法や武術の訓練をするための部屋です。『室内での1日は、室外での10分』という効果の時間魔法が部屋に付与がかけてあるので、この部屋の中で6日間過ごしても現実時間は1時間しか経っていません。さらにこの部屋の中では歳を取る事はないので、思い切り魔法や武術の訓練が出来ます。
現在この部屋は、サギミヤ商会本店内と、冒険者ギルドカラン支部の方で有料で貸し出しています。利用料金は一応、外の時間準拠で1時間当たり1万テラ(金貨1枚)となっています。
今回ここにいるメンバー全員は、私の弟子という立場になりました。それで、時間を有効に活用するため、この部屋を使って訓練していくことになります。ここまでで何か質問はありますか?」
すると幾人かの手が上がった。
「では、まずは、リンカリド君でしたか、どうぞ。」
私は、虎人族の男の子を指名する。
「ではヒカリちゃん、基本的なことを質問します。この部屋には、ヒカリちゃんの弟子である俺たちは、いつでも利用する事は可能なのでしょうか?その時は、利用料金はかかるのでしょうか?」
「そのことは行っていませんでしたね。ここにいるみんなは、この部屋をいつでも利用する事は可能です。料金はもらいません。後ほどお伝えしますが、この部屋を利用するときは、学園の正面出入り口の横にある、『サギミヤ雑貨店ロンドリア営業所魔術学園出張所』という建物内に設置してある扉を潜る必要があります。その扉は、ここにいる人しか通る事ができませんので、仮にここにいる人以外の人が利用する際は、もちろん利用料金として1時間当たり1万テラいただくことになります。
マジは、扉を潜った際の事をお伝えしましょう。扉を潜ると、まず出る場所は、目の前の城ではなく、この広場を挟んで反対側にあるあの石造りの3階建ての建物になります。そして、皆さんには申し訳ないのですが、特殊な事情でこの城の中には立ち入りを禁止します。それだけはご容赦ください。士して、ある程度の実力がつくまでは、城と広場、そしてみなさんが寝泊まりする建物を囲む、結界の外に出ることも禁止します。」
「ヒカリちゃん、城の事はいいですが、なぜ結界の外に出てはいけないのですか?」
アイリーンさんが質問してきました。
「…そうですね。実際に見てもらったほうがいいですね。では、この部屋での宿泊所となる建物内に案内した後に、一度結界の外に出てみましょう。そうすれば、なぜ私が禁止したのかが解ると思います。」
そのほか、いろいろな質問に丁寧に答えた後、私は建物に案内する。
「1階には、いつでも利用可能な食堂とお風呂、それから図書館があります。図書館にある本は、この空間でのみ読むことが出来ます。外への持ち出しはできませんが、外から持ってきたノートなどに書き写した場合は、その内容まで消去されるという事はありません。」
そう言いながら私は、食堂、お風呂の順に案内し、図書館の扉を開ける。図書館の中は、巨大な円筒状の空間になっていた。現在いる場所が最上階らしく、中央にある吹き抜けを除くと、遥か下まで空間が続いていることが確認できた。
「見ての通り室内の構造は、壁際に本棚があり、吹き抜け側に閲覧するための机と椅子がある構造です。この図書館には、すべての知識が本というソースで納められています。地下20階までは誰でも利用できますが、それ以上下に降りる場合は、それなりの力量と私の許可がいります。
ここの説明はこれくらいでいいでしょう。2階と3階は、みなさんがここを利用する際に寝泊まりする部屋になります。一応、男子が2階、女子が3階となっていますが、同じ構造の部屋ですので好きな部屋をお使いください。ではまずは、荷物を部屋に置いてきてください。そのあとは、早速訓練を始めたいと思います。汚れますので、服装は体操着のままでいいですよ。」
私も含めた全員が、4時間目の体術実習の時から体操着のままだ。再び全員が集合場所にした食堂に集まると、まずは腹ごしらえをする。損後、一度結界の外へと案内した。
結界の外の世界は混沌としていた。結界の出入り口となっている、高台へと続く階段の下にある門扉の無い門。その門から1キロほど歩いただけで、いきなりテラテクスの群れに襲われたのだ。20匹ほどいた群れは、メーリアとテレサの恰好の訓練相手となり、10分ほどで屍と化していた。
広場に戻ると、私はこう言った。
「結界の外側には、先ほどの光景が延々と続いています。今のあなたたちでは、1日も持たずに全滅してしまうでしょう。なので、私が許可するまでは、絶対に結界の外には出ないように。さっきはまだここから近い場所までしか行きませんでしたが、この空間はとてつもなく広大です。また、日々広がり続けています。
では、早速訓練を始めましょう。まずは、外の世界で先生に出された課題を解決しましょうか。」
「はい、よろしくお願いします。」
「まずは、すべての回復魔法と、身体強化をものにしてしまいましょう。アイリーンさん、空間魔法の方は、少し待ってください。」
「わかってますわ。ここに来なかったクラスメイト達に、恥をかかせてあげましょう。」
ひとしきり笑ったところで身体強化の訓練に入る。
「身体強化の訓練も大事ですが、その前に、みんなの体力があまりにもないのも問題です。とりあえず、そちらから何とかしていきましょう。時間はたっぷりとありますからね。まずは、この広場とお城を合わせた外周を50周してきてください。距離としては、約4キロ前後あります。目標は、50周を10時間以内で。それでは、初め!」
そう言うと、私も一緒に走ります。
10時間後、広場には大の字になった私たちが寝転がっています。全員汗だくで息も切れ切れ、脱水症状に掛かっています。私は、自分自身に『清浄』と『大回復』をかける。大回復をかけたのは、状態異常である脱水症状も回復するからだ。『単純回復』は、体力のみを回復させる魔法なのでこの場合は適切ではないのだ。
「今日の訓練は、これで終了とします。明日の訓練は、室内時間で朝食後8時よりこの広場で行います。明日の訓練も、学園の体操着で行いますので、それぞれが清浄の魔法で綺麗にしておいてください。それでは、明日まで今日の疲れを残さないように、大回復をかけてゆっくりと就寝してください。」
とりあえず今日は、室内時間で午後6時を回っているので、訓練は終了とした。一応、『精神と〇の部屋』の中にも、昼と夜の区別がつけられている。昼間は真っ白な空だが、夜間は星1つない真っ暗闇になるのだ。一応満ち欠けする月は浮かんでいるが…。




