闇の触手(正しい使用方法)
俺は西地区の衛兵専門とはいえマッサージ師という職を得る事ができた。
週2回の勤務だが、大量のタオルの洗濯にオイルの研究。
そしてマッサージの腕の向上にとなかなか忙しくなってきていた。
浮気については何とか許して貰えたのだが、セリアもそんな事態になる事を少しは予想して覚悟はしていたそうだ。
「本気にならないなら我慢する」
その言葉に、風俗なら気にならないと言った昔の彼女を思いだした。
とは言っても同僚の彼氏に手を出すような女性なんて早々居ない......でもないか。
セリア曰くアオイ副隊長は、まるで猫のような女性だという。
気紛れでわがまま、放っておいたら何をするか分からないそうだ。
だが剣の腕は一流で、かつては王国一の騎士と負けはしたが互角に戦ったことがあるとか。
「そんな人に迫られたら仕方がないよ」
セリアは少し慰めるようにそう言った。
セリアの中ではライナ隊長も要注意だと言っていたが、他の女性隊員も触手に巻かれたらどうなるか分からないと言っていた。
最近、触手からの快感が大きくなっているという。
※『闇の触手』に快楽を与える能力は本来ありません。
あくまでも攻撃の魔法で苦痛を与えるのが目的の魔法です。
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翌日、セリアを見送ると家事を早々に済ませ、大量の使用済みタオルと格闘する。
午後になり買い物に出ると、何やら町が騒がしい。
俺は好奇心から騒ぎの中心へと向かっていくと......。
通りの真ん中で、少女を抱き抱えて首に刃物を当てて叫んでいる男が居た。
周りの野次馬の話では、大きな商会の娘さんだという話だ。
男の周りを衛兵が囲み、その中にはセリアの姿も見えた。
男は興奮しているのか目を血走らせ、衛兵に下がれと叫んでいる。
近くでは父親らしき男が頭を抱え、母親らしき女性が膝を突いて泣き叫んでいる。
少女の首筋に傷が少し傷が付き赤い血が流れる。
少女は恐怖から失禁してしまったのか、足下が濡れていた。
(これは、一刻の猶予もないな)
俺は野次馬をかき分けて衛兵の一人に近寄る。
近くに居たのは昨日、膝を治療した衛兵だった。
「カツじゃないか、危ないから下がっているんだ」
「......俺が触手であいつの動きを止めますよ」
「......出来るのか?」
俺は強く頷いた。
「分かった、隊長に話してくる」
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ライナさんは、今まで見たこともない厳しい表情をしている。
「正直、打つ手がない。一瞬でいいから男の動きを止めれるか?」
俺を真っ直ぐに見て、そう聞いてくる。
俺はその瞳を見つめ返して、強く頷いた。
未だギャアギャアと騒ぐ男は興奮が高まっているのか、今にも少女に刃物を突き刺しそうだった。
少女の首からは血が流れているが傷は浅そうだ。
だが、恐怖から気を失ったのか少女はぐったりしていた。
俺は衛兵の陰で意識を集中させる......。
左腕から『闇の触手』が伸びると俺の影の中へと潜っていく。
(一瞬で縛り上げる......)
俺は心でそう呟き、集中を高めた。
男の足下の影から触手の先端が顔を出すと、衛兵の緊張も高まる。
その緊張を感じてか周りの野次馬も静かになり、通りは奇妙な静寂に包まれた。
聞こえるのは男の叫び声だけ......。
足下から男のズボンの中へと滑り込んだ『闇の触手』は男の手首まで一気に縛り上げると同時に男に麻痺の効果を与えていた。
「ぐが!」
突如、自由が効かなくなった男は抱き抱えていた少女を放し、少女は地面へと落ちていく。
それをタイミング良く駆けだしたセリアが受け止める。
(グッジョブ!)
俺は心の中で力強くセリアにサムズアップしていた。
衛兵が男に殺到し、見事に捕縛したころには触手は消え去っていた。
衛兵の全員が俺に向けて表情の見えない兜の向こうから、視線だけでよくやったと伝えてくる。
「見事だ」
ライナさんは軽く俺の肩を叩いて、そう言うと。
「連行しろ!」
と言い通りを後にした。
衛兵の少なくなった通りでは少女とその両親がお互いを抱き締めあって、少女の無事を喜んでいた。
一部の衛兵のみが知る活躍を終えた俺は、買い物をするため通りを抜けて商店街へと向かうのであった......。




