第36話:2人目の奴隷少女、出会いました…
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※
※筆者注)文中不適切な表現が有りますが差別の意図を持って書いてはおりません
※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
アネモネは荷車を引いていた。
糞尿処理場で中身の入ったツボを下ろすと、代わりに洗浄済みの空のツボを渡される。帰りはそれを荷車に載せ、奴隷市の開かれている中央広場の大きなテントの脇に留められた荷馬車まで戻るのだ。
それにしても体中がだるい。足が重い。がんばって荷車を引いて、ようやく奴隷市のテントが見えてきた。聞いた話だが、サーカスとか言う見世物もに使われる巨大テントらしい。
テント脇には国内各地から集まった奴隷商の馬車が、何台も留められている。
実は、出品前の奴隷は荷馬車の中の檻に閉じ込められ待機させられる。
そして待機していた奴隷は身体をきれいに洗われた後、テントの中で首かせをはめられ全裸で鎖に繋がれて、商品として出品されるのだ。
特に女奴隷は似たタイプを並べて出品すると値が上がらない事が多いと聞く。
それで、色々なタイプの奴隷を少しずつテントの中で開かれる奴隷市に出品し、売りさばくのである。
アネモネは思った。
自分は売り物にならない”傷物”だから、こうして下仕事をさせられているが、裸で売られていく他の奴隷よりは少しはマシなのかもしてない。
でも、何か身体がおかしい。
帰りは空ツボなので荷は軽いはずだ。なのに行きより遥かに重く感じる。
寒い、寒い、体中がガタガタ震えてきた。
呼吸が荒くなる。
左目だけで見ている景色がゆがむ。
世界が何もかもを拒絶していく・・・
そして奴隷市のテントの脇で、アネモネは終にショック症状を起こし倒れ込んでしまった。
幸いにも平坦路だったので、自分の引いてきた荷車に引かれる事だけは無かった。
だが道行く人々は皆、顔半分を火傷で失った娘奴隷に無関心だ。
こんな汚いクソ運びの1匹や2匹、どうと言う事はないのだろう。
テントの中では、新鮮な戦争奴隷が売られているのだからだ。
『コスモス!!!』
「はいっ!!」
無様に倒れたクソ運び・半分顔なし・火傷女の元に、ローブをはためかせ天駆ける2人の小さな魔女が舞い降りた。
行き倒れた娘奴隷には無関心でも、飛来した魔宝使いは多くの人々の目を引く。彼女等を取り囲むように、いつの間にか人間の輪が出来上がる。
カノンは倒れた娘奴隷を抱きかかえる。
すぐに娘の状態を確認する。
呼吸は・・・かなり速く、乱れている。だが自律呼吸はしている。
左胸に手を当てる。うわっ!!でかい!でかすぎる!!これ、詳しく分からないけどFとかGとか言われるヤツなのではないか?!
あ、違う、違う。心拍を確認。かなり速い。
体温が凄く高い。
どこか体に炎症を抱えているのか?、それとも肺炎か??、インフルエンザなのか??
顔は・・・頭の右半分が火傷でケロイド状になっている。右目も右耳もふさがっている。これ、火炎魔宝の火傷だな。
右腕・・・あぁ、ひじから手首にかけて、炎症どころか腐敗と言っても過言ではない程ひどい状態になっている。
なら、この症状は腐敗菌が原因の敗血症なのか?
敗血症ショックとか聞いたことある。確か死亡率が何十%とか言うヤバイやつだ。
『コスモス!!』
「はい!!」
『すぐ、奴隷バイヤーを連れてきなさい。接触テレパスで分かりました。この娘は奴隷です。この娘を買います!!この娘は死亡する確率がかなり高い病気なので、早く治療しないと間に合いません』
「ですが・・・」
『コスモス!、貴方と始めてあった時も同じように貴女は命が危ない状態でした。貴女を助けたのと同じように、この娘を助けたいのです!!』
「はい!」
騒ぎを聞きつけ、奴隷バイヤーのハインツが人の輪を掻き分けやってきた。
「あぁ、何だ?、おい、アネモネ。さっさと起きろ!!」
ハインツが鷹揚に命令する。
もちろん、倒れたアネモネが立ち上がる事はない。
『コスモス!!、私に触れて貴女の口を私に貸しなさい!!、この男と交渉します』
「はい!!、カノン様!」
コスモスが娘奴隷を抱きかかえるカノンに駆け寄り、カノンの肩にその手を置いた。
その瞬間に気付く。
あぁぁぁぁぁっ!、この倒れた娘奴隷も魔宝使いだ!、強い強い接触テレパスの力を秘めている!
直接触れてさえ居ないのに、カノンを通じてコスモスにも娘奴隷の心が少しだけとは言え流れ込んでくる程だ。
「こちらの方は異国ジャパンからの遊学生カノン様、私は通訳のコスモスです。貴方がこの奴隷のバイヤーですか?」
「そうだ。ハインツと言う。その奴隷をはやく返せ」
「端的に言います。この奴隷を購入する意思が主カノンに有ります。おいくらですか?」
「え?、ええ??」
ハインツは驚いた。
火傷女のクソ食らいの半分顔無しの気狂いのクソ運びの、その上どうやら死にかけている奴隷を、よもや買いたがる人間が居るとは思っても見なかったのだ。
頭の中で計算する。
ツボ運びを1日銀貨1枚で雇ったとする。奴隷市が10日開かれたとして銀貨10枚だ、大銀貨なら1枚、そんなところか。
いままで与えてきた餌代とか、もう少し色をつけて大銀貨2枚、その辺がこの死にかけに相応しい値段だろう。
だが、本来なら一般奴隷は男は金貨10~30枚、女は金貨30~50枚が相場だ。
この死にかけを、あまりに安く売りすぎると他の奴隷を売るのに支障が出るかもしれない。
さぁて、ここはじっくりと・・・
「うわっ!!!」
ハインツが悲鳴を上げた。
彼の服の右腕部分だけが吹き飛び、更にその飛び散った布切れが一瞬で灰になったのだ。
「私達、2人の魔宝使いを相手に時間稼ぎをするつもりですか?、この娘奴隷は早く手当てしないと手遅れになるのですよ」
通訳のコスモスと名のった少女は、左手を主カノンの肩に置き、右腕はハインツに向け前に突き出している。その右手には大粒の火のルビーが輝き、そしてそのルビーは火の魔宝陣を展開している。
そして、その魔女の主であるカノンの瞳は血の色だ、噂で聞いたことがある、イビルアイだ!!
ハインツは悟る、この2人は本物の魔女なのだ、と。
今、衆人環視の見守る中、誰一人として呪文詠唱を悟らせる事も無く2人の魔女は「空間魔宝」と「火炎魔宝」で威嚇攻撃をして見せたのだ。彼女等が本気であれば、自分の首を断ち切る事も、頭を炭に変える事も簡単に出来る。そう無言でハインツに証明して見せたのである。
「わ、わかった。その娘奴隷の労働代が大銀貨1枚、今までの餌代が大銀貨1枚。あわせて大銀貨2枚でどうだ?」
「了解致しました。直ちに売買契約書、隷属契約書を用意しなさい」
「あ、あぁ。分かった」
こうしてアネモネ・トリフォリアの所有権はカノン・トーゴーの物となった。
野次馬の見守る中、売買契約書を交わし、コスモスの財布から大銀貨2枚を支払う。
「焼印はどうする?」
そう聞くハインツに
「私たちは火の魔宝使いなのですよ」
と、すごむ。
それだけで署名のされていない隷属契約書をハインツが渡してくれた。
これで充分だ。もともと『隷属の刻印』を刻むつもりもなかったのだから。
「良い取引をありがとう。では・・・」
次の瞬間、カノン、コスモス、そして抱きかかえられたアネモネの姿が掻き消えた。
カノンのテレ・ポーテーションで宿まで3人で跳んだのだ。
騒ぎに集まった人の輪の中心部だけ、ぽっかりと空間が開けていた。それだけが、今までそこに3人の少女(?)が居た数少ない証であった。
「俺、魔宝使い初めて見たよ」
「糞尿処理の魔宝使いも見たこと無いのか?」
「見たぞ、娘魔宝使いだった。小さくて可愛くて怖かった」
「本当に小さな娘魔宝使いだった」
「2人の娘魔宝使いが娘奴隷を買って行ったよ」
「火の娘魔宝使いが奴隷商人の服の袖を灰にしたそうだ」
「風の娘魔宝使いが空を駆けて去っていったそうだ」
火と風を操る2人の娘魔宝使いが娘奴隷を買った、そのウワサは瞬く間に町中に広まった。
そしてそのウワサは、3日に1度パンを買いに行くパンジーの耳にもパン屋の親父経由で届く事となったのである。




