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(旧) 逃亡奴隷少女、拾いました……  作者: しゅんかしゅうとう
第2章:4人の旅出
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第43話:感染

前回投稿した話に対し、加筆修正を致しました。

加筆は主に、宝石商ドージ・アソシンの部位です。

右前腕の包帯を外して傷を3人で確認する。

変な言葉だけど、思った通り思った以上に状態が悪い。見ただけで分かる。

垂れ下がった皮膚と、右前腕上面の膿のように爛れた部位を、『絶縁の(ナイフ)』で削ぎ取る。削ぎとった細胞組織は汚物焼却用の桶に入れる。

既に神経が死んでいるのだろう、この程度では痛くないようだ。


さぁ、やるか。

舌をかまないよう、アネモネにタオルを噛ませる。

ボクが全力のESPでアネモネの右腕を固定する。

その固定した右前腕を、酸を浸したコットンでコスモスが拭く。暴れるアネモネの身体をボクのESPが押さえつける。

酸洗浄が済んだら、ESPで右腕を桶の上に誘導し、流水で酸を洗い流す。

そして今度は蒸留酒で傷口を洗う。

海老反るアネモネの体を強引にESPで押さえ込む。


最後に保湿コンディショナーを塗り、魔宝布をあてがい、新しい包帯で固定した。

アネモネはあまりの苦痛に失禁脱糞し、気絶していた。


ESPの使いすぎで疲れてはいたが、早急に彼女の股間を清めなければならない。彼女の糞便は菌に汚染されている可能性が高いからだ。

アネモネの身体を洗った時に交換したばかりのオムツの下に、防水オムツシートを敷く。


オムツを広げて注意深く観察する。腸も正常に働いているようだ、それ程の軟便でも無いし血が混ざっている様子も無い。出血性大腸菌が腸に感染してはいないようだ。ほっとする。


「コスモス。便がゆるい時は、ココとかココとかもしっかりふき取って下さいね」

濡れコットンを手に持って、色々汚れの取りにくい場所をコスモスに1つずつ説明する。時には押し広げ、時にはコットンを指先に巻いて深く差し込んで、慎重に菌と便を拭き取っていく。

いつまでも男性のボクがお世話をするわけには行かない、次からはコスモスにがんばってもらうのだから、しっかりと覚えてもらわないとならない。


そして、思わぬところで役に立ったのが物がある。それは、以前1膳だけ作った箸である。

汚染された排泄物の中から、アネモネの魔宝石2石を取り出す事に成功したのだ。


回収できた魔宝石2石は水洗い・煮沸消毒した後に、アルム石水とアルコールで更なる殺菌を図った。

魔宝石をアネモネに返した時に、万が一彼女が錯乱し、魔宝石を飲み込む可能性が有る事を考慮しない訳にはいかないからだ。


まぁ、現時点ではアネモネの治療は順調だと判断してもいいだろう。

一番恐れていた内蔵への感染は今の所大丈夫のようだ。排便も排尿も正常に出来ているし、便の様子に異常はない。

頭部の火傷は彼女から目と耳と金髪と美貌を奪い去ったが、死に直結するような状態では無さそうだ。

一番ひどい右上腕部も、今回ある程度腐敗部分をこそげ落とし、酸とアルコールで消毒が出来た。

気絶するほどの苦痛をアネモネに与えてしまったが、今は呼吸や脈に乱れも無く体温も正常だ。

懸案事項の1つでもあった腸内の魔宝石も回収できた。菌で体力が奪われている今、腸閉塞を併発していたら助からなかっただろうから。


うん、アネモネが体力を回復しさえすれば、治療も次の段階へ進める。

順調だ。

そう、順調な・ん?...体が...ESPを使い...過ぎた...か?


「カノン様?、カノン様ぁっ!!」


遠ざかる意識の中、コスモスの声だけが耳に届いていた。


大丈夫だよ、コスモス、心配しないで。

ボクは感染なんてしていないから。

少しだけ休めば、きっと元気になるから。


 ===


結論から言うと、カノンが倒れたのは睡眠不足とESPの使い過ぎによる過労の為だった。

保菌者と口腔接触をしているので本来であれば感染してもおかしくは無いのだが、身にまとった魔宝衣が「菌の侵入を物理攻撃と判断」し、それを遮断していたのである。

でも、その様な事はカノンには、ましてやコスモスには分かろうはずも無い。

(※ 良い子のみんなは危ないので、魔宝の服を着ていない時にO157とかの病原性大腸菌の保菌者と口移しとかしてはいけないよ!約束だよ!)


コスモスはカノンをベッドに寝かせて全裸にし、その身体を酸とアルコールで丁寧に拭いた。

それから煮沸消毒した服や下着を着せ、カノンの身体を『魔宝師のローブ』で包む。

「身体を清浄にして菌の進入を防ぎ、魔宝衣の治療効果に期待する」カノンがアネモネに対して行った治療と、同じ事をしたのだ。


コスモスはじっと考える。今までにカノンがアネモネに行った治療を、なるべく正確に思い出そうとする。


あぁ、落ち着いて良く考えるのよ、コスモス。カノン様はどの様な治療をアネモネになさっていた?


火傷に対しての治療は...コンディショナー塗布と魔宝衣での保護。カノン様は火傷を負っていないから、この治療は不要ね。

そして化膿部の治療は...酸とアルコールでの殺菌後、コンディショナーを塗布し魔宝衣で保護。これもカノン様は化膿部が無いから不要ね。

菌の作り出す毒に対する治療は、魔宝衣で毒の発生を抑えるのと、口移しによる充分な水分の供給、これが必要なんだわ。


カノン様には、殺菌した魔宝衣をお着せして、『魔宝師のローブ』で包んである。

なら、あとは水分補給ね。

でもどうやって行おう?

口移しで水分補給をして自分までが感染し倒れてしまった場合、カノン様を看病できる人間が居なくなる。それだけはダメだ。

では吸い口を使って、口に水を流し込む?、肺に水が流れ込んで肺炎(?)とか言う病気を併発したら助からない、確かそうカノン様が仰っていた。それもダメだ。

あぁぁ、いったいどうすれば...


・・コスモス・・


ベッドに横たわるカノンから、弱弱しいテレパスが届く。


(カノン様!!)


すぐにコスモスがベッドに駆け寄り、カノンの身体をローブごと抱きしめる。

接触テレパスでカノンの体力が消耗しないよう、少しでも接触面積を大きくするためだ。


・・少し休めば、すぐ元気になります・・


(カノン様!)


・・私は感染などしていません・・


(はいっ、カノン様)


・・でも念のため、私に口移しをするのは禁じます・・


(あぁ...カノン様!!)


・・私の手当てをした後は、コスモスの手を石鹸洗浄とアルコール洗浄して下さい・・


(カノン様・・・)


・・咽が渇いた時は、木綿の布をコップの水に浸し、その滴る雫を口の中に下さい。ボクもアネモネも、その程度なら飲めるはずです・・


(...!!)


・・大丈夫です。すぐ元気になります・・


(...)


・・コスモス?・・


(...)


・・コスモス??・・


意を決して、コスモスがカノンに心を伝える。

多少のリスクなど、カノンを失う事に比べたら何でもない。

今のコスモスにとって、カノンの存在は生きる意味その物であったからだ。


(カノン様、私の身体をお使い下さい)


・・コスモス、ダメです・・


(私の身体をお使い下さい!)


・・貴女の体の中はまだ、初夜の裂傷が残っているのではないですか?、傷を負った粘膜での接触は感染のリスクが高くなります。それに妊娠のリスクもあります・・


(しかし、カノン様は魔宝石と私の身体を使えば、聖の蘇生魔宝がお使いになれます。そうすれば、仮に私に感染したとしても蘇生魔宝で完癒致します)


・・コスモスと聖の精霊様との繋がりは非常に細い物なので、必ずしも蘇生魔宝が使えるとは限りません。その行為は、単にコスモスへの感染リスクを高めるだけの可能性があります・・


(...)


・・それに万が一妊娠したら、当然ですが蘇生魔宝は何の意味も持たないのですよ・・


(で、では、いかがすれば...)


・・最後の手段は、それはコスモスが想像している通りの方法です・・


(...)


・・アネモネは、生の精霊と強く繋がっています。彼女が生のサファイヤを持っているのがその証拠です・・


(カノン様は、私よりアネモネを選ばれるのですか?)


・・はい。でもそれは愛情の差ではありません。持っている魔宝属性の差です・・


(カノン様は、私よりアネモネを選ばれるのですね。彼女はファミリーネームを持った立派な自由市民です。カノン様とお似合いです)


・・コスモス。何を誤解しているのですか?・・


(それに彼女はおそらくデュアルコア持ちです)


・・デュアルコア持ち??・・


(2つの魔宝石を持って産まれた奇跡の存在と言われる魔宝使いの事です)


・・普通の2石の魔宝石を持つ魔宝使いとは何が違うのですか?、だってコスモスも魔宝石を2石持っていますよね?・・


(魔宝石は、持って産まれて来た石の持ち主に占有の刻印が刻まれており、他の人には使えません。でも、故人が使っていた魔宝石は占有が解けるので、他の魔宝使いにも使えるようになります)


・・はい・・


(しかし他人の石では、その能力を100%引き出せる訳ではありません。デュアルコア持ちは生まれながらに2つの石を持っており、2系統の魔宝で100%の力を発揮できるのです。魔宝使い奴隷としての教育を受けてきた私が聞き及ぶ限り、そのような人間はこの数百年の間、ロイド家の御始祖様しか誕生しておりません)


・・コスモス・・


(カノン様が元の世界に戻られる為には、カノン様に匹敵する魔宝を持ち、かつカノン様と感応できる魔宝使いが必要だと仰っておりましたね。アネモネがその人なのかもしれませんね)


・・コスモス、話を聞きなさい・・


(はい、カノン様。私は貴方様の忠実な下部で御座います。何で御座いましょうか?)


・・ボクは今疲れているので少し眠ります・・


(はい。ごゆるりと)


・・寝ている間、食事は不要ですが、定期的に水を滴らせた木綿で、ボクとアネモネに水を下さい・・


(かしこまりました。従者として誠心誠意御奉仕させて頂きます)


・・従者ではなく、私の妻、私の恋人として介抱してくれる事を望みます・・


(私の様な奴隷には、もったいないお言葉です。従者の仕事を頂けさえすれば、それで充分満足で御座います)


・・コスモスの名前の書かれた隷属契約書に焼印が押され、それと同じ焼印がコスモスの右肩に押される。それを持って奴隷法上の隷属契約の成立となるのでしたね・・


(はい。仰る通りで御座います)


・・コスモスの肩にはもう焼印が無いので、その契約書は不成立です。ですから既にコスモスは奴隷身分を解放されたことになるのではないのですか?・・


(それは逃げる側の理論です。ロイド男爵は私の焼印が消えた事を知らないので、当然逃亡奴隷として案件を処理していると思います。私はまだ社会的には奴隷身分なのです)


・・コスモスがどのような状態であろうが、ボクの心に変わりはありません・・


(もったいないお言葉で御座います)


・・ボクの心がどうしても信じられませんか?・・


(とんでも御座いません。これだけ良くして頂いて、従者冥利に尽きると言うモノです)


・・コスモス・・


(はい)


・・はぁ...コスモス・・


(はい)


・・貴女に差し上げた櫛...、まだ持っていてくれますか?・・


(勿論で御座います)


・・ではボクが寝ている間、その櫛でボクの髪を梳いて下さい・・


(は、はいっ)


・・あの櫛は奴隷市に行く前に、アネモネと会う前に、ボクとコスモスの心を確認するために差し上げたものです、覚えていますよね・・


(は、はいっ!、カノン様)


・・愛しています、マイ・ディア(愛しい人)・・


(わ、私もです、ディア・カノン(親愛なるカノン)。私も同じ気持ちで御座います!)


カノンはそのまま、吸い込まれるように眠りに落ちていった。

コスモスはローブの上からカノンに抱きついたまま、あふれ出す涙を必死にこられていた。

今は泣いている時ではない。

元気な自分が、2人の世話をしなければならないのだ。

そう、自分に言い聞かせていた。


 ===


宝石商ドージ・アソシンはカールスの町を離れ、馬車で5日の距離にある都市コーサイエンスに来ていた。

先日、カノン・トーゴーと名のる外国の遊学生から買い取ったインディーナ石を競売に掛ける為である。

自分の見立てだとこのインディーナ石は相当な業物で、少なくともカイン王国ではこのようなカットは出来ない。

自分は金貨80枚(白金貨1枚=金貨100枚)で買い取ったこの石、最低でも白金貨2枚にはなると絶対の自信を持っていた。


が、オークションでドージ・アソシンの目が節穴だったことが白日の元に晒された、逆の意味で。

件のインディーナ石、つまり『聖』の魔宝石は、なんと白金貨12枚で競り落とされたのである。

購入者はカンターク教司教、クルス・フォン・ワイマール子爵。世界に向けて放たれた聖のソナーを追い続けるその人である。

彼はようやく、聖の手がかりを見つけたのだ。

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