お誘い
「任務ご苦労だった。機関から報奨金が出ている」
「ありがとうございます」
「うむ、きつい任務だったと聞いている。今後はグレイポートの平和のために尽力してくれ」
衛兵の詰め所で隊長から布に包まれた物を受け取る。
任務はある密売組織の潜入調査だった。
......その任務には自分から志願した。
理由はとある殺人事件が始まりだった。
人混みで溢れる王国の首都『ワルドリア』
その路地裏に若者の死体が珍しくもなく転がっていた。
それは、たった一人の肉親。兄だった......。
とある密売組織に潜入調査として入り込んでいた兄は無惨に殺されてしまった。
両親を幼くして無くした私たちは身を寄せ合って暮らしてきた。
「誰かの役に立ちたい」
兄の口癖だった......。
私は組織の壊滅の手助けになればと、潜入調査を願い出た。
任務は順調に進んでいた。
組織の幹部に抱かれ、黒幕の名前まで聞き出すことが出来たのだ。
だが、その脂ぎったおやじが笑いながら私の兄を殺した時の事を話し出した時......。
私は幹部に跨り、その男と繋がったまま、その男を殺した。
そして呆気なく捕まり、拷問と始末のために運ばれていたところをカツに助けられたのだ。
どうせ、こいつも私に乗りたいだけなんだろ......。
私は助けられてなお、そう思っていた。
だが、彼の優しさに触れ、覗くなと言って本当に覗かなかった時から彼への印象が変わってきた。
「例の密売組織は壊滅したそうだ。黒幕がすんなりと全てを吐いたそうだよ」
「......そうですか」
なぜだか、それほど喜びは感じなかった。
「お手柄だったな......。ところで、恋人が居るそうだな」
「え? ああ、はい」
突然の質問の内容に声が上擦る。
「報告が上がってきている。なんでも右手が黒く変色していて左手には精巧な義手が付いているとか」
「......手が逆ですね。右手に義手で左手が黒です」
私は少しムッとして、そう答えた。隊長はそんな反応を楽しんでいるように思えた。
「む! そうか、後で書類を書いた者に注意しておこう。で? どうなんだ?」
「と、言いますと?」
「いかにも怪しい風貌じゃないか。......危険はないのか?」
隊長は手にしたペンを私に向けて、そう聞いてきた。
「......私は彼を善人だと思います」
私は隊長の目を真っ直ぐに見て、そう答えた。
「うむ、そうあって欲しいものだ。どうだ、お前の歓迎会を開くから連れてこないか?」
「......それは、ちょっと」
「ふむ、ならば命令だ。なぁに、取ったりはしないよ。私は面食いなんだ」
隊長は私より大きな胸をシャツのボタンが弾けそうなほど張って、そう言った。
私は少し不安になった......。
(テツ、おっぱい好きだしなぁ......)