クルガの帰郷と死にゆく王国の騎士
夕食の時間、クルガが話があると言い、みんなの視線を集める。
「もうすぐ子供が産まれる。しばらく国に帰ろうと思っている」
この件については以前から言われていた事だ......。
だが、いざその時が来ると少し寂しいという気持ちが沸いてこなくもない。
「......うん、大事な家族の事だもんな」
「気を付けて帰るんだよ」
「お気をつけて」
皆の言葉にクルガは少し照れくさそうに鼻の頭を掻いている。
「うむ、出産が済んで落ち着けば、此処に帰ってくるつもりだ」
「うん、待っているよ」
クルガは翌日の早朝、みんなに見送られグレイポートから旅立っていった。
****
グレイポートから西へと続く街道にて......。
クルガが町から出てしばらく進むと、街道の脇から人影が飛び出す。
......その人影はアオイだった。
クルガはアオイの存在が分かっていたかのように立ち止まり視線を合わす。
「......帰るのか」
「うむ」
アオイは静かに腰の剣に手を掛ける......。
その様子をクルガは黙って見ていた。
アオイが少し腰を落とすと、クルガの身体を通り過ぎるように駆け抜け、抜き手が見えないほどの速さで剣が振られた。
「うむ、さっぱりした。......感謝する」
「うん」
はらはらと落ちるクルガの頭髪......。
クルガは、髪が短くなった頭を撫でながらアオイと言葉を交わし、再び故郷への道を駆けだしていく......。
アオイは少し寂しそうな顔を浮かべ、狩りの相棒の背中を見送っていた。
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クルガがグレイポートから旅立って数日後。
「新婚旅行とでも思って、お願いできませんか?」
エステリオさんが、鉱山都市『ティシカ』への訪問を頼みに俺の家にまで来ていた。
「新婚旅行? 新婚......旅行......」
セリアが聞いたことの言葉だが、その意味は分かったようで徐々に口元を緩めていく。
「まあ、構いませんけど......。逆にいいんですか?」
「兄がカツジさんのマッサージを、いたく気に入ったようでして......」
「は、はあ......」
「ここで機嫌を損ねると、次は何を言って来るか分かりませんので。不安は少しありますが、お願いします」
『ティシカ』までは2週間の道のり......。
距離はそれほど離れていないのだが、山岳地帯を迂回しながらなので意外と日数が掛かる。
「しばらく店を任せて良いかな?」
俺はアルムに向かって、そう言った。
「......仰せのままに」
アルムは少し複雑な表情を一瞬浮かべたが、すぐに正してそう答えた。
「旅行! 旅行! 二人きりで旅行!」
セリアはすでに俺の言葉から、旅行が決まったと判断して飛び跳ねていた。
「私も行く」
そんなアオイさんの言葉でセリアの表情が凍り付く。
「ダメ! 絶対ダメ! 二人きりで行くから新婚旅行なんです!」
「む......。じゃあ、1年後に行く。......カツと二人きりで」
「むむむ、......分かりました。今回付いてこないなら、良いでしょう」
「じゃあ、旅行に行く前に......。居ない間だの分もしておく」
アオイさんに強引に唇を奪われると、俺は寝室へと引きずられる。
「こ! こら~!」
遠くに、エステリオさんの「それでは準備進めて貰いますね~」と言う声が聞こえ、寝室の扉が閉められた。
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そんなグレイポートの小さな騒ぎの中、遠く離れた王国の首都では一人の騎士がベッドの上で自らの死を迎えようとしていた。
「ふっ......。この私がベッドの上で死ぬとはな......」
壁に掛けられた白銀の鎧を見ながら壮年を過ぎた年齢を感じさせる顔付きの男は呟いた。
王国最強の騎士『フェイダン』
ドラゴンとの戦いにより傷を負った彼は『治癒魔法』の効果も虚しく、その命の炎が消える時を静かに待っていた。
「で? 私に何の用かな? 死神が迎えに来たか?」
フェイダンは静かに部屋の隅に立つ老人に声を掛けた......。
その次の日の朝、冷たくなったフェイダンが屋敷の使用人に発見される。
その顔はどこか満足気に微笑んでいるように見えたという。
国を挙げての葬儀が行われる中、老人と少女が王国から人知れず旅立っていった......。




