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からくり野球〜土壇場のジョーカー〜  作者: 水前寺鯉太郎
2年目

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35/46

第35話:不協和音の嵐、マウンド上の誓い


 「心拍数での通信……? 笑わせないで。そんな不確かなもの、私のノイズで塗りつぶしてあげるわ」

 スタジアムの音響ブースを密かに掌握した氷室アリアが、冷酷にスイッチを入れた。

 紀伊プラムス対帝都キングス・リザーブ、中盤の攻防。

 しみまるが振りかぶろうとしたその瞬間、球場全体のスピーカーから、脳を直接掻き回すような不快な**「超・高周波ノイズ」**が鳴り響いた。

「な、何だこの音は……!? 頭が割れそうだ!」

 耳を押さえてうずくまる観客たち。

 アリアの狙いは、しみまると砂織が築き上げた「鼓動の共鳴」を、圧倒的な音響エネルギーで物理的に切断することだった。

かき消される鼓動

 ドクン、ドク……。

 しみまるの心拍のリズムが、ノイズの濁流に飲み込まれていく。

 砂織の感覚も、激しい不協和音によって麻痺し、しみまるが何を投げようとしているのか、全く読み取れなくなった。

 シュッ……パスッ。

 意思の通わない投球。ミットを大きく外れ、ボールが転がる。

「どうしたの、黄金バッテリー。お互いの音が聞こえないと、ただの素人ね」

 マウンドのアリアが、勝ち誇ったように笑う。

 しみまるの右腕が、精神的な動揺から震え始めた。生身に戻った腕は、かつての義腕よりもずっと繊細で、不安をダイレクトに伝えてしまう。


 砂織がタイムを取り、マウンドへ駆け寄った。

 ノイズはさらに激しさを増し、隣に立っていても声が届かない。

「しみまる君! ……ダメね、声が聞こえてない」

 砂織はしみまるの顔を見た。その瞳には、恐怖と混乱が浮かんでいる。

 このままでは、アリアの「論理」に屈してしまう。

「……こうなったら、究極の『ノイズキャンセル』をやるしかないわね」

 砂織は、スタジアム中の視線を無視して、しみまるの首に両手を回した。

「……え、砂織さ……」

 驚くしみまるの唇に、砂織が自身の唇を重ねた。

 マウンド上の、公開キス。

 その瞬間、スタジアムのノイズが、しみまるの意識から完全に消え去った。

 触れ合った体温、重なる吐息。

 世界には今、砂織と自分しかいない。

 二人の脳波が、外部の音響を一切遮断する「極限の集中状態ゾーン」へと一気に突入した。


「な……ななな、何をして……!? 神聖なマウンドで、破廉恥な!!」

 アリアが顔を真っ赤にして絶叫する。デバイスの解析数値が、見たこともない異常値エラーを叩き出した。

「愛? これが愛のエネルギーだっていうの!? 私の計算機が……壊れるっ!!」

 唇を離した砂織は、いたずらっぽく笑った。

「これで、もう私の音しか聞こえないでしょ?」

「……はい。……完璧です」

 しみまるの瞳から迷いが消え、右腕に宿ったのは、かつての黄金の光よりも遥かに温かく、力強い「人間の生命力」だった。

 放たれた145km/hの直球。

 それは不協和音を物理的に弾き飛ばし、アリアのミットを粉砕せんばかりの勢いで砂織の懐へ飛び込んだ。

「――ストライイクッ!!」

 愛の力は、最新兵器すらもオーバーロードさせた。

 アリアはマウンドで膝をつき、自らの敗北を悟る。

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