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酒宴

時刻はもうすっかりと日が傾き三日月が上空に上がる夜。そんな時刻に似合うのか似合わないのか一軒の店からガハハハという豪気な笑い声が漏れていた。


「やったな。一時期はどうなるかと思ったがさっすがはワシだ。ガハハハ。」


そう自画自賛の台詞をつまみに酒をガブガブ飲むのは言わずも知る人。明さんだ。


「うるさいぞ。おっさん。まだ第一のボスを倒しただけだ。大体、おっさんは大したことしてないだろ。」


これは僕と同い年くらいの前髪の黒髪が目を覆う少年。黒谷。冷めた口調で明さんの言葉に軽く返している。

ともあれ僕達は今、とある酒場のとある席でドンチャン騒ぎしているのだった。勿論、その理由は第一フィールドクリアーにある。


結局、あの後。ゴーレムを倒した直後。僕達はそれまでの多大な疲労ゆえに倒れ、寝てしまったのだ。ボスフィールドにはその名の通り、ボスモンスターしかおらず他にモンスターはいない。ボスは一度倒せばもう二度と復活しないと始めにストーラは言っていた。


つまりはボスを倒したそのフィールドで一日だろうと二日だろうと寝ていてもなんの問題もないのだ。まぁ、そんな事する奴いないだろうけど。


ともあれ、その後。夕日の赤々とした光を目覚ましに一人、また一人と目を覚ましここに戻って来たのだ。


「にしても今日は健生大活躍だったね。どうしてゴーレムの石の落下ポイントが分かったの?」


右手にリンゴジュースらしからぬ何かの果実ジュースを持った美麗が横で囁く。


「ん?まぁ。ずっと見てたからね。」


そう。僕はずっと見てただけなのだ。いっつもいっつも。ただ目立つ人物の後ろで何も出来ず。何も言えず。ただ一人の傍観者を気取っていただけなのだ。


「え?それだけ?あんな短時間でよく見切れたね。凄いじゃん健生。」


決して酔ってはいないだろうがテンションが高い美麗さん。大体、飲んでるのジュースだし。勿論、子供の。まぁ、でも初めてのアニマで初めての仲間との勝利。嬉しいのは分からなくもなかった。


「いや。いや。実際、凄かったのは皆だよ。僕、一人じゃ何も出来なかった。美麗もありがとう。」


改めて先陣を任せた魔法使いに礼を言う。すると美麗は片手をブンブン顔の前で振るわせ必死に否定した。


「いや。いや。私は健生の指示に従っただけだよ。健生があの時、手を握ってくれなかったら決断だって出来なかったし。」


言って彼女はその時の自分でも思い出したのか恥ずかしそうに顔を下げた。


だが、実際。あの作戦の主たる要因は美麗にあった。美麗が拒めば作戦は諦めたし美麗が賛同したら作戦を決行するつもりだった。

だから始めに美麗の意思を聞き、その後に皆へ話す必要があったのだ。


だが、美麗は悩んだ。その心境は多いに理解できる。どっちを選んでも美麗は間違ってないからだ。

二つの問題の決定的な違いは自分を信じるか、僕を信じるかのただそれだけだ。

結果、強引に美麗を自分の方へと誘導したがそれが、正しかったのかどうか未だに分からない。

だが、まぁ。こうして皆で笑いあっているのを見ると正しかったのかな。とも思えた。


「だが、健生。お前、本当に凄いぞ。あんな指揮、俺には出来なかった。どうだ。今度からお前がリーダーになるか?」


流は僕の隣で笑いを浮かべ僕にそう言った。その声からは冗談か本心なのかよく分からない。

てか、明さんは仕方無いとして何で流達はジュースでこんなに酔った感じになってるの?とは言えず。


「無理だって。どう見ても僕は後ろでサポートキャラでしょ?大体、今日は流がトドメ刺したんじゃん。流がリーダーだよ。」


僕はそれを示すように椅子の近くに寝かせるように置いてある弓矢に目を向ける。それは流と僕のちょうど間にある。自然と流は僕につられる。


「何、謙遜してんだ。今日の賜物はお前がゴーレムの攻撃パターンに合わせて指揮してくれたからだろ?俺はそれに合わせただけだ。」

流も美麗と同じような事を言って僕の背中をバシバシと叩いた。


痛い。痛い。とそんな思考は誤魔化すとして。今日の活躍者は実に流なのだ。僕は指示を送ったとはいえゴーレムが動くタイミングまでは言わなかった。


第一、ゴーレムがしゃがむであろうというのは本当に推測にすぎない。ゲーム版のアニマプレイ時に最後のトドメとして射た矢をそんな風に避けられたからなのだ。

その時のゴーレムは狂乱状態じゃなかったし確信たるものが無かった。だが、それを信じて自身の俊敏力でゴーレムに刃を入れたのは流の功績だ。僕ではない。結局、僕は今日も後ろで安全圏にいただけなのだ。


「ど、どうしたんですか?」


肩にバディを乗せた向かいの飛那さんが珍しく自ら声を掛けてくれた。ただ慣れてきただけかもしれないが。


「いや。どうもないよ。飛那さんも今日はありがとう。」


飛那さんに言われて唇を噛み締めていた事に始めて気付いた。

頭を振って美麗と流同様に礼を言う。


「いえ、そんな‥。私はただ‥。お礼ならこの子に言って下さい。」


飛那さんは恥ずかしそうに頬を染め、肩に乗るバディを散らかった机に立たせた。


「そうだね。ありがとうダブ。」


確かそんなような名前だったよな。と思いながら机に立つライトニングバードにお礼を言う。

するとライトニングバードは僕の言葉が伝わったのか「くわっ。」と一言鳴いた。


「うわっ。」


予想してなかったライトニングバードの初めて聞く鳴き声に体を反らし、危うく椅子から落ちるところだった。


「ふふっ。」


そんな僕を見て飛那さんが手で口を隠し小さな笑い声を溢していた。そんな少女が可愛く迂闊にも頬を赤らめてしまった。


「ちょっと。健生。これ美味しいよ。食べてみてよ。早く。早く。」


そう隣で服を引っ張られて正気に戻る。


「えっ?何?何?」


目前の料理。何か黒々としたパスタのような物が目に映る。


「‥これ、本当に美味いんだろうな?」


第一フィールドをクリアーして料理も増えている。それに夜だからメニューも昼とは違う。誰が頼んだのかこの料理。イカすみでも使ったなら納得出来るが生憎、そんな生物はこの世界にはいない。

河には魚がいるだけでそれ以外の生物はいない。


「うっ、うん。美味しいよ。」


何故か視線を合わせようとしない美麗。

怪しすぎるわ!

だが、僕も男。女に出された料理は食わねばならぬが男の定め。いざ実食。


そうフォークをクルクル。そのパスタ的な物を口に運ぶ。


「うっ!!」


「どっ、どう?」

自分が美味いと言ったにも関わらず単純に毒味させてその感想を聞くように美麗は言う。

モグモグ。と何となく目を瞑りそれを胃に通す。


そして一言。



「まっずいわーー。」



何か食感はネチョネチョ気持ち悪いし。味はほぼ無だけど少し酸っぱいような味するし。

何なんだよこれ?

と、取り敢えず。


「お前も食え。美味いんだろ?」


全ての感想を一言に済ます。実際、言葉より体験だ。感想なんか聞いたんだ。どうぞ食べてみて下さい美麗さんである。


「うっ、それは。」


僕に皿を差し出されて戸惑いの顔を見せる美麗。

まぁ、分かってんだけどね。美麗が慌ててこんな物で僕の気を引いた理由。だが、心配無用。

ラブコメの主人公じゃないんだから。

僕は僕だから。だけどこれは食べな。




ハハハ。ウハハ。と遂には周りのここで呑んでいたり食べていたりしていたお客さん。もといプレイヤーをも巻き込んだ宴はいつの間にやらもう終わろうとしていた。

ってか、店が閉まろうとしていた。


「えー。では、最後の占め。本日のMVPの鈴木健生さんに一言。」


イエェーイ。ヒュー。ヒュー。等ともう完全に何なの?状態である。

さっき木製のコップ逆さに僕の名を呼んだのも全く知らない眼鏡掛けた人だし。

最早、酔ってないのは黒谷に僕に飛那さんだけだ。


「えー。では、何か僕がMVPなんてのは恐縮なんですが。一応、一言言わせて下さい。」


皆の視線に堪えかね渋々立ち上がり、いつもより何割か小さな声を響かせる。それでも何でか静かになった酒場には僕の声は大きく感じる。

そして一言。


「今日は皆のおかげで第一フィールドをクリアーすることが出来ました。皆さん、ありがとうございます。」


何か新人のアイドルっぽい事を言ってしまった。と遅れて羞恥がやってくる。


が。


パチッ。


誰かが手を弾き音を鳴らす。そしてそれは伝染して。次第に盛大な拍手の嵐が僕に襲う。


「オー。お前もよくやったぞー。」

「礼を言うのは俺たちもだー。」

「これからもガンバレー。」

等々。


何でか知らんプレイヤーが泣いてそんな事を叫んでる。


えっと。泣ける部分ありました?


席に座っても僕が思うのは一つだけだった。


帰りたい(色んな意味で)。



と、そんな時。ポンッ。と右肩を誰かに叩かれた。


「ん?」

と振り向くとそこには涙を目に一杯溜めた美麗が。


「えっと‥何?」


ちょっと引きぎみでそう訊ねるとその震える口が動き始める。


「けんぜいは‥よくがんばっでるよ。ひっぐっ。」


もう完全に酔ってんだろ。


後日、美麗と流が酒の匂いだけアウトなのを知った。流はその時、飛那さんに大部話し掛けていた。

飛那さんは楽しそうだったからよいとするけど。


何はともあれ明日からは新たなフィールドに足を踏み入れるのだ。‥大丈夫かこのPT(パーティ)

少々の不安を胸にその日もゆっくりと夜が明けた。



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