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GA/借金まみれで夢も希望もなかった僕が××へ行く為の物語  作者: 空場いるか
第四幕前編 Three of Spades
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Λ バイト前、自己紹介

12月2日朝6時前。

僕はアイオライトから遠く離れた、アルバスト駅に居た。

その理由は勿論、今日と明日に働く予定のバイトの集合場所がココだったからだ。


とはいえアルバスト駅に居るというのは正確には語弊があり、実際に僕が居るのは駅に隣接した貸し出し可能なビルの一室だ。


早く来たつもりだったが、既にその部屋には三十人程が集まっていた。

その面々は間違いなく僕と同じ目的で集まった者達だろう。

集まった者達は皆、仕事開始時間を今か今かと待ち侘びている。


そんな仕事が始まる前のピリついた空気を肌で感じながら周りを見渡すと、既にビルの中には何個かのグループが出来ていた。

きっと、僕が到着する前に一通り人間関係が構築されてしまったのだろう。少し遅れて来た事を心底後悔しながら、僕は腕時計を確認する。


時間は5時40分。

まだ20分もある・・・


あまりの居心地の悪さに隅っこの方で小さくなっている僕。

このまま仕事開始まで大人しくしていようと思っていたが、社交性のかけらも無い僕に対して、なんと声を掛けてくれる者達が居た。


「なぁ、君」


僕に声を掛けてくる二十代前半の男。


広い部屋をわざわざ横断して来た彼と、彼の隣に居る同じ年齢くらいの女性は、心配そうな表情で僕を眺めている。


「はい。・・・どうかしましたか?」


「いや、その〜〜・・・君、さ。家に帰った方がいいと思うぜ」


「え?」


思いがけない言葉を掛けられた僕。

もしかして20分前行動は常識外れだっただろうか?


そういえば仕事の始まる一時間前から仕事の準備をしておくのがマナーだと、日本に居た時に聞いた事がある。


これは・・・もしかして、もうクビ・・・?


やはり社会に出るには、僕はまだまだ未熟だったのだ。

打ちひしがれ目の前が真っ暗になる僕に対して、男性の隣の女性が口を開いた。


「・・・家出少年のいるべき場所ではない」


「いえ・・・で?」


思いがけない言葉に、真っ暗だった筈の僕の視界が開ける。


「うぉぉぉい!センシティブな話題だから敢えてぼかしたのに、なんで直で口に出しちゃうの?最近の若者はガラスのハートなんだよ?!」


彼女の言葉に対して、男性は大声でリアクションを返す。

どうやら、彼女達は盛大に勘違いをしている様だ。


「あのー、僕は家出じゃなくて、バイトに来たんですけど・・・」


僕の言葉に夫婦漫才を中断して目を見合わせる彼等。

一瞬の静寂の後、二人は此方に声を合わせて話しかけてくる。


「「それ、本当?」」


「ええ、本当です。メールを見てエントリーしました」


僕の言葉に二人はもう一度目を見合わせた後、大きなため息を吐く。


「あんな応募要項と契約書で、本当にバイトが来るとは・・・」


「・・・貯金ゼロで野垂れ死ぬ手前の私達でも、来るかどうか悩んだレベル」


「そこまで・・・ですか?」


「そうだよ。エントリーした後に送られてきた契約書、ちゃんと見たのか?」


「はい。時給100ドル。特別手当2000ドルですよね?」


「・・・問題はその後」


「命を落としても一切の責任を負いません、って書いてたの見たか?どう考えても時給100ドルじゃ割に合わないだろ」


「・・・?」


割に合わないだろうか?

僕がホームレス時代に働いていた店は常に危険と隣り合わせだったが、時給は今回の仕事の1/10以下だった。


それと比べると、今回の仕事はかなり良心的だと思えるのだが・・・


「不思議そうな顔しちゃってからに・・・。あのな、俺たちみたいなバイト枠は肉壁としか思われてないからな?雇い主からしたら死んでくれた方がラッキーだと思ってるだろうぜ」


肉壁か。

確かに人数さえ集めれば邪魔にはなるだろうが・・・


「でもただの肉壁じゃ、強盗から絵は守れないんじゃ?」


僕の素朴な疑問に、女性は部屋の一角を指差す。


「・・・本命はあっち」


彼女が指差した方向には、強面の男達がまるで群れを作るかの様に集まっていた。

見るからに屈強な彼等は、来たるべき戦闘のために自らの武器の手入れをしていたり、瞑想に耽ったりと様々だ。


そんないかにもな彼等を眺めていると、僕の横で僕に声を掛けて来た男性が目を輝かせて饒舌に話し出す。


「右から順番に、B級でも実力者揃いの鉄の鎖の幹部、無欠のオルカとテリー。C級 俊美のサファイア。同じくC級の、巌のロックフィスト。さして最後に、A級・・・トライデントの三人組。トライデントはなんたって、たったの三人でA級になったレジェンドだ!そんな奴らと働けるなんて・・・くぅ〜〜〜マジで光栄だぜ!」


目を輝かせる男性とは真逆で、女性は溜息を吐く。


「・・・あんなのがうじゃうじゃいるから、私達が薄給になる」


それに釣られて、男性も溜息を吐いた。


「そうなんだよなぁ・・・。俺らも早く、ビッグになりたいぜ」


肩を落とす二人。

どうやらA級やらC級やら、バイトの世界にも階級が有るようだ。


僕が知らなかった世界。

何が常識かなんて分かる筈もないのだが、にしても階級の他に、何やらかっこいいチーム名や二つ名がついているのは個人的にはモチベーションが上がるポイントだ。


僕もこのバイトで成功したら階級が上がり、有名人になったりするのだろうか?


「そういえば、貴方達にはカッコいい二つ名は無いんですか?」


僕は目の前の二人に素朴な疑問を投げかけた。


「あぁ、そういえば自己紹介が遅れたな。俺はロス。二つ名は・・・まだ秘密だ」


「・・・私はガルラ。二つ名は活躍した時にアイツらは誰だっ!ってなる為に秘密らしい」


「一気にカッコ悪くなるから、それ言うのやめろな?」


上手く噛み合ったツッコミとボケ。


・・・なんて息のあった二人なんだろうか。

やはり相棒というものはこう有るべきだろう。

僕とフォンも息がどんどんとあって来ているが、それでもこの二人の熟年夫婦の雰囲気はまだ越えられていない。


しかし、せっかく自己紹介してくれたのだ。

此方も自分の名前くらいは名乗らなくては。


僕は先程のロスの紹介を真似て自己紹介してみた。


「僕は白き死神(ホワイトエンド)の、ユーヤです。よろしくお願いします」


そんな僕の言葉に、突然と静まり返る一室。


先程まで鳴り響いていた雑談の声や、武器の手入れの音が止まる。

そして、一気に僕へと集中する視線。


そして・・・その静寂は、一気に笑いへと変わった。



「「「はははははは!!!」」」


各方面で響く笑い声。

目の前のロスとガルラも、笑いを堪えるので必死だ。


先程ロスに紹介されていた有名人達が笑いながら此方へと歩いてきて、僕へと声をかける。


「坊主!強さに憧れて嘯くのは良いが、流石に無理があるぞ!」


彼は確か、C級のロックフィストだっただろうか?

僕を見て彼は大きく笑う。


そんな彼とは対照的に、C級のサファイアは僕を心配そうな目で見つめる。


「坊や、あのね・・・真似して髪の毛を染めたり、目の色を変えてみたりしても良いけど、本当に信じちゃう人もいるの。危険だから、そういうのはやめておいた方がいいと思うわ」


そんな(彼女?)の言葉に続いたのは、確か・・・B級のオルカとテリーだ。


白き死神(ホワイトエンド)は2メートルを超える大男だ。それに最大の特徴として、改造手術で途轍もなく長い腕の前腕を透明にしているらしい」


「見間違うことは無いだろうが、それでも万が一がある。そもそも噂を聞いて、白き死神(ホワイトエンド)本人が殴り込んでくる恐れもあるだろう」


2メートルを越えて、前腕が透明・・・


どうやら僕が仮面を被ってから名乗っていた白き死神(ホワイトエンド)という名前の人物は、既にこのバイトの世界に存在していた様だ。


確かによくある様な名前なのだが・・・下手に名乗ってしまった手前、そんなインパクトの有る化物の様な人物を超える事が出来るか心配になってきた。


バイトが始まってすらいないのに自分のこれからが心配になって来た僕に、追い打ちをかける様にロスが声をかけてくる。


「もう既に、世界を股にかける有象無象(アンダージョーカー)を相手する事が決まってんのに、そんな所に白き死神(ホワイトエンド)まで来ちまったら終わりだよ・・・。ユーヤ・・・って名前は嘘じゃないよな?本当に、やめといた方が良いぞ?」


不安げな表情で僕の肩を叩くロス。

しかしそんな彼の言葉を聞いてA級の三人組、トライデントは不敵に笑った。


白き死神(ホワイトエンド)・・・確かに、絶望的な相手だ。既に何人もの同胞がその手で暗き牢屋へと運ばれた」


「確かに避けれるものならば避けたい所だが」


「襲いかかってくるというのならば、」


「「「必ずや、我らトライデントが上回ってみせる!!!」」」


彼等の持つ武器である、剣と銃を空へと掲げる三人。

その三人に、部屋から歓声が湧き上がる。


・・・成程、流石はA級だ。

場を沸かせ、バイトの面々のモチベーションをアップさせる事など、彼等からすれば容易いのだろう。

一方僕は、たかが自己紹介で彼等のモチベーションをダウンさせてしまった。

もっと精進せねば。



「なんだ?この盛り上がり様は」


異様な盛り上がりを見せた部屋の入り口から声が掛かる。

そちらに目を向けると、ちょび髭を生やした五十代半ばの男が立っていた。


「まぁ、士気が高いのは良い事だ」


彼はそう話すと入り口の扉からズカズカと部屋の中心へと大股で歩いて来て、そして自己紹介を行った。


「私が今回の依頼人、アレクサンドル=ベルトだ。よろしく頼む」

とうとう100話に到達しました。

普段から読んでくださってる方のお陰で続いております。


感想・評価等も頂けると励みになりますので、是非よろしくお願いします。

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