努力の罠
「なっ、何がおかしいんだ?」
剣舞が問いただす。剣舞が首を傾けるのを見た僕は思わず口許を緩めてしまっていたらしい。
しかし、これに関しては仕方の無いことだ。
なぜなら全てに関してここまで、僕の描いたシナリオ通りに動いて進んでいるのだから。恐ろしいことに。全てが。
「ごめん。ごめん。つい、顔を綻ばせてしまったよ。」
僕は一言まずは謝った。そして続ける。
「剣舞。今お前が考えていることは分かっているぞ。」
「はっ?デタラメ言うな。お前が俺の考えを読んでいるだと?」
「まぁ、そう言うことになるね。 だって今、剣舞。 刺客のこと考えてるんでしょ?」
「それがどうした?別に驚くことでもない。分かる奴には分かる。なんせ今日は一度も刺客が婀姫を狙ってないんだからな。おかしいと思う奴はお前以外にもいるはずだぞ。」
「プッ。あはっはっはっはっはっはっはっはっはっ。」
僕は堪らず大きな笑い声を漏らしてしまった。
当然、剣舞は驚くし周りの観客も「何だ?こいつ?」みたいな目を向けてくる。そんなの知るもんか。
僕は今、非常に嬉しく楽しいのだ。愉しいのだ。
『主人公』を困惑させている。 皆が僕に注目している。
「はっはっはっはっっ。」
僕は笑い終えると尚もまだ困惑と怒りの顔が見受けられる剣舞に説明してあげる。僕が仕掛けた策と準備について。
一応。始めに言っておくけどそんな大した仕掛けはしていないよ。ほんとに単純な仕掛けと準備だからあまり期待しないでね。なんせ「僕」なんだから。『モブ』なんだからね。
「いいかい。剣舞。今日は恐らく刺客が婀姫さんを狙いにくることはない。」
何故?って?
「それを今から僕が説明するのさ。えーと。じゃぁ、まず。ここから少し・・・。いや、だいぶ遠いか。とにかくここから見えるか見えないくらいの所に建っている廃墟なんだけど。まぁ、剣舞君なら見えるかな?眼、いいもんね。あの昔は白く綺麗だったんだろうが今じゃ塗装が剥がれてお世辞でも綺麗とは言えないビル。見える?」
あぁ。やっぱ見えるんだ。
何で見えんだよ!化けもんか?(内心)
「そう。あのビル。あそこに僕はあるものをある感じで仕掛けたんだ。」
ん?何故あんなビルに?って?
「それはまぁ。実を言うとあそこから銃を使う刺客ならあそこから狙ってくるだろうな。って予測してたんだよ。前の授業で飛んできた弾丸。あの弾丸の飛んできた角度と飛距離はあの時、分かってたからね。以下の数値(角度と飛距離)から大体の場所を検討。(つい3日前くらいに場所を見出だした)その大体の場所の近辺で一番怪しかったのがあの無人の廃墟だったってわけ。
五階建てのね。 僕は早速、中に入った。鍵は開いていたから簡単に入れたよ。中はホコリ臭くてまぁ想像通りの汚さだったね。
でも、そのホコリに誰かの足跡が残されていたんだ。しかも新しい。しかし、これだけじゃ証拠にはならない。僕は更に中深くに足を進めた。
一階。二階。三階。と全ての部屋を点検した。
しかし手がかりと呼べるものは無かった。無論。刺客のね。
気になる四階。ついにここで僕は見つけたんだよ。手がかりと呼べるものを。」
えっ?何でそんなこの廃墟にこだわるか?だって?それは前の刺客の暗殺虚地だろ?って?
「確かに僕が見つけたものは、もう剣舞が倒したであろう敵のものだ。しかしだよ。剣舞君。僕は始めに言ったじゃないか。
まだ新しい足跡が残っていた。と。
いい忘れていたけど僕がこの廃墟を調査したのは
3日前くらいなんだ。そして前の授業で弾丸が飛んできた日はもう二週間くらい前になるね。もう分かっただろ?
そうだよ。銃を使った刺客は全員が全員あの廃墟の四階を使用するんだよ。証拠にそこには硝煙の臭いが微かにしたし。足跡がくっきりと残っていた。窓際にね。人が出入りしていないなら日が過ぎればまた埃がかぶって見えにくくなるのにだ。
これは日が新しい時に誰かがここにいた何よりの証拠になる。僕はそこで四階のその部屋にある物を仕掛けた。仕掛けた物とは?それが、スタンガンだよ。熊でも一撃で仕留められる程の電圧が流れるやつをねっ。」
むちゃくちゃ言ってる。って?まぁ。まぁ。落ち着いて最後まで話を聞いてほしい。
「僕は五階に上がり例の四階の部屋の真下に位置する場所に行った。そして、四階のドアに位置する場所に小さな穴を床下に空けたんだ。時間が掛かったのなんの。愚痴はまた今度、機会があったら聞いてもらおうか。
それからだ。そのスタンガンの電圧をMAX。熊でも一撃で仕留められる程の電圧に設定する。慎重にスタンガンのストラップ穴に釣り針の針を通す。あとは息を止めながら慎重に慎重に穴からスタンガンが付いている釣り糸を垂らす。
まさに釣りでもしているかのようにね。スタンガンの餌を垂らしたんだよ。
程なくしてスタンガンは何か障害物的な物にぶつかる。ドアノブだ。そのドアノブに電圧が流れっぱなしのスタンガンを密着させて第一の仕掛けは終了。ドアノブは鉄製だったから内側から電圧を流電させ帯電させたんだ。外側からドアを開けようとした刺客が感電するように。さらにそのドアの床下に目立たないように電線を仕掛けておいた。(ていうか、業者の人に頼んだ。)ちょうど足で踏む位置にね。そうなるとどうなるか?さて。さて。この紙芝居で順番方式で説明するよ。
①部屋に入ろうとした刺客。自然にドアノブに手を掛けた。
②そこで、体に熊も一撃で仕留められる電圧が刺客に流れる。
③その時、刺客の体から電流が感電し床下の電線に流れる。人の体からでも電気は通るからね。
理科の授業で習ったじゃん。
④その電線は天井に設置してある全蛍光灯に繋がっている。
⑤その蛍光灯の一つ一つに睡眠ガスが入っている鉄製の小缶を付着させておいた。
⑥鉄は熱に溶ける。缶は刺客が来る前に溶け始めていた。電熱でね。
⑦そこで、刺客を通しての高電流がプラスされる。当然、電力は上がり、時間はかかるが電熱も上がる。
⑧今まで地味に溶けていた缶が一気に物凄い早さで溶け始める。
⑨次第に缶の中身の睡眠ガスが流出し、四階全体はガスに包まれる。
⑩気絶していても息は吸う。刺客はガスを吸いいれ深い眠りに陥る。
ちゃんちゃん。
こうして僕は無事に刺客を倒したのであった。いや、眠らせたのであった。」
紙芝居を仕舞いながら僕はまだ話を続ける。
「もちろん。全て、紙芝居通りに事が進めばの話だけどね。しかし断言しよう。刺客は僕が倒した。今日は来なぁっ・・。あっ!?」
しまった。一番の見せ場で噛んでしまった。
お約束にしてもこれは恥ずかしい。
言い直さなければ。それこそメチャクチャ恥ずかしいが。仕方ない。
「断言しよう。刺客は僕が倒した。 今日は来ない!!」
言えた。気持ちいい。
「さぁ、じゃぁ、始めようか?分かっただろ? 邪魔者は来ない。全力で始めよう。闘いを。」
僕はもう既にこの世界の『主人公』になったかのように不敵に笑ってみせた。




