覚醒の巨人
木々と共に倒れた岩巨人。動く気配はない。
朝の会議でたてた作戦が見事に成功したのだ。
「終わったの?」
僕の隣で杖を持った美麗がドキドキと心臓を鳴らし呟く。
「だといいけど。」
そんな美麗の呟きを拾い、流は言う。
ここまで僕達が受けたダメージはほぼノーダメージ。若干、落石がかすった程度だ。
それは皆も同じ。先人切った流はそのダメージが皆より少し多いだけだ。とは言え、本当に少し。
皆とそれほど大差は無かった。
結果、僕達パーティは第一フィールドのボス相手にノーダメージで勝利を治めようとしていた。
いや、治めたのかもしれない。
「だが、もうちっと張り合いがあると思ったんだが全然だったな。」
明さんは相手が不服だったようだ。頭をボリボリ。疲れさえ見せていない。
確かに今まで虫系モンスターとしか戦った事がなかった僕達にとってゴーレムは驚異的であった。
だが、しかしそれは初見の話。
二回目以降からならそれほど驚異も怖さも感じはしない。更に倒したことがあるモンスターなら尚更だ。
ここに呼ばれたプレーヤーは現実世界ではクズ同然のゴミ人間。だが、この世界では一度はレベル二十は超えた猛者ばかりだった。
それは当然、僕達のパーティもだ。
美麗と飛那さんはよく分からないが…。
「ほ、本当に終わったんですか?」
飛那さんは肩に自分のバディ。ライトニングバードを乗せ不安気な声音で言った。
僕も倒れた敵。ゴーレムに目を移す。
ん?
僕はそこで気付いた。次のフィールドに繋がる道が開いていない。
普通、フィールドボスを倒せば自動的に次に繋がるフィールドの道が開く。
ゲーム版に関与しているのであれば光のワープゲートみたいのが突如、出現する。
だが、今はそれが出現していない。
ということは…。
僕が以上の考えを頭に浮かべていると事はそれを待っていたかのように動いた。
ゴゴッ…。
「え?」
まず始めに美麗が声を漏らす。次に流。次に明さん、飛那さん。と言った順番に皆が驚きの声を漏らす。
ゆっくりとした動作。しかし、それは確実に動いている。そして、遂にはソイツは完全に立ち上がった。
「ウォォォォォォォォォォォーーーー。」
聞き覚えのある咆哮にも似た叫び。だが、ソイツの顔はもう無い。
僕はこんな不意をつくような出来事の最中だったが思ってしまった。
どこから声だしてんだコイツ?
と。
「ハハ。まだ、くたばっとらんかったか。ハハ。」
僕がそんな下らない事を思っている中で明さんはどこか嬉しそうな声を発していた。
戦闘が好きなのか?
どこのサイ○人だよ。
「まぁ、しかし。後、一発つーとこだろうがな。」
言い、明さんは微笑を顔に走り出した。
確かに目に映る顔無しゴーレムを見るからに残りのHPは既に赤ゲージであるだろう。まぁ、それは断定できないが…。
何故ならこのアニマ。モンスターに関する情報は自身で探らなければならないからだ。
ゲームとして楽しんでいた頃の僕は、カーソルをモンスターにクリックしてそのモンスターのHPを含めた情報を入手していた。
だが、それはゲームの話。今。このゲーム内で実在している今は違う。カーソルなんてものが無い。
よって、いま現在の状況。僕達プレイヤーにはモンスターの名前すら分からない状況であるのだ。
まぁ、大体のプレイヤーは第四フィールドまでのモ
スターなら記憶しているだろうが。
ともあれその時のHPまでは誰にも分からない。
「イムプレー!」
いつの間にやらゴーレムの胸部分まで跳躍していた明さん。ファイターとしての基礎的な特殊攻撃を残り少ないゴーレムにおみまいしようとしていた。
そんな明さんを皆は黙って眺めていた。 明さんのその技が当たることを確信して。数秒後、ゴーレムがその巨体を後ろに倒す。もしくは体を崩す事を確信して。
しかし…。
「ウォォォォォォォォォォォ」
ゴーレムの威嚇。それなら先刻と同じだ。
だが、今のはその比ではない。
「なっ…!?」
攻撃を仕掛けようと突きだしていた明さんの拳が止まる。
止まり…。
ドシャッ。
ゴーレムが威嚇と共に産み出したのは強風。周りの木々を抜かし、吹き飛ばし。落ちていた木や草、枝はゴーレムの周りを包むように舞っている。
それは遠くにいた僕にも届くくらいの風力。 それだから近くにいた流や黒谷も明さん同様に背後へと吹き飛んだ。
「大丈夫か美麗?」
隣で短い悲鳴を上げていた。隣にいることは認識していたので一応、声を掛ける。
「うん。なんとか。」
乱れた前髪を分けながら美麗は答えた。
「そうか。」
僕はそう言葉を言い、改めて荒れ果てたその場所を眺めた。
木々は抜け落ち、折れた枝や葉が無惨にそこにはあった。
そして、それを一瞬で起こした化け物。顔無しゴーレムは壁のようにその場に立ち尽くしていた。
「いってぇな。」
物凄い勢いで地面に叩きつけられた明さんが起き上がる。受けたダメージも多少ではないだろう。
「クッ…。しまったな。」
明さんよりはダメージは少ないが同じく吹き飛ばされた黒谷も起き上がり奥歯を噛む。
「なんだ黒谷?」
黒谷の独り言を耳にした流はその真意を確認する言葉を投げた。
「どうやら俺達は失敗したようだぜ。」
「は?何言ってんだ?後、一発決めるだけだろ?」
荒れ地に立つゴーレムは確かにさっきまでとは気迫の桁が違う。
だが、それと同時にさっきまでとは体のコンディションが違う。頭は無く、体中には傷跡が大きなもの。小さなものバラバラではあるが目立っている。
立っているのでさえ不思議なくらい虫の息であるのは一目瞭然であった。
だが、それでも黒谷は言った。
失敗した。
と。
「ウォォォォォォォォォォォ」
そんな黒谷の言葉に答えるかのにようにゴーレムは叫び声を上げた。
そして…
「なっ!?」
まず始めに明さんが声を漏らした。
それも無理はなかった。ゴーレムの失われていた頭がみるみると再生していたのだ。
しかし、ゴーレムに起きた現象はそれだけ。つけられた傷痕も、疲労(あるのかは分からないが)も回復しているとは思えなかった。
つまりは、ゴーレムのHPは回復はしていない。
それは大樹。…壁のように立つゴーレムを見れば分かる事。だが、誰一人その瀕死状態のゴーレムに攻撃を仕掛けるものはいなかった。
「な…なんだ?アイツに何が起こっている?」
流は目を見開き、今の現状を誰かに確認するように声を吐き出した。
「俺もすっかり忘れていた。フィールドボスのHPを残り一で残すとそのモンスターに新たな力がつくと言う。」
流の声に答えたかどうかは定かではないが、黒谷独り言のように話し出した。
「新たな力?」
皆の目に映るゴーレムは今は一際強い青光で包まれている。それが黒谷が言った新たな力なのであろう。
「あぁ。俺も噂で聞いた。狂乱状態に陥ったモンスターのそのステータスはそれまでの桁とは全く異なるらしい。」
「つまりどういうことだ?」
流は黒谷に問う。手に持つ剣の柄に力を入れ直し。
「アイツはさっきまでの奴とは違う。今までの作戦・奴に関する情報も全て捨てろ。」
そして黒谷達の会話を待っていたのかゴーレムの体から輝きが薄め始める。
「アイツはもう俺達の知らない化け物だ。」
そして始まる。再戦。
ゴーレムの新たな顔に丸い小さな青の光が灯る。
そして準備が整ったのかゴーレムは動く。
「ウォォォォォォォォォォォ。」
先刻同様の叫び。だが、先刻とは違かった。
「え?何?」
「なんじゃ?これは?」
僕の隣にいる美麗の体が。流達の近くにいる明さんの体が。
な、なんだ?コレ?
僕達。六人の体は皆、ゴーレムが、撒き散らした木の枝に。地面から生える雑草の草に縛りつけられた。
それも面倒な事に縛る植物等はゴーレムの魔法なのか伸縮する。どんなに引っ張ったところで抜けないし、千切れない。
それを六人、一斉にかけたゴーレム。確かにさっきまでとは桁が違う強さである。
「ダブ。美麗さんの右枝を破壊して下さい。」
手足を拘束されても口は動く。飛那さんは空の唯一の味方に命を下す。
ここで自分の開放ではなく美麗の開放を頼んだのには勿論、訳があった。
美麗の右手には杖が持たれている。ホーリーが魔法を使うのにはその決められた技命を言うだけでいい。
だが、それは杖を動かす事でホーリーの役目は反映される。杖を向けて回復魔法をかければその向けた者が回復する。 攻撃魔法なら杖を敵に向けると杖から火の玉やらが飛んでいく。
つまり魔法をかけたい者・物に杖を向けなければ無駄にMPを消費するということになる。
以上の考えから飛那さんは美麗の右手。杖の回復を優先させたのだ。今、動ける者は美麗、そして空のライトニングバードしかいない。
だが、現実は上手くはいかない。
「ウォォォォォォォォォォォ。」
パワーアップしたゴーレムは再度、雄叫びを上げると手を光らせ岩石を飛ばす。
それは前みたいな一ヵ所だけではない。全体的に岩石が空を埋め尽くしていた。
「ダブー。」
飛那さんの悲観の叫び。空を埋め尽くした岩石の流星が飛行中のライトニングバードを撃ち落としたのだ。
岩と共に落下するライトニングバード。
ライトニングバードがやられれば最早、僕達に手は無かった。
「ウォォォォォォォォォォォ。」
勝利の雄叫びかゴーレムが吼える。
すると、その声が合図だったのかゴーレムの足元から長い蔓が出現した。
そして、ゴーレムの岩石にコーティングされた巨手が横に振られると、蔓はもの凄い速さで地面を駆けた。
「クッ。」
黒谷が諦めの表情で奥歯を噛む。
「オイオイ。マジか」
明さんは必死に抵抗しているが逃れられそうにない。
それは残りの四人も同じ。ただ、迫る蔓を待ち受けるしか出来ないでいる。
「フラッ…えっ?」
美麗が駄目元で魔法詠唱を口にした最中。美麗のその杖を持った右手首を縛る木の枝が破壊された。
「ダブっ。」
主人にそう呼ばれた黄色の鳥の体はボロボロ。
残っているHPも恐らくは残り僅かである筈だ。
ビースターのバディのHPは基本少ない。 育てればそれはなりにはなるがライトニングバードの最大値でHP100もいけばいい方である。
因みにHP100は一般プレーヤーLv3で得られる数である。
勿論。ゴーレムが繰り出した岩の流星群、一個にそれほどの威力は込められていない。せいぜい30くらいの威力だ。しかし、 今の飛那さんの相棒であるライトニングバードのHPはそれに耐えれるか。耐えれないか。ぐらいの低HP。だから飛那さんは勿論、僕ですら少しの感動を胸に抱いていた。
ともあれ、そんなライトニングバードの働きから美麗の杖は動くようになった。
だか、蔓は迫っている。 皆に杖を向けている時間はない。とは言えゴーレムに美麗が掛ける魔法攻撃が当たる確率も少ない。
どうせ地面から生やした蔓で護られるのだ。
なら、美麗が出す魔法は…。
「ビロー ウォッシュ。」
天に突き刺すように紫色に染まった杖を上げ叫ぶ。
その杖から光の柱が上がり天と共鳴したのか空が青から紫へと染め変わる。
しかし、蔓にそんな空模様は関係無い。緩めることなく標的に向かう。
が、それは突如降ってきた紫色の炎の波によって消滅した。
「はぁ。はぁ。上手く…いった。」
何故、美麗が息を切らしているのか?それはさっき掛けた魔法に理由がある。
ビロー ウォッシュ。
それはMPを二桁も消費する大魔法である。威力は中堅魔法と変わらないが、敵と認識した者・物全体に必ず当たる。
「助かったが。大丈夫か?美麗?」
僕は体の自由が戻った事に礼を言い、美麗の状態を見る。
「う、うん。平気。」
そうは言ってはいるがもう大魔法たる魔法は使えそうにない。アイテムを使えば使えるとは思うがそのMPを回復するアイテムは残り数個だ。
美麗はここからは回復優先になる。
「そうか。だが、無理はするな。」
僕は美麗の状態には気付いてはいた。だが、この
状況で気休めの言葉を掛けている余裕はない。
酷だが美麗を休ませてはいけないのだ。
それは美麗も分かっているようだ。
「分かってる。」
美麗は言い、杖を構え直す。
既に前線でゴーレムが産み出した蔓を退治していた三人。そんな三人を美麗の杖が赤く染める。
が、それでは足りない。ゴーレムには届きはしないだろう。
もう一人。もう一人。前線で戦える勇者がいれば…。
僕は思うが弓を構える手はそんな前線で戦う三人の後ろにあった。




