望む手段
縋るような永倉の言葉に、斎藤は視線を落として唇を引き結んだ。
口に出すべきか、呑むべきか。逡巡して、しかしそうして視線を上げたところで、再び永倉の必死な瞳と目が合う。
「……あまり、いい手とは思えないのですが」
「いい。言って」
往生際悪く口ごもったところで、永倉はいつぞや建白書を差し上げた時のような、何がどうあろうとやることをやる、という腹を括った様子で重々しく促した。
斎藤は静かに息を吐き、ゆっくりとひとつ瞬きをしてから、改めて口を開いた。
「……会津に、山南さんを引き抜いてもらえるよう、頼めないかと……そう、思ったんです」
言えば、永倉と原田は揃って虚を衝かれたように目を丸くした。
「会津に……? そんなこと……」
「いや、つーか頼むっても、どう頼むんだよ。さすがにいきなり行ってお殿様に直談判させてくれったって無理なんだろ?」
「愁介殿と……連絡がつきさえすれば、話を通してくださるのではないでしょうか。建白書の一件の時のように」
こすい手だと思う。会津からしてみれば、とんだはた迷惑な話だ。
が、思ってしまった。現状を知っている愁介がこの場にいれば、きっと話に乗ってくれたであろうと。あるいは、彼女のほうから似た案を持ち出すことも、あったかもしれない。
とはいえ、本当にこれを今、口に出して良かったものなのか。
斎藤は己の呼気がかすかに震えるのを感じた。一部の人間の我儘で会津を巻き込もうとしている己に対する焦りか、あるいは別の何かか。後になってじわじわと、心の臓の音が次第に大きくなっていくのを自覚する。
「……いえ、すみません。やはり……」
「――会津には迷惑かけちゃうけど、頼む価値はあるね」
尻込みした斎藤の言葉を遮るように、永倉がすっと姿勢を正し、落ち着いた様子で低く答えた。
「俺が会津本陣に行ってくる」
「いえ、待ってください、永倉さん。それは……」
「大丈夫、責任は俺が取るから」
「それが困るのです……!」
斎藤は思わず語気を強めて遮った。
永倉が、きょとんと目を瞬かせる。
しかし斎藤は大きく息を吐き、そっと首を横に振った。変わらず心の臓は大きな音を立て続けているが、それらを落ち着けるように己の拳を握り、開いて、いつもの抑揚のない話し方を意識しながら改めて言う。
「建白書の一件の折にも言いましたが……永倉さんに何かあるほうが困ります。現状がこうだとなれば、余計に」
「……相変わらずお前は、俺を買ってくれてるみたいだねぇ」
「当たり前ではないですか」
だからこそ、今ばかりは己が行く、と――……
言いかけた、まさにそんな時だった。
「斎藤先生」
ふと、廊下の角から落ち着いた大坂弁で呼びかけられる。
三人揃って弾かれたように振り返れば、物静かな微笑みを浮かべた山崎が、そこに立っていた。
「お話し中、失礼します。土方副長が、斎藤先生をお呼びです」