甦るキャラ
形勢は一転して逆転した。始めはリードしていた僕達だったが、今はゴーレムのその脅威的な猛進からHPを半分まで減らしていた。
「ハァ。ハァ。強い奴は好きだがこうもしぶといとわな。」
最初は飄々と余裕な表情を保っていた明さんだが今ではその表情は無い。むしろ脂汗を首元から垂らし苦しそうでもあった。
「あぁ。一撃…。何とかあいつに一撃当てれれば…。」
「そうは言うがな黒谷。何かないのか?」
流や黒谷も息を上げ、武器を持つ手には汗を湿らせている。
その理由は目前に立ちはだかる多数の植物等にあった。もう十回は斬ったり、破壊したりをしている。だが、ゴーレムはその度にまた新たな植物を生やしては自身を防衛していた。ゴーレムにそれをするMP的なものはあるだろう。だが、それを。
その数値を僕達は勿論知らない。僕達の体力(MP)が無くなるかゴーレムの体力(MP)がなくなるかの戦闘はあまりにも分が悪い。
なら、ここで一番有効な手は。得策な考えは。
「考えられる手は何もない。出直すか?」
黒谷はまた新たに生える植物を目に問いを返した。
「そうか…。だが、悪い。もう少し俺に付き合ってくれ。」
流は一度少し考えはするものの再度、柄に力を入れ直す。
「分かった。だが、これはゲームとは違う。命あってこその勝利だからな。」
黒谷の言い分は正しい。ここで死ぬことは文字通りの「死」に直結する。例え、敵がもう少しで倒れるからと言って逃げないことは弱さでない。むしろそれは逆。
自分のHPが紙一重に残りながらプレーする緊張感は画面越しのソレとは桁が違う。
「あぁ。わかってる。」
流もそれを勿論わかっている。だからピンチの時は迷わず撤退を出すつもりで言ったのだった。
「お前さんら、お喋りはそこまでにせいっ。くるぞ!!」
明さんの図太い声とほぼ同時に地面に生える植物の蔓が動き出した。
「エピセシーアウメンタル」
すかさず流等に向ける美麗の杖が赤色に染まる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」
と明さんが吼え向かう蔓の一本を迎撃。
残りの二人は掛け声は無しに手だけを素早く動かし、明さん同様に蔓を硝子の破片化していた。
「ダブ。もう一度風をおこして。」
何も闘ってるのは前線の三人だけではない。飛那さんは既に体が大きくなっているライトニングバードに何度目かの命を下す。
空に羽を羽ばたかせるその鳥は主人の言葉に応えたのか首を微かに動かす。そして体が濃い黄色に包まれる。
ブァァァァァーーー。
ライトニングバードが羽を大きく羽ばたかせるとそこから強風が産まれた。しかもそれはただの強風ではない。電気が含まれる特殊な風である。
この技の利点はそのスピードと攻撃範囲。そんらそこらの雑魚モンスターなら五体は一撃で倒せる。故に今のライトニングバードにできる最大の技とも言えた。
だが…
「ウォォォォォォォォォォォ」
ゴーレムの奇声。その怒号にも似た奇声に空気が揺れる。そして、大地からは突如となく岩の壁が現れた。
ォォォ…
言うまでもない。ライトニングバードが産み出した雷の風はその岩の壁によって消滅した。
「うっ、また。」
飛那さんがそう言うのも、苛立ちを覚えるのも無理はない。何故ならもう数十回はゴーレムに自身の技を防がれていたからだ。それでもめげずに自身の大技を繰り出しているのは前線で戦う三人を見ているからであろう。
「はぁ。はぁ。」
息を荒く手持ちの回復薬を口に入れるのは美麗。ほぼ休みなくステータス強化魔法を三人に掛けている。消費するMPは洒落にならないほど減っているのだ。
「なぁ。大丈夫か?」
僕は始めの位置。即ちはこの美麗と隣のポジションから動いていなかった。だから、美麗が無理をしていることは重々に承知出来ていた。
「う、うん。まだ大丈夫。」
汗を頬に流しながらも微笑を刻み美麗は言う。
「そうか?」
美麗の手持ちのMP・HP共の回復薬。特にMPに関しては残りは数えられる程度しかない筈だ。
この戦闘はゲーム版とは違う。ゲームではキーボードやマウスで自身の選択。構成したキャラを動かすだけだ。
だが、今の現状は自身の体力を使って魔法を掛けたり、特殊攻撃を繰り出さなければならない。
故に美麗に掛かる負荷は今いる六人の中で一番多いのだ。
だが、止めてとは言えない。回復魔法の利点はソレをするための無駄動作をなくせることにある。
回復をするのにはポーチか何かの中に回復薬やらを入れて出さなければならない。
それに自身のHPを自身で管理しなければならないという余計な思考を頭にちらつかせなければならない。
それらが全力の戦闘を邪魔するのは言うまでもない。
実際は回復する量は回復薬と変わらない。だが、ソレらが無くなることは戦闘者にとってはかなり心持ちが軽くなるのは必至。
だから美麗のポジションは無くなる事は勿論。劣ることも許されないのだ。
「ところで健生?健生もしっかり働きなよ。」
今度は杖を緑色に染め終った美麗が声を此方に掛ける。
「ん?あぁ。」
確かに僕は今、前線三人の戦闘を。遠距離からサポートをする飛那さんを。そして、隣の美麗の息遣いを。見たり、聞いたりしているだけである。
始めはバシバシ。ヒュンッ。ヒュンッ。無謀にも弓を飛ばし、弦を弾いていはいた。だが、今はそれをしていない。それは何も面倒臭くなったとかではない。いや、もう本当に。
「ちょと考えがあるんだよ。」
僕は言い訳にもならない言い訳を口にする。
「ふーん。…エピセシーアウメンタル。」
何も納得した訳ではないだろうが美麗は無駄話をしている時間もその思考もない。短く言葉を言い残し、次なる詠唱を口にする。
事実。僕には考えがある。
美麗がMP・HP共に回復出来る数は恐らくは後、数回になるだろう。そんなギリギリの戦闘状態で僕が無闇に矢を射つことは得策とは言えない。
実際、始めの数発でゴーレムに僕の矢が無意味なのは理解していたし。だから無駄な矢は射ない。無駄なMPは消費しない。
そう。今、僕はMPを温存しているのだ。
それを美麗に言ったところで言い訳にしか聞こえないだろうが。
しかし、それでゴーレムの勝率が上がる訳ではない。むしろ下がっている。無意味でも前線の三人や飛那さん。美麗のように抗えば勝利は見えてはくるかもしれない。
だが、それは絶対じゃない。負ける確率もある。
僕は前の戦闘で学びはした。絶対的な「主人公」でも抗えば勝てた。僕自身がやったことだ。それは知っている。
だが、今は現状が違う。
あの時、僕は一人だった。一人で挑み、一人で闘い、一人で倒れた。
だが、どうだ今は。少なくとも今は「ヒロイン」が横にいる。こんな僕に赤裸々に自身の心を明かし、語ってくれた流がいる。 仲間がいる。
僕はそれを今、失いたくないと思っている。逃げることは簡単だ。ボス前にあったワープゲートをくぐればいい。
しかし、ここまで来た。次に作戦が上手くいくかも分からない。
第一ボスに敗走。そんな噂が流れればこの先、フィールドに行かない者も出てくる筈だ。それを見越して流はここでの撤退は最悪の手段と考えたのだろう。
僕も勿論その意見に賛同だ。
なら、僕は。僕が唯一持っているモノでこのパーティを勝利に導けばいい。僕が持っているモノ。それは今ある技の種類や役職ではなく。
僕。
「モブ」としての持ち技でこのパーティを勝利に導く。
やることはまだボンヤリだが傾向は決まった。そんな僕の考えに気付いたのか数キロ離れたゴーレムが何度目かの咆哮を口にする。
植物が地面から生え、疲労でヨロヨロの三人をまた襲う。隣で美麗も杖を染める。薬草を口にする。
チラリと見えるポーチの中にはソレが残り二個しかなかった。HP・MP共に一つずつのものの筈だ。美麗の表情は険しかった。
いや、美麗だけではない。残りの四人も。勿論、僕も。
時間が無い。やるしかない。
「美麗。」
「ん?何?健生も早く攻撃してよ。」
焦りがよく伝わる声だった。
それは僕も同じだ。だから言う。考えがまとまってなくても。
「少し頼みたいことがある。」
そう口にした言葉には芯が籠っていた。自分自身そう思った。




