初闘の夜
朝の八時。今日、一番の特大目覚まし時計が鳴り響く。
「起きてるかー。飯の時間だ!」
バンバン。ドンドン。力強く扉を叩くと同時にそんな馬鹿デカイ厳つい声が内部から鳴り響く。
「だってよ。ふぁ〜。最後も俺の勝ちだ。行こうぜ。」
目を擦る流は最後の一枚をスペードの1の上に重ねる。
「クッ。また負けた。もう一回。次で最後にするからもう一回。」
目にクマを作る僕は二個に別れたトランプをかき集め言った。
「そうは言っても。もう明さん起こしにきたしな。」
ポリポリ頬を掻きながら流は答える。
「気にしない。気にしない。少しくらいあのおっさんも待ってくれるって。」
言いながら僕はトランプを切り分ける。
「だがよ…」
流が何かを言い掛けたその瞬間。
「いつまで遊んどるんじゃ!!さっさっと着替えんか!」
床を揺らすほどの大声が二つに分けたトランプの山を崩した。 あぁ。そう言えば昨夜、帰ってきて鍵閉め忘れてたっけか。
結局、勝負の行方は分からず仕舞い。まぁ、ここまでやって僕が勝ったのはほんの五回だけなんだけどね。二十戦中五回しか勝てないって僕スピード弱すぎだろ。
いいや、最後は勝っていた筈だから六回は勝っていたな。うんうん。
…止めよう言ってて何か虚しい。
「お前は何時までトランプ切ってんだ!さっさと着替えんか!」
「はっ、はい!」
素早い動きでトランプをプラスチックの箱の中へと収めると僕は着ていた服を脱いだ。
「ふぁ〜。」
そう言えば僕、寝てないんだっけか。今日はグッスリ寝れるといいな。
そんな事を頭に思いながら僕は今日の朝を迎えた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
机の上にはパンにマーガリン。ハムエッグにサラダと中々にしっかりとした朝食が用意されていた。
さすがはランク3のそこそこ高級な宿屋。昨夜は文句を言ってすみませんでした。
「で、今日はどうするんだ?昨日と同じか?」
パンを一口サイズに千切りそれを口に放りながら黒谷は話し出す。
「あぁ。そうだな。今日もレベル上げがメインになるかな。明日には第二フィールドに行けるといいが。」
黒谷の問いには流が答えた。席、真正面だし自然の道理だと思うが。
「ってか、黒谷。目の下クマ出来てんぞ。昨日は眠れたのか?」
自分もそこそこのクマを下に所持している流は心配気に声を掛ける。
「あ、あぁまぁな。ちょっと俺の部屋にはメタル的な音楽が掛かっていてな。あんまり寝れなかったかな。」
チラリッ。
横目で隣でハムエッグにかぶりつく明さんに目を向ける。
あぁ。心情心よりお察しします。夜の就寝ライブは心に響きましたか?
まぁ、いびきの事なんだけどね。
僕達は心の中でそう思い手を合わせた。
「それは、そうとお前もクマできてんぞ?人の事言えんのかよ?」
黒谷は流の目の下のクマに気付いて指摘する。
「ん?あぁ。寝れたぜ。お陰で今朝は心地いい。」
チラリッ。
今度は流が僕の方へと視線を投げた。
「ん?何かあったの?」
僕の隣でパンをかじる美麗がそんな流の視線に気付き声をあげる。
「ん。まぁ、ちょっとね。」
僕は隣の美麗の質問に短く返事を返した。
昨夜…いや、今日か。とにかくあの話はあまり言われたくない筈。
第一長いし…。
僕は美麗にこれ以上聞かれないようにと話を他に逸らす。
「美麗達は昨夜は眠れたの?」
目の下にクマ一つ作っていない美麗を見れば一目瞭然。しかし、今はそれぐらいしか話す話題がない。
「うん。眠れたよ。飛那ちゃんと沢山話したし。」
美麗はそう嬉々とした声音を発っし僕の正面でモゾモゾとパンを食べている少女に目を移した。
「は…はい。」
少女は頬を仄かに赤く染め、小さく頷く。
「ふーん。」
僕は呟き木のコップに注がれている冷水を飲む。
「やっぱり、二人組で泊まったのは正解だったな。親睦が深まったというか。なんというか。」
流は元気な声でそう言う。それが演じている声だというのは勿論、僕しか知らない。
「いや、二度としたくない。」
黒谷がそう呟くと厳つい男が首を傾げる。
「ん?何か言ったか?」
「いや、何も。」
黒谷は誤魔化すように冷水を口に含む。気持ちは物凄く察します。僕は思わず同情してしまう。
各々が各々の部屋で見つけたルームメートの知られざる事。それを享用したせいか昨日より会話がよそよそしくなかった。
「さー。飯くったら準備するぞ。俺達がこのフィールドをクリアーするんだ!」
流のそんな掛け声は昨日より張り切っているように僕には聞こえた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
キラリと光る刃がキモ系芋虫モンスターを仕留める。芋虫は奇怪な悲鳴を口にすると硝子の破片と化して消滅した。
ブォンッ。
刀を一振り。流はその剣を鞘に収める。
「さてっ。今日はこんぐらいにするか。 」
流の一声で今日の解散が決定される。
「疲れたー。」
美麗が杖を持ったままその場にしゃがむ。
明さんはまだまだいけるぞと言うように余裕のある欠伸を口にする。
そして僕と黒谷ともう一人の少女。飛那は言葉にも行動にも表さないが疲れきった表情を顔に見せていた。
「オウオウ。今日は何処の宿屋で泊まるんだ?」
明さんの図太い声が夕日が射す草原に巡る。
「もうあそこは嫌だぞ。」
黒谷がボソリと意思表示の声を出した。
今日集まった額は昨日を普通に追い抜いていた。
ゆえに昨日泊まった宿に一人一部屋でもなんら問題は無い。正直、昨日あまり休めれなかった僕には一人で自由にお湯に浸かりたかった。それは、皆も同じの筈。
だが…。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ジャージャーと音が狭い空間に反響いていた。
水と共に流れるものは今日の…昨日からの疲れ。
キュッ。
と音を発てシャワーを止める。後は、湯船に入るだけ。なのだが…。
僕は掛けられているタオルに手を伸ばした。
頭を拭き、体を拭く。外に出しておいた着替えに手足を通す。 そして、僕はベットの上に尻を乗せた。柔らかな感触と固い感触の両方が感じられた。
それでも僕はそのベットに横になる。
「フー。」
息を飛ばし天井を見る。…何だと?
お察しされている方もいると思うが一応。
今日、僕達が泊まっている宿は昨日より一段階下の一般プレーヤーの懐に優しい宿屋である。
先程も述べた。僕達の今日、落とした額なら昨日の宿屋にも普通に泊まれた。なら何故に僕達がこの宿屋に泊まっているのかというと、何もケチッタわけではない。
…いや、ケチッタのか?
だが、勘違いはしないで貰いたい。ケチッタのではなく貯蔵。貯金したのだ。
その理由は明日にある。
時は今日のレベル上げを終えた後のフィールド。
解散を宣告した後、流は皆に言ったのだ。
「明日はここのフィールドのボス。ゴーレムを倒す。」
と。
流の提案に誰も反対の声は挙げなかった。
それには今日の戦闘での動きが大きな理由になった筈だ。
敵の動きに慣れてきたのは勿論。皆は若干だが阿吽の呼吸で動けていた。声を掛けないでも動きサポートしたり、指示なしでも交代したりと皆の動きは確実に成長していた。
だから、これなら。このチームワークならもしかしたら…。と思ったのだ。
実際のレベルもそこそこは上がっている。
ゲーム版では今のレベルよりも低くゴーレムに挑んだ記憶がある。明日はアイテムもたんまり買うし防具もそれなりに新調する。
勝てる確率は十分ある。だが、僕は何かが引っ掛かっていた。それが何かが分からない為に反対は出来なかったが。
「明日は勝てるのか…?」
僕はそのまま目を閉じた。昨日の疲れと今日の疲れ。数秒もしないうちに意識を失う。
こんな静かな時間は久々のように僕には感じた。
ここまでくるのに長かったです。ノリで天野流の過去編など書いていたら時間が掛かりすぎてしまったのです。無駄に設定もややこしくしたし…。
まぁ、ネタバレしますとこの章から出てきた人物全員の過去編考えているんですけど…。
ハー。短くまとめれるスキルが欲しいです。
と言ってても…失敬。書いてても仕方無いですね。
そんなこんなでこの章は結構な長編になりそうですが、楽しく、感動のいい話にしたいと思いますのでこれからも心広くしてお読みお願いします。
次回は第一フィールドボス。ゴーレムとの戦闘です~。




