表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

珠伊師の策謀

1 会議


 大規模災害庁では珠伊師を長とした報告会議がなされている。

「その後愛知県の森林火災消火状況は何処まで進みましたか」と珠伊師。

「五百ヘクタールのうち九十五パーセント鎮火を確認しております」と報告者の一人が声をあげた。

 珠伊師は報告書に目を通す。

「Gドロイドが損傷しているという報告がありますね。損傷状態はどうですか?」

「はい。偵察花子一体と消火支援太郎二体が破損しております」

 重ねて聞く珠伊師。

「原因は特定されまして?」

「はい、花子は火災深く侵入したようで位置情報不良で熱によるその他各種センサーも動作不良を起こしております。太郎は自重により谷底へ滑落したようであります」

「修理、可能かしら?」

「横取博士の分析では、太郎は部品交換で戦列に復帰出来そうですが、花子はどうも廃棄扱いになりそうです」

「廃棄ねえ。また作れば良いんだし」と珠伊師。

「つぎ、東北高速道の大橋トンネル崩落現場はどうです?」

「復旧は続いております。瓦礫の除去などで太郎二十体、活躍しております」

 珠伊師は報告書のバインダーを閉じた。

「分かりましたわ。消防や自衛隊の元でしっかりと働かせなさい。人間と違い彼らは二十四時間動けますからね」

「以上報告会終了です」

 司会の締めの言葉で珠伊師以下席を立つ。

「たいしたものですなGドロイドは」

 総務省のビゼンが珠伊師の肩を叩く。珠伊師はにこやかだ。

「枠に囚われず各市町村単位で動けまてすからね。動きは素早いと思いますわ」

「庁から省への格上げも早いでしょうなあ」とビゼンが笑う。

「格上げなんてそんな」と珠伊師は謙遜するが、心の中では腹黒い陰謀が渦巻いている。

 側近の一人が言う。

「昼食後午後二時から首相官邸で閣僚会議が始まります」

「分かったわ」


 天地真理革命軍によって破壊の限りを尽くされた首相官邸だったが、大部分が復旧されている。今後のこともありかなり要塞化された作りになっていた。


 そこに集まる各閣僚。報道陣を煙に巻くように閣僚達は会議室に消えてゆく。

 その会議室では円を描くように各閣僚がふかふかの椅子に腰を落としている。会議とは名ばかりでお互いが予算の取り合いや意見を述べる歓談の場である。

「さて、今回の司会は誰かなあ?」と尾川首相がくだけた言い方をする。

「不肖、財務のクマガイがつとめましょ」

 方々から失笑が流れる。

「まあ珠伊師さんは今回が初めてだろうが、こんなくだけた感じで行うんだよ」

「分かりました」

 ひとしきり歓談の後クマガイ財務大臣が珠伊師に顔を向ける。

「珠伊師大災庁庁官、聞いているだけではつまらないでしょう。何かご発言、ありましょうか?」

 クマガイに促され珠伊師は口を開いた。

「新参者のわたくしから述べるの僭越かと存じますが……」

「良いじゃないか」と尾川が言う。「好きに言って良いんだよ。予算増額かあ?」

 閣僚連中が賑やかに笑った。

「いえ、そんなこと言えるほどの立場ではございませんわ。ただちょっと気になることがございます」

 尾川が言う。

「どんなことかね。プライベートの発言でも、この場では公になることはないぞ」

 珠伊師はひとつ咳払いをする。

「国防大臣にお尋ねしますが、今や国防のなり手が少ない現状では国防運営も難しくなりますでしょう。将来には還暦の自衛官が卒寿の国民を守る、といったシチュエーションもなりかねないと思われますわ」

 国防大臣は珠伊師の思いがけない発言に答えた。

「確かになあ。少子化問題もここに極まれりだよなあ。確かに確かに」

 珠伊師は続ける。

「そこで思いついたのですが、国民を守る為のGドロイド開発は如何でしょう」

「大規模災害庁のGドロイド?」と国防大臣は驚く表情をした。

「さようでございます。多少の外観改造とプログラムを書き替えるだけで索敵型花子、突撃型太郎、後方支援型次郎、三位一体で国を守るのです」

「ふむ、そこでどうする?」

「花子は各種センサーが組み込まれております。これを全て索敵用に応用します」

「ほう、それから?」

「太郎は消火弾を撃ちますが、それを応用した突撃銃を持たせます。陸上自衛隊員よりもっと強力な武器を持たせれば、隊員三人分の働きは出来るかと想像しております」

 興味深げに首相の尾川が身を乗り出す。

「ほうほう……」

 珠伊師は続ける。

「次郎は九本の自在ホースで消火活動を行いますが、そこをロケットランチャー発射口に改造し九門のロケット砲を装着。それに後方で引っ張る消火タンクの代わりにロケットを収納、次々に装填しますとわたくしの計算では三十六発の連射が可能です」

 自治大臣も期待をこめるように同調する。

「これは凄いことになるぞ、なあ皆さん」

 珠伊師は各大臣反応を見回す。

「それにいくら鍛え上げられた自衛官でも人間です。食事も休息も必要です。その点Gドロイドはエネルギーが切れるまで二十四時間三百六十五日、文句も言わず働き続けますわ。専守防衛強化にうってつけかと思います」

「うむ、それは素晴らしいアイデアだ」と国防大臣は頷いた。

「Gドロイドは量産出来ますし災害用と違い戦闘用にすぐにでも転用出来ますわ」

 国防大臣はすでに乗り気のようである。

「財務大臣、予算、捻出出来んかな?」

 いきなり言われたクマガイ財務大臣は難色を示す。

「慌てられても困るよ、昨今の物価高に対応するため補助金ジャブジャブ使っているんだよ。これ以上国民の血税を一円たりとも無駄に出来ませんなあ」

 尾川は財務大臣に進言する。

「しかし近隣諸国との軋轢も無視出来ないぞ。次の予算編成に組み込めないか?」

 財務大臣クマガイは一円とも無駄に出来ないと言っておきながらまるで他人事だ。

「まず試作品を作るために予備費を使いますかなあ……いかほどお入り用で?」

 珠伊師は答える。

「庁舎に戻って試算しますのでお待ちになって下さいます?」

「まあそうだな、そうしてくれ給え」

 やり取りを聞いていた尾川は感心するようだ。

「しかしなんだな珠伊師大臣、民主今平党の党首だけにしておくのはもったいない。そうだ、次期組閣の際はもっとまともな大臣になって欲しい。応援するぞ」

 珠伊師は両手を頬に当てた。

「まあそんな……困りますわ。実力も無いのにどうしましょう……」

 尾川はにっこり微笑んだ。

「実力は後から就いてくるもんだよ。総理の器があるから総理になるんでなく、総理という役を与えられて総理になるんだ」


 大臣連中はこの女悪魔の計画にすっかり丸め込まれたようだが、その裏に秘められた珠伊師の悪魔の所業を知る者はいない――


2 取り戻す日常


「楓、どうしたんだろ? なんか、心ここにあらず、て言うような?」

「ほっときゃ良いサ」

 願成寺の心配を他所に天馬を快く思っていない管弦が答える。

「でもなんか気になるよ」


 確かに天馬は加藤の言葉と重伝の置き手紙ですっかり打ちのめされていた。


『どうすればいいんだろう……』

 そんなことばかり考える天馬だ。

 向かい側では寺家が杉田の背中にクリームを撫でつけている。

「ガッ……グッ……ゴッ……」

 そのたびに苦悶の表情と呻き声が倉庫内に谺する。

「痛いでしょ? でも我慢してね」

 塗りながら痛みに耐える杉田の悶絶を見るにつけ、医師と恋人の狭間に揺れる寺家の心は痛んだ。


「インターネットの工事を行います……」と工事人の声が倉庫内に響いた。

 柱上ではバケットに乗った作業員が光配線を行っている。

「電話配線工事に来ました~。主装置、何処に設置にしますか~」

 軽い調子の職人だが寺家の指示で素早く設置していった。

「多滝売家具店ですが、長椅子と机、何処に置きますか?」

 次々と家具が運ばれる。

 全て地家達が集めた中古品だが、杉田によってこれら全てスケロク商事の口座から引き落とされる手筈になっている。

 色々な業者が入れ替わり立ち替わり訪問してくるが、こうしてスケロク商事の新装開店が着々と始まるのだった。


「なんだか生活が一変するようでやんす」

 夢見るような越狩の言い方に祖父江は顔を顰める。

「ボスがきたおかげだ、でもよ、仕事が無けりゃじり貧だぜ。いくら中古品と言ったって金、持つのかよ」

「心配したってわっちらには金のことわからんでがす」と的場。

「資金は社長に任せるっきゃないでしょう」と願成寺。

 そう言っている間もなくいきなり電話が鳴る。

 慌てるように管弦は受話器を取った。

「心によりそうスケロク商事でございます……ああタバタさま、いつもご利用ありがとうございます……塀の修理でございますか、少々お待ちくださいませ……社長、タバタさんから塀の修理だってサ、どうする……って、いけね、まだ喋れねえンだっけかさ」

 舌を出す管弦。

「瑠那、受けろ、直ぐ見に行くってな」

 祖父江はそう言うが管弦の心配事。

「見積どうすんかさ。和道さんいないし社長もあんな状態だヨ」

「なんでも良いっ、お得意さんだし。見てくるぜ」

 ライトバンにエンジンをかけると、颯爽と出て行った。


 それをさかいに電話が入り出した。久々に活況するスケロク商事だ。


「天馬、電話取れよっ」

 管弦の激高に慌てる天馬だ。

「不渡土木だ。ようやく通じたな。明日麻生区で斫り現場がある。手元に三人よこしてくれ」

 いつも高圧的な態度の不渡土木だ。困っているはずなのだが、仕事をくれてやる、と言う不遜なスタンスである。

「メモ取ります」

 天馬はメモを取るために受話器を左手に持ち替えた途端「バリッ」と言う音共に受話器が粉々になった。


 見つめる天馬……。


 指先の圧力センサーが誤作動したのではない。自分自身で注意深くコントロールするべきなのだ。

 だが、これは後々の発生する事件にヒントになる。


「突然電話切りやがってッ」

 管弦が電話を取ると不渡土木の罵声が響いた。管弦にはとんだとばっちりだ。電話機に向かってひたすら謝る管弦。

 ひとしきりの電話対応が終わり、管弦はむっとした表情で天馬に罵声を浴びせた。

「このクソバカ女っ、お前のせいで怒鳴られたんだぞっ」

「スミマセン……」

「電話壊もしやがってッ。どーすんだよッ、弁償しなッ」

 縮こまる天馬。

 この騒動には寺家が助け船を出した。

「瑠那さんそんなに怒らないで。電話機まだふたつありますよ」

「先生、あんまり楓を庇うこたァねえよ」と憤慨する管弦だ。

 逆に的場には壊した力に唖然としていた。

『凄えチカラでがす』


 そうこうするうちに昼時間になった。

 埠頭内の一番端に位置するためコンビニやスーパーに行くにも時間がかかり過ぎる。

 願成寺はため息をついた。

「米は買えたし中古の炊飯器もあるけど、おかずになるものが、ねえ」

 越狩はウキウキした調子で立ち上がった。

「釣ってくるでやんす」

「何処でえ?」と願成寺。

「裏で」

「へ?」

「中古品でも良い釣り具見つけたでやんす」

 いつの間にか、ちゃっかりと釣り道具一式が手元に用意されているのである。

「金貸してくれって言うからさあ貸したけど、それ買うために?」

「まま、ちょっくらちょいと」

 いそいそと越狩は倉庫裏に向かった。

「鞄なんか釣ってくるなよなー」

 管弦は喚いた。


 確かに元はと言えば越狩が鞄を釣ってきたのがことの始まりなのだ。


 ものの十分もしないうちに越狩は顔を紅潮させながら戻ってきた。「鰯が入れ食いでやんす」

 バケツを覗くと活きの良い鰯が二十尾あまり。

「あたし捌くわ」と小型包丁を振り回す管弦。

「素揚げなんか最高でやんす」

 舌舐めずりしそうな越狩に願成寺が釘を刺す。

「何処に油あんのかよ。揚げ物用の大鍋も無いしねっ」

 自分の頭を叩く越狩。

「そうでやんすな。刺身で上等でやんす」

 ご飯も炊き上がり火事場から持ちだした皿や欠けた茶碗が並べられ、大皿の上には捌かれたばかりの鰯が盛り上がっている。

「捌き方下手だけどサ、食べよ食べよ」

 あっという間に皆の胃袋に収まっていったが、一人天馬だけは食が進まないのであった――


 だが意外と山下埠頭は釣りの穴場かも知れない。


 閉店後、明日の仕事の段取りに入った。長机の上にはメモが並べられ、重要度の高いものから、いや、儲けが出そうな案件から検討された。

「タバタさんとこの修理には材料がいるんで俺は明日、材料集めに走るぜ。一人で十分だ」と祖父江。

「そうね、現場を確認したのですからね。麻生区は力仕事になりそうねえ。誰にしましょうか?」と寺家。

「不渡土木は扱いが雑なんで、分かっているあたしと伊東さんと的場さんでどう?」と願成寺が提案する。「斫った破片をトラックに乗せろ、ッて……どうせ人足扱いだよ」

「じゃ天馬さんと瑠那さんは電話番ね。急がないけど町内会長の御尊父の散歩補助、御手洗さんでは?」

 渋る御手洗。「ボク、マギーの世話しとくわぁ」

「このやろ」管弦が御手洗の頭を小突く。「お前も稼げよ。なんなら倉庫の掃除でもしろよな」

「連絡どうします?」と天馬。

「そうよねえ……社用スマホはまだ用意出来ないし、何かあったら困るわねえ」

 呻吟する寺家。

「なら、麻生区の現場、私が行きましょう」と天馬は提案する。「自分のスマホあるし、人足扱いなら、多分役に立つと思います」

 そう言いながら天馬はチラリと管弦を見る。

「なんだよその目はよ」

 その他細かい仕事の段取りがつき、天馬は自宅マンションに向かった。

「いいよな、寝るとこあってな」

 皮肉交じりの管弦の声を後にしながら……。


 リビングの椅子に腰掛けても心がざわつき何も手にすることが出来ない。

 冷蔵庫を開けるとそこには重伝が好きだったビール『昇天』が飲まれるのを待つように冷やされている。


 じっと見つめる天馬。

 無駄口叩きながら過ごしたあの日……出来事が次々と思い浮かぶ。


 切ない……。


 天馬はそっと冷蔵庫を閉じた。

 携帯が鳴る。加藤からだ。

「楓、まだ両親に連絡してないのか?」

「……ごめんなさい」

「よっぽど妹夫婦に話そうかと思ったが、まだ内緒にしてある。親友を失ったのはワシにも分かる。だがワシの口から言うもんじゃないからな。これだけは言っとくぞ。落ち着いたら必ず連絡しろ――」

 分かりました、と言って電話を切る天馬。


 ここで待っていた重伝琴葉のことを考えるとベッドに横になっても寝付かれない。

 

 再び朝を迎え、天馬は出社するために山下倉庫に向かった……。



 第十話その二に続く



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ