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昔話~終始の堕落~

夢を視ていた。それが何故か思いだせれない。

まぁ、大半の夢は覚えていないのだが…。

しかし今、視ていた夢は。何か大切な意味があったような…?


そんな想いを打ち払うように俺は体を起こした。

いつもの部屋。いつもの朝。いつも通りの日常。

カーテンの隙間から覗く朝陽さえもいつもと同じだ。疑うわけはない。何より自分の感覚が。脳が。

そう感じている。疑いようがない。何も無かった。そしてこれからも。変わらぬ退屈な日常が待っている。

それなのに…


「ア…レ?」


何でか知らず両目からポロポロと大きな滴が止まらず流れる。何も分からない。何が悲しいのか。何が悔しいのかも。何一つ分からない。それでも涙は止まらない。拭う度に手が湿る。こんな現象は初めてであった。何も分からないのに体が勝手に反応している。

俺は何で泣いているんだ?


いくら記憶を探っても何も思い出せれなかった。

昨日の事を思い出しても別に変わった事は無かった。普段通りの日常を過ごしていた記憶しかない。

なのに。なのに何で俺の両目からは涙が流れる?


朝一番。起きて直ぐ。謎の現象が俺に訪れた。

その真意は相変わらずだったが自分の涙が懐かしくも久しくも感じなかった。むしろ俺はここ最近泣いてばかりだった気さえ思える。


「俺は一体いつ涙を流したのだ?」


ボヤける視界で自身の手を映し誰に言うわけでもなく呟いた。

時刻はすっかり朝だ。いつもなら朝食を食べ終え登校の支度に勤しんでる時間だ。受験生である俺は内申に響くことは滅多な理由がない限りはしない。

だが、今日は。今日だけはそんな事を思ってはいられなかった。変わることのない日常が段々と崩れていく。疑いようがない世界が段々と真実を露にしていく。

それでも。それでもこの世界を彩る太陽は変わらずに今日という日を晴れにしていた。


いつものように。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


結局、俺は学校を休んだ。 朝の謎の現象で俺の両目は赤く腫れてしまったのだ。そんな顔を誰かに見られたくはなかった。

…のと何故か今は学校よりも他に行く場所があった気がした。それは相変わらずの記憶だが。


朝から数時間と時間が過ぎていた。太陽は既に朝陽を通り越し、町全体に降り注ぐ位置にまで上がっていた。

のっそり。とその体を起こすと俺は痛む両目を擦りベットから降りた。

隙間程度のカーテンを全開へ開けると体に日光を多量に摂取する。


伸びを一つ。少しの歩行を終え、取っ手に手を掛ける。 遅めの朝食を食べ、パジャマからTシャツの上にパーカーを羽織り、デニム素材のGパンに履き替える。


部屋の四隅に飾られた長方形の鏡に自身の体を移す。 腫れ上がった目は治りつつはあるがまだうっすらとその痕跡を残していた。


俺はそれを誤魔化すようにと引き出しを開け中から伊達眼鏡を取り出す。最後にそれを掛けた自分の姿を視認すると全てを知るための扉を俺は開け放った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


空は晴れ。

ところどころに白い雲が散らばってはいるが温厚な温度である。

そんな天気の下。俺は行くところも分からず歩いていた。

正直のところ何も分からない。だが、何故かじっとはしてられなかった。何かが身体を動かす。何かが身体を引き寄せる。それ故に俺は外に出ていた。


「はぁ〜。」


思わずといった溜め息が口から溢れる。

平日なのか道中に人影は無し。たまに車が横を通り過ぎる程度である。


良かったのか?学校を休んじまって?


今さらながらそんな後悔にも似た思考が頭によぎった。この時期に意味も無く学校を休む事は受験生である俺はあまりしたくはなかった。内申に響く。皆に遅れをとる。真面目では決してないが目指す学校がそこそこにレベルが高い。一瞬でもサボっては他のライバル達に置いていかれる。

それなら自主勉をすればいい。それは分かっている。だが、やる気が起きない。もっとやらなければならない事が。もっと大切な事が…。


そんな想いを打ち消すかのように横で車が走行する。

遠ざかるエンジン音を耳に俺は思った。


俺は何で奔博なんて目指してんだっけか?


思えば疑問だった。何で奔博という秀才の集まりの中に俺は行きたがっているのだ?

皆を見返す?いい大学に行きたい?学びたい事がある?

どれも違うような。もっと大切な…。


何となく見覚えのある景色が目の前に。いつの間にやら自分の家に帰ってしまっていたようだ。

これ以上、外に出ていても何も思い出すことはないだろう。もう少しで何かを思い出せそうではあったが俺は一時、帰宅することにした。


外の空気を吸ったせいか頭の中は寝起きよりかはスッキリとしていた。

自室。勉強机に肩肘を附きながら考える。自分が奔博を目指している理由。

考えること五分程度。何も浮かばない。

分からない事を何時までも考えていてもしかたない。それよりもスッキリとした今の頭なら少しは集中できるかもしれない。相変わらずのモヤは消えてはいないが…。


俺は学校指定の鞄から筆箱と参考書。そして「ノート」を取り出す。


ズキッ。

記憶が振動する。掴んだノートが手から溢れ落ちる。


な…なんだ?…これ?


このまま。このままこの頭痛を体調不良と認めてベットに倒れれば楽ではある。しかし俺はそれをしない。必死に考える。無理矢理こじ開ける。些細なきっかけで起きたこの現象。きっと答えは…。


!?


「…そうか。そうだ。」


呟くような小さな声を先に出した後、俺は勢いよく自室を出る。玄関の扉を開け放し、鍵も掛けずに走る。全力で。行き場所は勿論あの場所。 別れてばかりのアノ地で俺は初めて出逢うのだ。

やっと…


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


息を切らし、汗を湿らせて辿り着いたその場所は今日はばっちり開館していた。平日の為と昼時だからか人は少ない。俺にとってそれはかえって好都合。スライド式の自動ドアをくぐり、迷わず進む。


目的地。

扉には一枚の札がぶら下がっている。


“本日一回目の放映は終了いたしました。二回目の放映時刻は二時からとなります。”


札に目を通しはするものの俺は躊躇いなくその扉に手を掛ける。運がいいのか扉はゆっくりと開き中の暗黙を露にした。靴音を大きく響かせ俺はその暗黙の中へと侵入する。


中に入り、明かりを灯す。もう目に馴染んだ中の光景が目に映る。


「ここだ。ここで確か…。」


勢いよく走りここ。科学館の中にあるプラネタリウムに来たはいいが記憶はここまで。ここで何かがあった。それだけが頭の中…というより身体の感覚に流れただけなのだ。つまり俺は肝心な事は何も思い出してはいなかった。


「ん?」


点けた筈の灯りが突如となく消失した。辺りに再度と暗黙が戻る。


停電か?動くのは危ないか?


とそんな事を思っていると次の現象が起きる。


ブーン。という音がこのプラネタリウムの中央で響くと天井に仄かな明かりが灯った。

一ヶ所だけ。


「北極星?」


暗黙の中。光るその下が示す場所。そこは一席の椅子であった。俺はそこにまるで光に集まる蛾のように吸い込まれていった。

意識しないでも足はその場所に向かう。一歩。一歩とその椅子に近付く。

と残り五歩程の所。


「うぉっ!?」


何故か体が傾いた。それは後ろで誰かが押したようなそんな感覚を感じた。

床に手をつき顔面へのダメージを回避する。


「ん?これは?」


椅子の下に潜り込むような形になっていた俺は椅子の下に何かがくっついているのに気付く。


カサッ。


手がその紙面に触れる。


と。


カラカラに乾いたスポンジが水分を吸収するかのように、頭の中に閉ざされた記憶が吸収される。


「沙窪…。赤坂。」


二人の女性が遺した存在の証。俺はそれを遂に見つけ出した。

とそれを待っていたかのように天井に灯りが灯る。

少しの疑問は感じるも今はそれどころではない。

椅子の下から紙を剥がして目に通す。


5月30日


今日でこの日記を書くのも最後になるだろう。それに関して後悔をしていないといえば嘘になるけれど受け入れる勇気はある。彗蔵さんには謝られたけれどこれくらいが潮時だったのだ。これ以上いれば辛くなる一方だった。分かっているのに。充分なのに。流がいると決心が鈍る。だからこんぐらいが私にとっては好都合なのだ。


ただ。今日。流とつまらないことで喧嘩してしまったことが心残りだった。謝りたかった。どちらが悪いとかそんなのはどうでもいいから仲直りがしたかった。

電話を掛けた。けれど出てくれなかった。怒っているのだろうか?分からない。声を聞きたい。顔が見たい。最後は流と隣でいたい。


そんな想いをこのノートに遺すと共に最後にしたいと思う。たとえ今日、流に会えなくても。もういいのだ。


この世界に来て2ヶ月ちょい私の人生日記は終結する。愛する流の永遠の幸せを願って。



読み上げたノートの切れ端。そこには今、一滴。また一滴と滴が溢れノートの切れ端を濡らしていた。


「そうだ。そうだった。」


思い出した。俺が奔博を目指していた理由。


奔博には天体観測部という毎週星を観測する部があった。沙窪も奔博を志望校にしていたので俺も迷いなく同じ高校を目指した。そしてそこで二人。星を観たかったのだ。本物の星を。部活という形で。沢山の星を。

だが、それは今では叶わない願い。沙窪はこの世にはいないのだから。


もう既にグシャグシャになったノートの切れ端。それを握り締める。

沙窪はいない。なら俺は。なら俺は…。


奔博を目指す意味はあるのだろうか?


間もなく一時半を回る。二回目の放映時間が迫っている。それは分かっている。それでも俺はこの空間で独り突っ立っていた。

定められた選択の道。平凡で凡庸だった俺の道が今、崩れ変わろうとしていた。その事に俺は恐らく気付いていた。気付いていたけれど俺は何も出来なかった。


天井には三つ。夏の大三角形が天井で輝いていた。故障か何かは知らないがその三角形は流を包み、なだめているようであった。



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