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第三十一節 2023/10/28 アウェイ 対湘南ベルマーレ 1対1

「最近、コンビニの人と仲良くなってきました」

「それは良かった。どんなこと話してるの?」

「もう、正直に話題がないと言いました」

「なるほど」

「そうすると、逆にマンガとか音楽とか、色々教えてくれて試してみてます」

「へぇ。どんなマンガ読んでるの?」

「ベルサイユのばらですね」

「古典から入ったんだね」

「で、コンビニの人から注意されたんです」

「何を」

「村田さんは、絶対、私を狙ってるって」

「うーん。正直な意見を言うとそんな余裕はないかな」

「余裕がない」

「うん。僕の感覚では小林さんとの会話は飛び降り自殺をしようとしている人の前で必死に説得をしてるような状態なんだ」

「そこまで切迫してましたか」

「僕の中ではね。最近は随分楽になったけど、それでも大きな意味ではその感覚は変わらない」

「それでも、なんで会話してくれるんですか?」

「人を救いたいからだよ」

 楠のことを思い出す。

「僕は生きる価値をヴィッセルに見出さそうとしている。でも、それができないことの可能性が高いとも思ってるんだ」

「でも」

「人を一人救えたと思ったら僕の人生に価値があると思える。そのことをおかずにして一生ご飯を食べていける。そう思うんだ」

「でも、私はまだ『死にたい』と戦い続けますよ」

「うん。でも、もう小林さんなら、いつかその戦いに打ち勝つことも僕は理解している」

「村田さんに私の何がわかるんですか」

「分からないよ。それでも断言する。小林さんは必ず打ち勝つんだ」

 小林さんが嘆息する。

「何だか呪いですね」

「そうだね。僕はこの数ヶ月をかけて呪いをかけたのかもしれないね」

「村田さんは自殺ってなんだと思います?」

 その直球の質問に直球で答える。

「人の気持ちがわからないバカヤロウのすることだよ」

 その後、小林さんは考えこみ、会話は中断となったがチャントが始まると声をあげて応援を始めた。


 試合は1対1の引き分けで、辛うじて首位をキープすることになった。


 帰りの新幹線で、小林さんが重い口を開いた。

「村田さんはまっすぐですね」

「かもしれないね」

「私は本当に『死にたい』に勝てるんでしょうか・・・」

 小林さんを見ると、目から涙が流れている。

 多分、今まで抑えてきたものや、強がってきたものが溢れ出てるんだろう。

 私はとりあえず、首にかけていたタオルマフラーを手渡す。

「ヴィッセルの応援は楽しい?」

「楽しいです」

「僕は呪いをかけたけど無理に勝とうとしなくていい。ただ例え何が起きても小林さんに僕は死んでほしくないんだ。この旅を通じてそういう人間がいることを小林さんは知ったと思う」

「はい」

「ひとつずつなんだ。楽しいことを知りそれで胸がいっぱいになる。ヴィッセルはまだ小林さんの心を満たしてないかもしれない。それでも・・・ほんの少しだけ生きる希望になったと思いたいんだ」

 自分にも言い聞かせる。

 その後の帰り道は小林さんのかすかな泣き声に満ちていた。

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