第45話:覚醒の右腕、パパの「真・ストレート」
ウイルス『イカロス』に汚染された義手を、自らの手で引き剥がしたあの日。
しみまるの右肩には、深い傷跡とともに、ある「奇跡」が残されていました。
黒金博士の研究所で精密検査を受けるしみまる。モニターを見つめる博士の眼鏡が、驚愕で白く光ります。
「信じられん……。ハッキング・ウイルスによる異常な電気刺激が、しみまるの休眠していた右腕の神経細胞を強引に叩き起こし、再構築している。……これは、生物学的な『進化』だ!」
義手に頼らずとも、しみまるの生身の右腕は、かつてのサイボーグ時代をも凌駕する**「超伝導の神経網」**へと変貌を遂げていたのです。
退院した砂織と、胸に抱かれた愛息・球児。
和歌山の自宅で、しみまるは恐る恐る、生身の右腕で赤ん坊を抱き上げました。
「……温かい。砂織さん、僕の腕、ちゃんと動いてる」
「ええ。もう機械の熱じゃないわ。……あんたの本当の体温よ、しみまる君」
砂織はまだ本調子ではないものの、母親としての強さを纏い、しみまるの背中を叩きました。
「さあ、パパ。いつまでもデレデレしてないで! 日本中のファンが、そしてこの子が、あんたの復活を待ってるわ。……今度は、本物の『剛速球』を見せてあげなさい!」
復帰戦は、因縁の相手・帝都タイタンズとの頂上決戦。
マウンドに上がったしみまるの右腕には、もはやアタッチメントも、銀色の装甲もありません。ただの、日焼けした逞しい「人間の腕」があるだけです。
スタジアムがどよめきます。
「義手を捨てたのか!?」「生身で1軍の強打者を抑えられるわけがない!」
バッターボックスには、かつての恩師であり、今はタイタンズの監督兼打者のエドワード・キング(義足で復活)。
「……しみまる。からくりを捨てた貴様に、何が残っているというのだ」
しみまるは、バックネット裏で球児を抱いて見守る砂織と目を合わせました。
サインはいらない。鼓動が、愛が、右腕に集約されていく。
(……見ててくれ、球児。これが、パパの野球だ!!)
振りかぶった瞬間、しみまるの右腕の血管が浮き上がり、神経が黄金色に輝くような錯覚を観客に与えました。
放たれた白球。
それは、機械的な駆動音ではなく、空気を切り裂く「叫び」のような音を立ててミットへ突き刺さりました。
ドォォォォォォォンッ!!
スピードガンの表示は、170km/h。
しかし、それは1年目の無機質な数字とは違う。重く、速く、そして打者の魂を震わせる「生命の塊」でした。
「な……馬鹿な……生身でこの速度だと……!?」
キングのバットは、スイングすらさせてもらえませんでした。




