第49話:ワンピース
コスモスが部屋に戻った時、コットを仕上げ終えたボクはアネモネと2人でベッドでの上で抱き合い横になっていた。
でも、そんなボク等の様子を見ても、コスモスはもう動揺したりはしない。
先ほどのボクとアネモネのやり取りは、遠隔テレパスでコスモスに届いている。
ボクがアネモネにプロポーズした事も、アネモネがそれを受け入れた事も、そしてボクのこの国の1番がコスモスで有る事も、全てコスモスに届いている。
ボクとアネモネと言う2人の強力なテレパシストが肌を触れ合わせていたのだ。心が通い合っているコスモスには何もせずともテレパスが届いてしまう。
(一概に良い事ばかりではない。伝えたくはなかったアネモネの「初めての時」も全てコスモスには伝わってしまい、泣かせてしまったのだから)
繰り返すけどボクにとってこの国の1番目の妻はコスモスで、2番目の妻がアネモネだ。ボクのその気持ちが正確に届いているので、コスモスもボクを信じてくれるのだ。
念の為に書くけれど、コスモスにとって重要なのは”1番目”ではなく”妻”の所だ。
勿論、今のままではコスモスと結婚どころか、奴隷法上は所有権の主張も出来ないことはわかっている。しかしボクの心の中でコスモスは、交配奴隷でも愛玩奴隷でも愛妾でもなく、ボクの妻なのだ。
今までに何度もコスモスにそう言って来たけれど、彼女は”妻”と言うボクの言葉を受け入れてくれなかった。
そして今、コスモスの心はこの時のままなのであろうか?
テレパス同士だからこそ、きちんと言葉にしなければいけない事もあるんだ。
ボクは身体を起こしてベッドに腰掛ける。アネモネも、ボクの右側に腰を掛ける。ボクはアネモネを抱きしめて、コスモスの顔を見ずに声を掛けた。
『コスモス』
「はい、カノン様」
コスモスが返事を返す。少し声が震えている様だが気のせいか?
アネモネは黙ってボクに抱きしめられている。
『コスモス』
もう一度声を掛ける。
「はい」
コスモスの返事の声がやはり硬い。
ボクがアネモネを抱きしめたまま、顔を向けないのが気になっているのだろう。
大丈夫、こんな頼りないボクだけど、コスモスを不安がらせるような事はこれが最後にするよ。
『ボクは先ほどアネモネにプロポーズして、アネモネもそれを受け入れてくれました』
「はい。私は2番目の妻として、カノン様にお尽くしいたします」
抱き合ったアネモネがボクに、コスモスに、はっきりと言葉で言う。
『コスモス。貴女にはボク達2人の婚姻の証人になってもらいます』
「・・・」
『コスモス?』
「・・・は、はい」
『よく見て覚えておいて下さいね。アネモネとの婚姻の儀が終われば、次は貴女の番なのですから』
「・・・!」
『コスモスを証人にしてアネモネとの婚姻の儀を済ませた後、アネモネを証人にししてコスモスとの婚姻の儀を行います。ボクのプロポーズ、受け入れて下さいますね?』
「は、はいっ、カノン様」
これから結婚しようとするアネモネを抱きしめながら、顔も見ずにコスモスに対してプロポーズをしてしまった。
でも、アネモネもコスモスも許してくれるよね。
『これからボクはアネモネと婚姻の誓約を行います。コスモスはその証人として黙って見届けてください。』
アネモネを抱きしめたまま、相変わらずコスモスを見ずに言う。
「はい」
コスモスが素直に答えてくれた。
『今はアネモネとの婚姻の最中です。だから今だけはアネモネ以外の女性が眼に入らないのです』
ボクがぎゅっとアネモネを抱きしめる。アネモネもそれに答えてくれる。
『アネモネ』
「はい」
『これからボクが1つだけ質問をします』
「はい」
『回答が”YES”ならボクに口付けを、”NO”ならボクの腕を振りほどいて離れて下さい』
「・・・」
『わかりましたね?』
「は、はい」
『私カノン・トーゴーはアネモネ・トリフォリアを妻とし、魔宝石の最後の1石が尽きるその時まで共に歩むことを七属性の精霊に誓います』
「・・・」
『アネモネ・トリフォリアはボクの精霊への誓約を受け入れますか?受け入れるなら口づけを。受け入れぬなら腕を振り・・・うわっ!!』
合意の印として、アネモネ・トリフォリアがボクにキスをしてそのままベッドに押し倒してきた。
これでいい。
これで、アネモネの魂の称号は”星崩しの妻”に書き換えられたはずだ。
法的には未成年のボクは婚姻できないけれど、精霊的には婚姻の誓約が成立している。
魔宝精霊的に、今、この時からアネモネはアネモネ・トリフォリア・トーゴーになったんだ。
『アネモネ。ボクと結婚してくれてありがとう。あわただしくて申し訳ありませんが、今度はコスモスとの婚姻の儀の証人になって頂けませんか?』
「・・・はい、勿論で御座います。カノン様」
こうしてコスモスとアネモネは、魔宝精霊的に正式にコスモス・トーゴー、及びアネモネ・トリフォリア・トーゴーとなった。
いつかのコスモスの言葉を思いだす。
「ネークと子ヤギが仲良く暮らせるとしたのなら、それはネークの御慈悲あっての事です。子ヤギがソレを忘れることはありません」
あの時どれ程の気持ちを持って、彼女はこの言葉を言ったのだろう?コスモスにそう尋ねたら「奴隷にとって、夢を見る事は罪でしたから」と、答えてくれた。
でも、もう夢ではない。
魔宝使いにとって絶対の存在で有る七属性に誓い、コスモスとアネモネはカノン・トーゴーの妻となったのだ。
コスモスと出会って20日弱、アネモネと出会って10日弱で2人を妻に迎えてしまっている自分の節操の無さには、いささか残念な物を感じてしまう。
でも、1つ言わせて貰いたい。こう言うのは時間では無いと思う。
『ローマの休日』は出会いから別れまでほんの3日間、『ロミオとジュリエット』も出会ってから自殺するまで、わずか5日の出来事なのだから。
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2人合わせてても10分に満たない婚礼の儀を済ませ、ボク等3人は魔宝精霊的に正式な”家族”となった。
法的に正式に結婚するのは、ボクとコスモスが15才の成人を迎える2年後になってしまうけれど、魔宝使いであるボク等3人の間では魔宝精霊との誓約が優先されるので問題ないだろう。
3人が家族になって最初の共同作業だ。
コスモスが買ってきたアネモネ用の服などを机の上に広げる。
150cmの薄紅の長袖ワンピースが1着、150cmの紺の長ズボンが1本、そしてハンティングナイフ、そして紐付きの皮袋だ。
「服はアネモネが後で自分で選べるよう、1着だけ買ってきました。下着や靴下は、当面は私のを半分差し上げますので使って下さい。ナイフは食事の時必要になります。皮袋は、魔宝石を入れて首から下げられるものを選んできました」
アネモネが礼を言う。
「コスモス、色々ありがとう御座います」
「いいえ。もう家族なのです。当然の事です」
ボクもワンピースを手に取って確かめる。
うん、ボクの好みが淡い色で有る事を分かっているのだろう、アネモネに似合う可愛い色だ。(例え汚れが目立つとしても、今までも淡い色の生地ばかり買ってきた)
そして生地も厚手で柔らかくていい糸で織られている。これなら、アネモネの身体のラインに合わせて手直ししても下品な印象は与えないだろう。
早速、アネモネ用のワンピースの修正に取り掛かる。
この国の平民用の服はどんな体型の人にでも着られるよう作られているので、全てウエスト周りがゆったりとしたデザインだ。スタイルが気に入らないだけならいいのだけれど、風にはためいて体から布が離れてしまうデザインのままだと魔宝布の効果が生かせなくなる。
だから魔宝糸で魔宝陣を刺繍するだけでなく、ボディラインに合わせた仕立て直しが必要になってくるのだ。
アネモネにはまだ革靴を買っていない。
以前コスモスの為に作った布靴は魔宝糸仕込みなので、魔宝効果でアネモネの足にも合うだろう。だから革靴を作るまではソレを借りることにしよう。
それならば、このワンピースも1着だけは靴が隠れる様に踝丈に仕上げよう。
ボクが上掛けワンピースの手直しをしていると、アネモネが声を潜めてコスモスに何か相談している。アネモネはテレパスの自覚が薄いのか、せっかく声を潜めているのにボクの心に届いてしまう。
「コスモス・・・えーと・・・婦人用の詰め物があればお貸し頂きたいのですが・・・もうそろそろ来るハズなのです」
「詰め物?、ですか??」
どうやらコスモスには通じていないようだ。
ボクが彼女には詰め物を教えていないからだろう。詰め物の使い方をボクが教える事が出来なかった為、コスモスは当て布しか使ったことが無い。仕方無い。あまり男性が口出しする話題ではないがボクがフォローする。
『コスモス。貴女のポーチに薬屋で買った紐の付いたコットンの塊りが入れてありますね。それの事です』
「まぁ、あれがそうなのですか。で、カノン様、どの様に使うのですか?」
コスモスはイノセントである。邪気が無いから恐ろしい。アネモネもボクも顔が真っ赤になってしまう。
『使い方は、ボクの居ない所でアネモネに聞いてください』
今後、ロイド男爵の手を逃れて宿屋暮らしや野宿を続ける場合、3人で1つの部屋で暮らす事となる。女子2人だけで話したかったであろう今回みたいな話題の為に、ボクが2人に対し、積極的にプライベートな時間や空間を作る様にしないとダメなのだろう。
不思議だ、コスモスと2人森の中を歩いていた時はこんな事考えもしなかったのに。多分アネモネと2人きりの場合でも、気にはならなかったと思う。
アネモネが加わって3人になった事で、ボク等の関係はやはり変化してきている。2人の時は「2人だけの秘密」で閉じ込める事ができた様々な事柄が、3人だとそう言う訳には行かなくなる。果たしてボクに、第1夫人だとか第2夫人だとか、そんな度量があるのだろうか?
そうこうお喋りしている内に、アネモネのワンピースを仕立て終わる。
ファスナーが無いので1人では絶対に着る事も脱ぐことも出来ない、禁断の背中開きボタン止めワンピースだ。でも、彼女の美しいバストラインを生かすにはこのスタイルが最善なのである。後で買う他のワンピースは首からウエストまでの前開きにする予定だけど、この踝丈のワンピースだけは、アネモネのスタイルを引き立たせるデザインにしたかったんだ。
そして、アネモネの胸がかなり大きい為に、前身ごろをバストトップにあわせて立体裁断をすると後ろ見ごろと大きく丈が変わってしまう。
結局、当初はスソあげはしない予定だったのだが、前身ごろに合わせて若干後ろ見ごろの丈を短くしなければならなくなってしまった。
もっとも太目の人が着てスソをする位の丈が有ったので、仕立て直したワンピースはちょうどアネモネのくるぶし丈になっていた。きちっと現された胸のライン、細いウエスト、そのウエストからフレアスカートの様に広がる厚みがあって柔らかなコットン生地の裾。アネモネは胸に比べ、腰周りの寸法は女性らしさにやや欠けるが、このデザインだと気にならない。
胸が大きいせいか、それともボクやコスモスより身長が有るせいか、アネモネのワンピースは考えていた以上に大人っぽく仕立てあがった。
それならば、と白のシルク生地でコサージュも作る。
(勿論、コスモス用も作る。アネモネ用はよくあるバラのデザイン、コスモス用のは一寸凝って秋桜の花弁が幾重にも重なったデザインにした)
(ほ、欲しくなんか無かったのだけど自分用のも作る。小さな牡丹の蕾が3つ寄り添ってどれも花開いていない、そんなボク等3人を象徴したようなデザインの物)
早く紅花か黄花が入荷しないかなぁ、コサージュもきれいに染められるのに。
さっそく仕上がったデザインワンピースをアネモネに着てもらう。背中のボタンを留めるのは夫であるボクの仕事だ。(当然だが脱がすのもボクの仕事)
当たり前だけど、アネモネの身体に合わせた1品物だから良く似合っている。
コスモスから布靴を借り、コットの上からワンピースを着て立つアネモネの姿は、とても美しかった。
『コスモスもアネモネの隣に立って、ボクにその姿を見せて下さい』
「はい」
150cmの美人で金髪ストレートな長髪でスレンダーボディに似合わぬ程大きな胸のアネモネのを彩るのは薄紅色の長袖のくるぶし丈ワンピースだ。その隣に、140cmの美人で赤毛の少しクセッ毛な長髪でスレンダーボディに慎ましやかな胸をしたコスモスが並んで立つ。コスモスも薄紅色の長袖膝下丈ワンピースで、足元に少し黒のスリムズボンが覗くのがアクセントになっている。
そして、胸元を飾る純白のコサージュとレースの飾りも、2人の美しさ可愛らしさを引き立てている。
そうだ。今度魔宝糸と羊毛の混紡糸を作ったら、聖銀入りのニットのネックレスを作って2人にプレゼントしよう、そう考える。
そしてボクも男だからね、こんな美人が2人、ボクの事を好いてくれる事を心から誇らしく思ってしまう。
『こんな綺麗な2人がボクの妻だなんて、本当に嬉しいです』
でも2人の反応は鈍い。何だろう、取って付けた様なお世辞に聞こえてしまったのだろうか?
2人は微妙な顔をして顔を見合わせた。そして声をそろえて言う。
「「ですが3人一緒にいる時に、最初に周囲から目を引かれるのはおそらくカノン様だと思います」」




