第三者に乞う
「……ねえ、愁介さん。ちょっと土方さんと話してみてくれません?」
「えっ、駄目でしょ」
沖田の縋るような言葉に、しかし愁介は間髪容れず首を横に振った。
「力になれなくて申し訳ないけど、どうあがいたってオレは会津の人間だし、今の状況で首突っ込んじゃったら父上に話を上げろって絶対言われるやつじゃない? そこを取り持ってあげられないオレじゃ、土方さん話しなんてしたくもないと思うんだけど」
困惑しきりの下がり眉で、愁介は首の後ろをもどかしげに撫でた。
「いえ、でも、今って第三者の声こそ土方さんには届きそうな気がして……」
「第三者って言い切れない半端な立場でごめん……」
沖田が肩を下げながら答えると、愁介もさらにもどかしそうに額を押さえて言う。
どちらの言いたいこともわかってしまえる斎藤は、小さく息を吐くと、毎度の抑揚がほとんどない言葉で静かに告げた。
「……屯所の移転については何も知らない、というていで話していただくのは、どうでしょう?」
言えば、沖田と愁介が二人揃って意味合いの違う「えっ」という声を上げた。
「いや、待ってよ斎藤。それでも土方さんから話が出たら結局は一緒じゃない?」
「いえ、そうでもないかもしれません! 土方さんの立場からすれば、今の未確定な段階で会津様にお金をせびるような格好悪い真似、できないんじゃないかなって気がします!」
変わらず困った様子の愁介に対し、沖田は嬉々として両手のひらを合わせて声を弾ませた。
「そうしましょう。それでお願いします! 私から『山南さんと土方さんが酷い喧嘩をした』って聞いたことにしてください! 助けてください、愁介さん!」
沖田が矢継ぎ早に言い募ると、愁介は苦悶に眉根を寄せて口元を歪め、天井を仰ぐ。
「た、『助けてくれ』はずるい……総司がそれを言うのはずるい……」
「だって、本当に今日のは良くないって思うんですよ。なので使えるものは全部使わせていただきます!」
あけすけな物言いに、斎藤はさすがに片眉を上げた。
しかし『使われる側』に立たされた愁介本人には、沖田の物言いを気にした様子はなく、むしろ降参するようにうなだれてしまう。
「うーん……じゃあ、まあ、うん……とりあえず喧嘩の仲裁っていうことなら」
「ありがとうございます!」
「でも、二人とも部屋の外でこっちの会話、聞いててよね。屯所移転の話が出そうになったら、その時は助けてよ……?」
愁介はそう言って沖田を見つめ、直後にわずか一瞬、斎藤にも視線を流しやった。
――会津の立場を不利に陥れるなよ、という言外の命と心得て、斎藤はひそやかな首肯を返す。
沖田は明るく「わかりました。その時は話しの邪魔をしにお部屋に突入しますので」と張り切ってうなずいた。
「信じるからね」
愁介は苦笑して、それから、腹を括った様子で屯所の奥へ目を向けた。