第34話 猫カフェのマリーベル
「アタシもいるよー」
「アスナさんまで……なんで……」
「たまたま偶然、アスナの買い物に付き合ったついでに入ってみたら、マリーベルがいたんだ」
「マリーベルちゃんは猫好きだったんだね。アタシもだよ。その子、可愛いねぇ。三毛の具合が超キュートだし♪」
「そうなんですよ! この絶妙な三毛具合! しかもすっごく人懐っこくて――こほん。では私はそろそろ帰ります」
途中までは目を輝かせながら熱っぽくアスナに言葉を返していたマリーベルが、ハッと我に返ったように言葉を止めると、いつもの冷静な口調で言った。
だけど頬が赤い。
冷静な演技をしているだけだとすぐに分かる。
へぇ。
いつものツンツン・トゲトゲ・ハリネズミ・アーマーなマリーベルしか知らなかったけど、普段はこういう感じの女の子なのか。
ミューレは訳ありって言っていたけど、その何かのせいで、本来の自分を上書きでもしているのだろうか。
「おいおい、まだチュルルをやってる最中だろ。俺たちのことは気にするなって」
「そうそう、恥ずかしがる必要なんてないでしょ? 猫が好きなのはいいことだよ。猫好きに悪人なし!」
「べ、別に恥ずかしがってなんかいませんからっ!」
言葉とは裏腹に、普段と違う自分を見られたマリーベルが恥ずかしがっていると見て取った俺は、ここが引き際だと判断する。
同じチームの一員として更なるコミュニケーションを取れればいいなとは思っているものの、あくまで今はプライベートタイム。
俺たちとマリーベルの関係性は、まだそこまで踏み込んでいいものじゃないと思うから。
「じゃあアスナ、席に戻ろうぜ」
「えー、せっかくだしもうちょっと話していこうよ?」
「注文したメニューがそろそろ来るだろ? 席に誰もいなかったら店員さんも困るだろうからさ」
「あ、そっか。じゃあマリーベルちゃん、ごゆっくり~」
「は、はい」
俺がもっともらしい理由を説明すると、アスナは素直に従ってくれた。
マリーベルもホッとしたような顔を俺に向ける。
その後、俺とアスナは注文した軽食を平らげると、マリーベルとは直接絡むことなく猫たちと戯れた。
「ヤマトって、妙に猫に好かれるよね。撫でてあげたり抱っこしたりしてあげないのに、猫の方から勝手に寄ってくるんだもん。なんでだろ? いい匂いでもしてるのかな? チュルルヤマト的な?」
いつの間にか猫に囲まれている俺を見て、アスナが少し不満そうに言う。
「猫は警戒心が強い生き物だからな。自分から追いかけたり抱っこしに行くと警戒されてしまうんだ。逆にこうやってゆったりとした動作で待ちの姿勢に徹した方が、猫の警戒感を解くことができて、結果的に猫と触れられるんだよ」
俺は動物行動学に基づく猫カフェ必勝法をアスナに教えてあげた――のだが。
「もっとさ、心から猫と触れ合おうって気はないわけ? まったく、これだからデュエル・アナリストは、何でもデータデータって……」
アスナから返って来たのはまさかの小言だ。
「猫に好かれるコツを伝授してやったのに、なんで文句言われないといけないんだよ」
「そこに愛がないからよ。猫に対する情熱的な愛がね」
「な、なるほど」
その言葉に妙に納得した俺だった。
そしてマリーベルはというと。
最初こそ俺とアスナのことを意識していたようで、何度か視線を向けてきたものの。
俺たちに干渉する意思がないのが分かると、少しだけさっきみたいな素の態度で猫たちと触れ合っていた。
あと俺たちの会話に聞き耳を立てていたのか、俺の発言を聞いてから、目に見えて動作がスローになっていた。
どうやら人の意見を聞かないタイプではないらしい。
ほとんど関係性のない俺の言葉でも、有用とあれば取り入れる度量を持っている。
個人的には、これが分かったのはちょっとだけ収穫かな。
もしキャサリンみたいな性格だったら、仮に仲良くなれたとしても俺の意見なんて聞いてちゃくれないだろうから。
「どうしたのヤマト。考えごと?」
「ああいや、なんでもない」
ま、急いては事を仕損じる、だ。
焦らず逸らず、『訳あり』マリーベルとはゆっくりと距離を縮めていこうじゃないか。
こうして俺とアスナとマリーベルは、猫カフェを堪能した。




