そして物語は現代へ
長かった流の話は終焉を迎えていた。カーテン越しで確認できる明るさはもう夜明け。遂には徹夜で流の話に耳を傾けていたようだ。
「全ての目標を見失った俺だったが勉強はした。それが沙窪とのノート以外の唯一の繋がりだと思ったからだ。だが、それだけ。入ったはいいが何の気力も湧いてはこなかった。僅か数ヵ月で俺は学校へは行かなくなった。思い出さなかった方が良かったとは思わない。けれど、思いだしちまったら生きている意味が分からなくなった。虚しい世界と気持ちが俺を苦しめたのさ。」
そこで流は微笑を浮かべる。
「そして、俺は現実から逃げた。ゲームをして現実を誤魔化した。ゲームの中では現実とは違うキャラを演じ作った。より強い意思を持った。陽気でチームをまとめれるようなそんなキャラを作った。現実の俺とは正反対のキャラを作ることで俺の心は少し軽くなった。ゲームの俺が俺自身だと思わせる行為だったんだけどな。そして何時ものようにゲームをしようとしたらここに来てしまったというわけさ。」
言い流はこれ以上、口を開こうとはしなかった。
終わったのだ。長い長い一主人公の残酷な昔話は。
僕はそんな流を見て思った。
流は全ての現実を受け入れていた。真実に裏切られ、心の支えを二つを喪った。そんな現実を。
流のキャラが分からなかったのは流は自身を隠していたからだ。自分を抑え、ゲーム中での自分を演じていた。だが、今は違う。自身の過去を告白した今は何の偽りもない。何でも出来そうでリーダーとしての素質が十分にあった流のキャラが今なら分かった。
「なら、流は何でこのゲームをクリアーさせようとしているんだ?終わった世界より新しく出来た世界で生きていた方がよほどいい筈だ。」
鳥達の囀りが微かに耳に届く。正直のところもの凄く眠かった。それでも僕は聞きたいと思った。この主人公の気持ちを。
「確かにな。」
息を吐き出すようなそんな言葉を始めに残りの言葉が続く。
「俺は此方の世界の方が楽しい。あっちの世界には未練も目標もない。このまま此方の世界でお前らと生きていた方がよっぽど楽しいし楽だ。だが、それじゃぁ駄目なんだ。」
流の顔がこちらに移る。
「自分を誤魔化していたらいつか沙窪達の記憶がまた喪ってしまうかもしれない。それだけはもうしたくない。辛さをバネにして生きていけるなんて思わない。けど、俺の現実はあっちだからよ。」
最後の言葉を言い終えた流の顔は笑っていた。だが、それはこれまでに見たことがない。嘘も偽りも無い。演じていない素の悲しい笑顔だった。
「そう。」
それしか言えない。こんな時、ヒロインならどうするか?主人公ならどうするか?主要キャラならどうするか?モブキャラならどうするか?
そんなの関係ない。誰であろうと今はこの弱い主人公を助けたいと思う筈だ。楽な理想に命さえ掛けて残酷な現実に戻ろうとする。そんな馬鹿な主人公に僕は初めて同情した。
「僕はアッチでもコッチでも変わらないと思う。コッチではアーチャーだし。」
モブは変わらない。何処に行こうがモブはモブだ。僕はそれに不満を持っている。例え悪になろうが僕の夢は変わらない。いつか近いうちに目の前の流と闘うかもしれない。
だが、それは未来であって今ではない。だから今はキャラとかいうふざけた階級なんか関係なく言う。
「僕もこの世界では生きたいと思わない。勿論、死にたいとも。皆だってそう思っている筈だ。だから、命を懸けても僕達は自分達の世界に戻らなくちゃならない。理由なんてそれだけで十分。」
実際は分からない。この世界で生きたいと思う輩もそれなりにはいるだろう。逆に還りたいと思っている人もいる筈だ。その数も分からない。けれど今は目の前の主人公に同意した意見を掛けなければならない。何故なら僕は…。
「だからさっ、流は僕達を頼りなよ。あっちでの流の仲間はその沙窪さん達だけだったかもしれない。けど、ここには流自身が集めた仲間がいるじゃない。」
何を言ってるのか自分でも疑問だった。敵である人物を励ましている。本来の自分ならそう思った筈だ。何をやっているのかと。今の自分にもそれらしい感情はあった。それでもそれ以上の感情が今は勝っていた。
「僕達でこのフィールドをクリアーしよう。それで元の世界に皆で戻ろう。ってね。弱いアーチャーが調子乗るなって話だけどね。」
最後に笑っておどけてみせる。そんな僕の台詞を聞いていた流も軽く表情を和らげた。
「ハハ。そうだな。クリアーしよう。俺達パーティで。」
流の心情は何も変わっていないだろう。喪ったものが返ってくるわけではないし。痩せ我慢をしている事は分かっている。だが、その心情の変化を起こさせるのは僕ではない。
なら、今から僕は何をやるか?それは話を聞き終えた時から決めていた。
僕は手元に置いてあった物に手を掛けた。
「さっきはごめん。謝るよ。続きをやろう。」
時刻はとっくに朝を迎えていた。今から寝れば一時間は寝れる。だが、今は流とトランプの続きがしたかった。
「あぁ。いいぜ。」
僕は思っていた。きっと流となら友達になれる。初めて憎き主人公に思った感情だ。
似てはいない。むしろ正反対である。現実を受け入れる流に対して僕は現実を認めていないのだから。それでも僕は流と友達になりたかった。
トランプの切られる音が止むと流は僕にそれを半分差し出した。
僕はそれを素直に受けとる。
僕と流(主人公)は手を交わし合い夜中のトランプを続行した。




