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水の魔法(洗い濯ぎの魔法)

 最近、靴を履くのが苦痛になってきた。


「足の爪、凄いね」

「ああ、もう鉄のヤスリじゃ削れなくなってきたんだ」

「じゃあ、右腕をヤスリに変化させれば?」

「なるほど。......いいね」


 俺は右腕をヤスリに変化させて足の爪をゴリゴリと削っていく。


 今じゃ、足の裏も固くなり靴よりも素足の方が良いかもと思い始めていたが、もう少し靴での生活を続けてみよう。


 鱗もどんどん増えてきている。


「もしもトカゲになったらどうする?」

「ふふ、ちゃんと面倒見てあげるわよ」


 俺の不安な気持ちをセリアは笑顔で吹き飛ばしてくれる。


 本当に大好きだ......。


****


 グレイポートに夏が本格的にやってきた。

 降り注ぐ太陽が肌を焼き、女子は薄着になって自然と開放的な気分になる。

 一年で一番暑い(熱い)季節だ。


 と衛兵の副隊長のドランさんは力説していた。

 


 そんな中、薬屋のディックと共に開発していた清涼シャンプーはついに完成を迎えた。


 開発途中で出来た育毛シャンプーは本屋の親父に高値で売りつけた。

 育毛シャンプーは結構希少な薬草をいくつも使うため、大量生産は難しそうだ。

 町の薄毛に悩む人たちに、本屋の親父よりは若干安く販売した。


(本代をふっかけた報いだ......。俺も気分で商売してるな)


「育毛剤はまあまあの利益になったぞ。はい、テツの分」

ディックが渡してきた袋には金貨50枚程は入っていた。


「凄いな、こんなに儲かったのか」

「まあ、もっと高くても売れるんだろうけどな。それよりも配合のレシピの方が俺は怖いよ」


「いっそ大きな商会に売っちゃうか?」

「その方がいいかもな」


 一応レシピを書き留めたメモは半分に分けて俺とディックで保管している。


 すでに奇跡の育毛剤の噂は町中に広がっていて購入希望者が押し掛けたが、原材料の入荷待ちのために製造が滞っていた。


「本来の目的の物じゃないし、俺は構わないぞ。同じく薬を作り続けるなんて性に合わないしな」


 ディックは研究者タイプなので利益より、新しい薬を作るほうが楽しいらしい。

 

「知り合いに信用できそうな人は居る?」

「居ないなぁ」

「まあ、衛兵の隊長にも相談してみるよ。それよりもシャンプーをくれ」

「ああ、これだ。完成品第一号だ」


 ディックが取り出した容器には青く輝く液体が入っていた。


「これか......。綺麗だな」

「ああ、見ているだけで涼しい気持ちになるだろ」

「うん」


 俺は清涼シャンプーをディックから受け取った。


 もちろんディックの頼みで、シャンプー第1号として洗ってやる。


 俺は呪文を唱えて『水の魔法』による水の固まりでディックの頭を包む。

 

 この為に必死で覚えたのだ......。


 そして清涼シャンプーを数滴混ぜて『闇の触手』で絶妙に頭皮を刺激しながら洗っていく。

 その後、水を新しい物と入れ替えて濯いでやり『火の魔法』で熱風を当てて髪を乾かしてやる。


「この洗髪に、いくらぐらいなら払う?」

「鉄貨2枚は払うぞ」


 5分程度で鉄貨2枚......。


(悪くないな)


 清涼シャンプーの材料費はそれほど高くない。

 ほとんどが、複雑な配合を行う手間賃といったところだろう。


****

 

 清涼シャンプーは概ね好評だった。

 いや、好評過ぎる程だった。


 炎天下での鎧を着ての見回りは、想像するだけで地獄なのが分かる。


 見回りの衛兵は交代時間になると、頭から湯気を出しながら俺の居る衛兵詰め所の休憩室まで駆け込んできた。


「た、頼む......、頭が茹であがりそうだ」

「はい、そこ座って」


 あまりにも清涼シャンプーの客が多かったため一番暑い昼時はシャンプー限定の営業として、回転を良くするために髪の乾かしを無しにして時間も短縮した。


「た、頼む」


(ドランさん、何回目だよ)


「はいはい、座って」


 俺は次々と客を捌いていく。


 今は一度に3人の対応が限界だ。


 椅子に並んで座る衛兵の頭を黒い無数の触手が揉んでいる様子はかなり恐ろしい光景にも思える。


 あまりの忙しさに、清涼シャンプー自体の販売も頭をよぎったが、なんとか押し止まった。


 暑さの収まる夕方まで忙しさは続き、その後もマッサージを待つ衛兵たちの対応で、この日は暗くなるまで詰め所から出れなかった。


 だが、この日だけで金貨10枚を越える売り上げが出てセリアと帰宅してから喜びあった。


 そして気づけば『水の魔法』の水作成と水流操作を無詠唱で使えるようになっていた。


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