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(旧) 逃亡奴隷少女、拾いました……  作者: しゅんかしゅうとう
第2章:4人の旅出
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第53話:姉妹

夕食にはまだ早い時間なのですがカノン様とアネモネが食堂へ向かう事で席を外して下さり、私とパンジーが宿屋の部屋に残されました。ロイド男爵邸を出奔して以降、初めてパンジーと話し合える機会を持つ事が出来たのです。


「コスモス」

パンジーが甘えた声を出します。この子は小さな頃から戦闘奴隷の訓練を受けていたせいか、どこか男の子の様なぶっきら棒な話し方をしますが、本当は甘えん坊さんなのです。


「はい、パンジー。何でしょう?」

洗い桶に『ヤギの第5胃』から水を注ぎながら私は答えます。ホコリと汗と、そしてわずかに残った血を、この可愛い小さな妹から洗い落としてあげなければなりません。


「コスモスはどうして私を捨てて邸を逃げたの?」

「!」

ああ、そうだったのですか。パンジーは私に捨てられたと感じていたのですね。

そうでは無いのですよ、今まで有った事をきちんと1つずつ説明しますね。


ロイドJr坊ちゃまの種付けを受け入れられずに拒否したこと。

怒った坊ちゃまが家畜用のトゲムチで私の肉をえぐり取ったこと。

死を覚悟して湖に身を投げたこと。

1度は死んだ私をカノン様が拾って下さり、再び命を吹き込んで下さった事。

カノン様は私を大切に思って下さり、妻に迎えてくれると仰ったこと。


そして、決してパンジーを忘れた事は無かったこと。


「コスモスは女の人と結婚するの?」

「え?どう言う意味ですか?」

「コスモスとカノンって人は、女同士で結婚するの?と聞いている」


私はふっと笑ってしまいました。

カノン様は本当にお美しい。ご自分では自覚なさっておられないようですが、陶器の様な白い肌に紅を指したような唇は、人の眼を惹いて離しません。


「パンジー。カノン様は男性です。旅をするのに不具合が無い様、あえて女性の様な服装をなさっているだけなんです」

「よかった。てっきりコスモスが魔宝で男になって、女の人と結婚するのかと考えちゃった」


流石にその発想はありませんでした。私はカノン様の妻になるのです。私が男性化しカノン様が女性化して、私がカノン様の夫になる等そんな夢想をする等これっぽっちも・・・これっぽっちも・・・


姉妹2人で一緒に体を洗えるように、3つの洗い桶全部に水を貯めました。これを魔宝でお湯に暖めます。

「古の火の精霊に願い奉る。洗い湯の中に、小さき灯火を与えよ」


体を洗うのに2つの洗い桶、3つ目の洗い桶は髪の毛用にきれいなまま残しておきます。

石鹸と洗い布、タオルを用意します。

「さぁ、パンジー。服を脱いでくださいね。身体を洗います」


「うん、コスモス」


私が革靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、上掛けにしているワンピースを脱いでコット姿になった時には、パンジーは既に全裸でした。

パンジーが身に付けているのは麻布とシャツとズボンだけです。私も昔はそうでしたね。

私がコットを脱ぐ姿を、パンジーは珍しそうに見ていました。コットを脱ぐと、カノン様に縫って頂いた胸当てとショーツだけの姿です。この様な下着は、パンジーは見た事が無いでしょう。私も胸当てを取りショーツも脱いで全裸になりました。


2人で一緒に、2つ並んだ洗い桶に体を入れます。

パンジーに石鹸をたっぷりと付けた洗い布を渡します。私も石鹸を付けた洗い布を持ち、自分の身体を洗ってパンジーに手本を見せます。


「パンジー、背中を洗ってあげます。背中をこちらに向けて下さい」

パンジーが私に背中を向けます。私は石鹸の付いた洗い布で、可愛い妹の背中をゴシゴシこすります。

あぁ、やはり。

アネモネは本当に強力な魔宝使いなのですね。

パンジーは気が付いていないようですが、彼女の右肩には焼印も火傷も何もありません。綺麗な白い肌があるだけです。

ロイド男爵の火炎魔宝の焼印を、アネモネの生魔宝が上書きしたのでしょう。私の焼印を、カノン様が聖魔宝で上書きして下さったように。


「パンジー」

「何、コスモス?」

「今度は貴女が私の背中を洗って下さい」

「うん」


私の裸の背中を見た時、焼印の無い私の右肩を見た時、パンジーはどれ程驚くことでしょう。

そして、パンジーの右肩の焼印もきれいに消えていると言ったなら、彼女はどんな反応をするのでしょうね。


 ===


身体も髪も洗い清めたパンジーに、私のショーツを1枚貸します。パンジーに胸当てはまだ早いようです。

私もショーツを履いて、胸当てをつけます。

次に長ズボンをはきます。私は自分用の物を、パンジーには以前カノン様用に以前作ったコットン生地のズボンを貸します。

そしてその上から下着用膝丈ワンピースのコットを着ます。私は勿論自分用を、パンジーにはカノン様用のをお借りします。


「パンジー、後ろを向いて下さい」

「うん」


パンジーが着るコットのウエスト部分のリボンを背中で結んであげます。

リボンを結ぶと、今度は正面を向かせ、胸元のボタンを留めてあげます。

パンジーはレースやらリボンやらが付いた服を着るのは初めてです。とても嬉しそうです。


「ねぇ、コスモス。どう?、似合ってる?」

「はい、パンジー。とても可愛らしいですよ」


パンジーに靴下を履かせて、彼女が靴を持っていない事に気がつきました。

少し考えて私用の半袖ワンピースを着せ、靴下を履かせます。私が着て膝下丈なので、私より背の低いパンジーが着れば足元も目立ちにくくなるでしょう。

パンジーにはシルクのショールも貸しました。

私はまだ少し季節が早いですが、ノースリーブのワンピースを上掛けに着ます。この上からローブを羽織るので、これで大丈夫です。


最初にカノン様に服を買っていただいた時、3着もまとめて買うなど贅沢だと思いましたが、今はそれでよかったと思えます。

アネモネの看病をしていて手当てする毎に服を着替えていた時、今の様に誰かに服を1着貸す必要が出来た時、服が3着無いと足りなくなってしまいます。


「ねぇ、コスモス?」

「何ですか?パンジー」


「私の刻印、本当に今は封じられているの?」

「はい。魔宝布の服を着ているので、そのはずです」


「背中の焼印は消えているんだよね」

「はい。”火傷の傷”としての焼印は、先ほどのアネモネの生魔宝で治っています。でもおそらく、魂に刻まれた『奴属の刻印』は消えていないと思います」


「コスモスはどうやって刻印を消したの?」

ストレートに聞かれ、少しだけ赤くなってしまいました。

「カノン様に、刻印を上書きして頂いたのです」


「わ、私も上書きしてもらえるかな?」

「刻印を上書きするには、お互いを大切に思い合っていないとできません」


「そうなんだ・・・」

「でも、時間はあります。パンジーがカノン様を知る時間、カノン様がパンジーを知る時間、少なくとも20日位は大丈夫なのでしょう?」


「うん。貨幣が無くなったら帰って来いと”命じられている”。まだ、貨幣が21枚、21日分残っているから大丈夫」

「そう。よかった」


「ねぇ、コスモス」

「何?、パンジー」


「ギュとして、いい?」

「いいわよ。私もパンジーをギュッとしたいわ」


清楚なワンピースに身を包んだパンジーを、私は固く抱きしめました。


そして私は考えます。

カノン様の手で魔宝糸処理をした服をパンジーに着せてしまいました。ロイド男爵様は隷属の音連れが途絶えたことを感知なさっている事でしょう。

最速で明日の朝に追手が差し向けられたとして、明後日の夕方にはこの町に到着いたします。

パンジーの刻印を上書きするのに残された時間は、貨幣を使いきる21日ではなく、明日の夜までと考えるべきでしょう。覚悟も準備もしていましたが、追手が来る明後日早朝にはこの町を出立していないと危険だと思われます。

つまりは、『誠実の刻印』を刻むには、時間的に間に合いません。パンジーがどれだけ抵抗しようとパンジーの体がそこまで成長していなくても、カノン様にはパンジーに『種族の刻印』を刻んで頂けなければならなくなってしまったのです。


一方で種族の刻印に対し、不安にもなります。こうして身奇麗にしたパンジーの背丈格好は、その茶色の髪も少年の様に短くカットされた髪も、接触テレパスで垣間見たカノン様の婚約者様に良く似ているように思えてならないのです。


責任感の強いカノン様の事で御座います。『種族の刻印』を刻んだパンジーをカノン様が慈しみ愛でるのは間違い無い事でしょう。

そして又、それを苦しいと感じてしまっている自分が居るのも、事実なので御座います。


 ===


カイン王国首都防衛軍特務のカンターク教司教クルス・フォン・ワイマール子爵は単騎歩みを進め、ついにカノンたちの居るカールスの町にたどり着いた。

途中、探査の為のソナー魔宝を使いながらの移動だったため、思いの外、町到着までに時間がかかってしまったのである。


闇の空間魔宝を用い、先日入手したインディーナ石はスンスール・ズィンセイ・フォン・カイネ大公殿下にお届けしてある。

ズィンセイ殿下はこのインディーナ石に大層興味を持たれ、聖魔宝の使い手の探索と共に、石の元の持ち主も調査するよう仰せつかっている。

2つの調査を1人で行わなければならないが、止むを得まい。

なぜなら、風と闇の使い手である自分に付いてこられる人間も馬も存在しないからだ。

自分の機動力を殺してまで部下を伴うよりも、このような任務の場合は単騎で移動し、先々で人を雇ったほうが速い。

また、その為の費用も権限も大公殿下より潤沢に与えられている。先日のインディーナ石の落札費用もそこから出している。


インディーナ石の出品者であるドージ・アソシンもこの町で店を構えていると聞いた。まずは情報収集として、彼の店を訪ねるとしようか。

その後、この町を治めるカイエム・フォン・クロン子爵の下へ立ち寄ろう。平原と森の境にあるこの辺境の町はそれ程大きくないため、伯爵ではなく子爵が治めている。

大公の命として、子爵に人手の手配を頼むことにしよう。


当初下記の様なプロットを考えていました。



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