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モブキャラが主人公に成るためには?  作者: 醍麒
【第一章】初戦
16/47

奪回戦 ~終~

意識は殴られ吹っ飛ばされる度に失っていた。

しかし、地に倒れると同時に意識は回復し立ち上がれることが出来た。

反撃は出来なかった。仕掛けもなければ思考ももう回らない状態。

よって健生は立っては殴られ、立っては殴られの繰り返しを繰り返しているのであった。


「ハァハァ。なんだってんだ?お前は?何で立つんだよ?」


何度目かの拳撃を繰り出した剣舞は苛立ち混じりに健生に問う。

しかし、そんな剣舞の問いを無視するように健生は無言で立ち上がり同じように剣舞に向かって行った。


実際。健生に剣舞の声は届いていた。

しかし、敢えて無視しているわけではない。自分でも分からなかったからだ。自分が何故に立ち上がり何故に向かって行くのか。

分からなかったのだ。

殴られる為だけに足を動かし倒されるために立ち上がる。そんな行動に意味等あるのか?

そんなの考えなくても分かる。意味など皆無。全く無い。

歩くサンドバッグもいいところだ。


僕が剣舞の攻撃に何故たえられるのか?


勿論、剣舞が本気を出してないというのが大きな理由になるだろう。が、恐らくは二週間の通学路で僕の唯一のトレーニング。無意識のうちにやっていた走り込み(狂犬に追いかけられたやつ)で少なからずの体力がついたのが関係しているのだろう。多分。


“ガシャンッ!”


何度目だ?いくらなんでもそろそろ限界だ。足が。体が立つことを拒み始めている。それに意識だって・・・。


僕の視界がボヤける。


“ドシャッ。”


僕は方膝を地に付けはするも何とかもう片方の足で踏みとどまる。


「ハァ。ハァ。ハァ。ハァ。」


荒い呼吸が口から漏れる。


まだ立てる。

僕の頭にはそればかりがさっきから浮かび上がっていた。

だから僕は立つ。

片方の足に力を入れ直し僕は立ち上がった。


“ザッ。ザッ。ザッ。”


向かうべき相手である剣舞のいる場所までの距離が遠い。

さっきから一向に近付いている気がしない。


“ザッ。ザッ。ザッ。ザッ・・・・”


*******


倒れては立つ。そんなゾンビのような男が今、ゆっくりと此方に向かって歩いてきていた。そのスピードは本当に遅い。


俺はアレがここまで来るのを待たなければならないのか?ここまで来るのに一体どれだけの時間を有するつもりだ。

数センチ進むと足を崩し、時間を懸け立ち上がる。そんな事の繰返し、繰返し。


チラリッ。俺は反磁波が発せられているという椅子に座っている婀姫に目を向けた。


「あっ。」


俺と婀姫の両目が合わさる。二人して短い声を漏らした。それから婀姫は心配そうな目を俺に向けてきた。俺は婀姫を安心させるべく静かに口元を和らげ微笑を返す。

婀姫からこの無意味な決闘を挑んできた主催者であり相手である鈴木に目を移し変える。予想どおり。全くといって鈴木との距離は変わってはいない。


「はぁ〜。」


深い溜め息を口から吐き出し、俺はボリボリと頭を掻いた。

仕方ないか。

俺。力の微妙な加減って分かんないからな。


死ぬんじゃねぇぞ鈴木。


俺は心の中でそう言い地を蹴りあげた。


“バシャッ。”

運動場の微細な砂が舞い散る。剣舞はヨロヨロと足を動かす鈴木に砂が全て地に戻る前に向かっていた。


“シュバッ”


そんな音と共に剣舞の全力の拳が鈴木に向かうのであった。


******


剣舞が消えた。

それは何も僕の意識が無くなったのを意味するわけではないだろう。

だって目には剣舞がそれまでいた運動場の光景が映っているのだから。

なら、剣舞は何処に?

答えは導きだすよりも早くに解った。

僕の目の前に剣舞が現れたからだ。


“シュバッ”と音が聞こえた。それは剣舞が右のパンチを繰り広げたからだろう。

何故に曖昧なのかというとその剣舞の拳撃

。全く視えなかったのだ。今までのとは威力も速さも格が違う。中々くたばらない僕に苛立ちを覚えた剣舞は勝負に出たのだ。

一発で僕の戦意を失わさせる為に。


死んだ。終った。


僕はそう思った。その時。


「なっ!?」


剣舞が、出した手を引っ込めたのだ。


何故か。瞬時には理解出来なかった。

しかし、これが最後の反撃でチャンスになる。

剣舞はすぐ近くにいる。

僕は意識を。全てを目前の『主人公』剣舞に集中させた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」


僕は吠えた。全ての『モブ』の想いを込めて。

僕は今ある全ての力を。想いを固く握った右手に込め振り下ろした。剣舞の頭上へ。

一瞬の隙を生んだ剣舞はそんな健生の全力を避ける暇もなく受けたのだった。


“ガンッ!”


鈍い小さな音が鳴り、数秒。

剣舞はその場へ倒れた。


「ハァ。ハァ。ハァ。」


三回ほどの荒い呼吸をした後。


“ドシャッ。”

健生もその場へと倒れ込んだのだった。


太陽が沈みし時。『主人公』は『モブ』に油断と隙を生み敗北した。

そんな「ウサギとかめ」みたいな幕切れで長いのか短かったのかよく分からない闘いは遂に終わりを迎えたのであった。



ひとまずはこれで第一章の見せ場であるバトルを

無事に終わりを迎えることが出来ました。

無事に?(笑)


ありがとうございます


ここまで「モブキャラが主人公に成るためには?」

を読んで下さった方々へ最大の感謝を示したいです。



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