第四節 2023/3/11 ホーム 対浦和レッズ 0対1
「そういえば、村田さん。ルヴァンカップと天皇杯っていうのは、おっかけないんですか?」
「カップ戦かー。うん。対象外にしてる」
「何でですか?」
「体力的にキツいんだよね。僕は薬の副作用の関係もあって普段は寝込んでることも多いんだ」
「なるほど」
「だから、今シーズンはリーグ戦だけを追っかけようと思う」
「了解です」
ふざけて敬礼をしながら、小林さんが答える。
こんなに明るい子が、なぜ死のうと思うんだろう。
いや自殺に意味などもたせては、自分が苦しむだけだ。
私は高校のチームメイト、楠のことを思い出していた。
自殺はその人の寿命が尽きただけだ。それだけのことなのだ。
座席につき、選手入場に合わせ神戸讃歌を歌う。そうすると相手応援席から、凄まじいブーイングが飛んできた。
「なんかやな感じですね」
「そうだね。すごく感じが悪い」
「勝ちたいですね」
「勝ちたいね」
だが、試合は一瞬のチャンスをものにされ、その1点で逃げ切られた。
「悔しーい!」
「今日は勝ちたかったのにね」
「大体浦和のファンって、ことあるごとにブーイングしてマナーが悪いですよ」
「彼ら曰くブーイングするのがマナーらしいけどね」
「ここから、ヴィッセルって落ちていくんですか?」
「どうだろう。それでもおかしくはないと思う」
「村田さんって、無理に落ち着いてる気がしますね」
「無理にって」
「熱いものを隠してる気がする」
「そうかな」
「昔に何かあったんですか?」
楠のことを思い出す。
小林さんになら、話してもいいかも。
いや、小林さんだから、話してはいけないのだと考え直す。
「昔は部活に没頭してたからね。熱いものは持ってるよ」
「それをもっと出せばいいのに」
「大人になるといろんな邪念が邪魔をするんだよ」
「そういうもんですか」
「小林さんは何歳だったっけ?」
「21ですよ」
「じゃあ、まだわからないかもね」
「わかる日は来るんでしょうか」
私はどきりとする。自殺を安直に止めないことで、小林さんとの関係は成り立っている。
だが、私は自殺を止めたい。
でも、自殺を寿命と思い込むことで、私は自殺に対処してきた。
そんな葛藤の中で、言葉に困っていると小林さんが言葉を続ける。
「なーんてね。少なくとも、この旅が終わるまでは色々と大丈夫ですよ。だから、22になるまでに理解します」
ほんの少しの安堵感と、二人の命を背負ってしまっている使命感が心に滲む。
小林さんの心に響く何かが、この旅で生まれるだろうか。
そんなことを考えるうちに気づく。
まず、自分が生きたいと思っているのかと。




