第三章2
第三章 迷宮への挑戦2
放課後になると、さっそくレファナートが俺のいる席へとやって来る。
それから、人目も顧みずに俺の腕を掴んで無理やり立たせると、さっさと教室から出て行こうとした。
一方、俺はクラスメイトから疑惑の視線を向けられつつ、レファナートに歩調を合わせる。
これから異世界に行くことになるのだろうが、果たして何が待っているのやら。
ついでに今日の部活はない。
帰りのホームルーム前に部長からメールが来て、放課後も生徒会の仕事があるから無理に部室に来ることはないと言っていた。
それなら安心してレファナートと一緒に異世界に行くことができる。
「そういえばお前もこの魔方陣からやって来たんだよな?お前がこの魔方陣を行き来しているところは見たことがないんだけど」
俺は部室の中央にある魔方陣の前に立つと、ふと思い当たったように尋ねた。
「そうよ。ゲートを開く呪文はイビルナートから教えられていたし、それさえ知っていれば私以外の人間だって来れるわよ。もっとも、私は他の奴に呪文なんて教えていないし、何か問題でもあるのかしら?」
レファナートは意に介さない様子で言った。
「ああ。お前の世界の神殿には人がいないから良いけど、この部室には大抵、部長がいるから行き来する時は気を付けて欲しいんだよ。いきなり魔方陣から人が現れたら、部長も腰を抜かすはずだからな」
そうなったら、全ての事情を吐露するしかなくなる。
「そうね。あんた以外の人間にこのゲートのことを知られるのはちょっとまずいかも。私もそのことについては失念していたわ」
「だろ。ま、今日は部長がいないからい良いけど、これから先はそうはいかない。もし、部長に見つかったら、絶対に異世界に連れてけって言われるだろうし、そうなると面倒なことになるぞ」
かといって、このゲートを出入りしていることをいつまでも隠し通せるとは思えない。
「なら、その部長とやらにはあんたが上手く話を付けてちょうだい。私はあんた以外の人間をアグナスティア王国に招き入れるつもりなんてないし、もし、何かあっても責任は取れないから」
「分かってるよ」
そう言うと、俺は魔方陣の前で既に暗記してある呪文を唱える。するとすぐに魔方陣の中の文字や記号が変化して、光りが灯った。
それを見て、俺は魔方陣の中に足を踏み入れる。すると瞬時に視界が塗り変わり、俺とレファナートは見覚えのある神殿の中にいた。
「さてと、異世界に来たのは良いが、お前は一体、俺に何をやらせたいんだよ?もし、剣術の稽古とかだったら、遠慮させて貰うぞ。そんなの一朝一夕に身につくようなものじゃないし」
俺はあくまで後ろ向きとも言える言葉を口にする。でも、アグナスの力があれば話は別かもしれない。
「そんな時間を無駄にするようなことはやらせないし、私の考えを甘く見ないでよね。とにかく、まずは王都にあるギルドに行くわよ。そこで色々と話を付けておかないといけないし」
ギルドという言葉に俺は眉を顰める。
「ギルドって、仕事とかを斡旋してるあのギルドのことか?」
「他に何があるって言うのよ。あんたたちの世界にだってギルドくらいはあるでしょうし、どういうところかは知ってるはずじゃないの?」
ギルドと一口に言われても、俺の中には漠然としたイメージしかない。
「それは大昔の話だし、ギルドなんて組織はとっくに衰退して今じゃほとんど残ってない。でも、何をやらされるのかだいたい想像が付いちゃったよ」
俺は頬から一筋の汗を垂らす。
まあ、何にせよ、ギルドで仕事を請け負うなんてゲームみたいで格好良いじゃないか。ドラゴンを退治して、牙とか持ち帰ったら報酬をくれたりするのかな。
その後、俺たちは神殿を出ると丘を下り、防壁の門を通り抜けて、王都にある大通りまでやって来た。
相変わらず大通りは人がたくさんいて賑わっている。これくらいの活気が俺の住んでいる町にもあれば良いよなと思える。
レファナートは俺を伴いながら大通りを歩いて行くと、何を思ったのか、その途中で大通りに面している武器屋のような店に立ち寄った。
「扱いやすい剣を一本、貰えるかしら。できれば新しく作られた質の良いやつを」
レファナートはカウンターにいる愛想の良さそうな店主に声をかける。店の中には様々な武器が陳列されているので、俺も何だか興奮してしまう。
あの巨大な斧なんて、一体、誰が使用するんだろう。
「これはレファナート様。高名な魔法使いであるあなた様が剣を振るうというのですか?それはそれで構いませんが、魔法使いの要求に応えられるような剣は私どもの店では・・・」
店主は慇懃な口調で言った。
武器屋の店主にまで、顔と名前が知れ渡っているとはね。いやはや、レファナートはたいした大物だ。
「別に心配しなくたって良いわよ。剣を扱うのは私じゃなくて、こいつだから。ちなみにこいつは正真正銘の普通の人間よ。だから、特殊な力なんて備わっていないただの剣で良いわ」
レファナートは俺の方を一瞥する。こいつという、見下したような呼び方にはやっぱムカッとさせられるな。
「これはまた少し不思議な雰囲気を持った少年ですね。もしかして、北方の大陸の人間ですか?」
店主は値踏みするような目で俺を眺める。まるで、俺という人間の価値を計ろうとしているかのようだ。
「ちょっと違うけど、遠い国からやって来たのは確かよ。だから、こいつにも扱えそうな剣を見繕ってちょうだい。ちなみに、こいつは剣なんてろくに振るったことのない初心者だから、その辺も考慮して」
「分かりました。ならば、私も武器を扱う者として、その要求にはピタリと応えて見せましょう。では、こちらの剣などは如何でしょうか。軽くて扱いやすいですし、切れ味も抜群ですよ」
店主は壁に飾られた一振りの剣を取り外すと徐にレファナートに見せる。レファナートもそれを受け取ると、鞘から剣を引き抜いて良く磨き込まれた刀身に目を馳せた。
その剣は武器に関しては素人の俺が見ても、上等な代物のように思える。
「確かに良い剣のようね。これなら、丈夫なドラゴンの鱗ですら切り裂けそうだわ。まあ、そうは言ってもたいした敵を相手にするわけじゃないし、途中で折れたりしなければここまで上等の物である必要はないけど」
レファナートは満足そうに言うと、店主の手に剣を戻す。
一方、俺はレファナートの発した敵を相手にという言葉に寒気を感じる。相手が人間なのか、それともモンスターなのかははっきりさせて貰いたいところだ。
そんな俺の心中を余所にレファナートは話を進める。
「とにかく、私もこの剣が気に入ったし、買わせて貰うから値段を聞かせてよ」
「かしこまりました。では、この剣でしたら千ディオールほど頂きます。言っておきますが、この質の剣でこの値段はよそ店では真似できませんよ」
商売上手を思わせる口調で言うと、店主はまるでタヌキのように笑った。
「それでも高すぎるわね。私が王宮にいた時はあんたの店を良く引き立ててやったし、その恩を返すためにも、もう少しまけなさいよ」
千ディオールがどれくらいの価値があるかは俺には分からない。でも、前に飲んだリンゴジュースはたったの二ディオールだった。
「そう言われると困りますが。では、レファナート様の顔を立てて八百五十ディオールにいたしましょう。これ以上の勉強はできませんよ」
「それなら良いわ。でも、もう少し一般人にも手が出せるような手頃な剣を置いておかないと、あんたの店も潰れるわよ。最近の王都は豊かなせいで平和ボケしているし、武器そのものを使おうとする人間も少なくなってきているようだから」
レファナートは首肯しながら言うとポケットから袋を取り出して、中にある金貨を店主に渡した。
「ご忠告は肝に銘じておきます。では坊ちゃん。自分の手を切りつけないように気を付けて扱ってくださいね。剣の価値を決めるのは使い手の技量、次第とも申しますし」
店主は俺に剣を手渡すとにんまりと笑う。逆を返せば腕の立つ有名な人間が使えば、武器の価値も高まるというわけか。
「はい」
俺は不安を感じながら、確かな重みを持つ剣を手にする。
それから、レファナートと俺は武器屋から出ると、また大通りを歩き始める。買ったばかりの剣は不格好な感じで、俺の腰に下げられていた。
「おっ、あそこの屋台だよ。俺の大好きな串焼きが売っているのは。特にタレがたっぷり付いたレバーは最高だぜ」
レファナートの肩にいたガステュークが喜色の混じった声を上げる。
その視線の先には焼き鳥屋のような屋台があった。何というかアジアンテイストな感じの屋台だ。
「言っておくけど、今は屋台になんて寄らないわよ。それでなくてもテッドのせいで、八百五十ディオールも取られたばっかりなんだから、ちゃんと計画的に使わないと王都で暮らしていけなくなるわ」
剣を買ったのは俺じゃなくてレファナートだし、責任転嫁をするなよ。
「金ならまだ唸るほどあるのにケチな奴だな。でも、帰りには絶対に買って貰うぞ。それが今日の俺の夕食だし、もし駄目なら金輪際、お前の言うことは聞かないからな」
ガステュークも食べ物のことに関しては譲らない。
「しょうがないわね。ま、あんたにはやって貰わなきゃならないことがあるし、良いにしてあげるわ。その代わり、しっかり役目を果たしなさいよ」
「了解。よし、そういうことなら串焼きは五本は食べさせて貰うぜ。ついでに酒も飲ませて貰おうか」
ガステュークは意地汚く涎を垂らしながら言った。それから、しばらくの間、大通りを歩いて行くとはっきりと宮殿が見えるようになってくる。
あそこがアグナスティア王国の王宮というわけか。実に立派な建物だし、一般人も入れるように開放してくれれば、観光客で賑わいそうだ。
俺がそんな感想を心の中で言っていると、レファナートが石造りの大きな建物の前で立ち止まった。
どことなく公共の施設のような雰囲気が漂ってくる建物だ。
「ここがギルドよ。中には色んな連中がいるから、くれぐれも因縁を付けられないように気を付けてよね。ここで問題を起こされると、私の計画がパーになるし。最悪、ギルドの建物に出入り禁止になることさえあり得るわ」
レファナートは四階くらいの高さがあるありそうなギルドの建物を見上げた。
ギルドと聞いていたので、もっと粗野な感じの場所をイメージしていたけど実際には違うようだ。
俺はレファナートの後ろにぴったり付きながら、緊張した面持ちでギルドの建物の中に足を踏み入れる。
すると中の広間は意外にも開放感のある造りになっていた。
床には綺麗なカーペットも敷かれているし、入り口の横手には観葉植物なんかも置かれている。
何というか、広間だけを見るならどこかのサロンのような雰囲気も漂わせているが、そこにはすぐにでも戦場に赴けそうな格好をしている人たちがたくさんいた。
まあ、中には身軽な格好をした人もいるけど、ほとんどの人が目に見える形で武器を所持している。
彼らがギルドで仕事に有り付こうとしている冒険者や戦士たちというわけか。みんなギラギラとした目つきをしているし、俺の世界の人間とは毛色が違うようだ。
でも、彼らから伝わってくる熱気は、ここが紛れもなく剣と魔法の世界のギルドだと言うことを物語っているし、これには俺も触発されたような気分になる。
とはいえ、学校の制服姿の俺とレファナートは場違いも良いところだろうし、正直、かなり浮いているな。
そして、ギルドの中にいる人たちはみんな一様に壁に取り付けられている巨大な掲示板を眺めていた。
そこには様々な紙が所狭し、と貼り出されている。俺も吊られるように紙を見てみたら、斡旋されている仕事の内容が書き記されていた。
これぞ、まさしく本物のギルドといった感じだ。俺が持っていたゲームから拝借したイメージと何ら変わりない。
「どう考えてもここは子供の来るような場所じゃないよ。もちろん、お前のような女の子だっていやしない。お前はこんな所に俺を連れて来てどうするつもりなんだよ?」
俺は完全にギルドの中に充満する空気に呑まれていた。俺のような子供は一人としていないし、みんな殺伐としている。
「迷宮に入るための許可を貰うのよ。もちろん、私は自由に迷宮には入れるけど、初めてのあんたはそう言うわけにはいかないからね。ま、いちいち手続きを整えないといけないところが、ギルドの嫌なところなのよ」
レファナートは悩ましげな顔で言った。
「迷宮だって?」
迷宮ってゲームとかに出てくるあの迷宮のことか?
「ええ。この王都の地下には遙か昔に作られた迷宮があるの。迷宮にはモンスターがたくさんいるけど、財宝もあるって話よ。ちなみに迷宮を完全に踏破した人間はまだ誰もいないと言われているわ。もし、それができたら冒険者として歴史に名前が残るわね」
レファナートは自慢話でもするように言った。
「それは凄いけど、今の俺に何の関係があるんだよ?」
「鈍いわね。あんたには一人でその迷宮に潜って貰うって言ってるのよ。だから、地下十五階まで行って、戻ってきなさい。それができたら、私もあんたを真の意味で認めてあげるから」
この言葉には俺も震撼する。
その時、俺は小さい頃に、山の中の洞窟で迷子になった苦い体験を思い出していた。それがトラウマになったのかどうかは知らないが、俺は暗くて狭いところが大嫌いなのだ。
「冗談だろ。俺は迷宮に潜ったことなんて一度もないんだぞ。しかも、モンスターまで出てくるのに、お前はいないって言うのか?」
俺は挙措を失うように言った。
「ええ。私も伊達や酔狂でこんなことを言っているわけじゃない。でも、地下十五階までは人の手も行き届いてるし、出現するモンスターもたいした敵じゃないわ。あんた一人でもアグナスの力を借りれば、何とかなるはずよ」
「そんな」
俺はその場に棒立ちする。
いきなり一人で迷宮に潜れ、だなんてハードルが高すぎやしないか。普通、冒険の初心者は山に薬草を摘みに行ったりするところから始めると思うんだけど。
「とにかく、迷宮に潜るためにこれからギルドの許可を貰うわよ。ついでに迷宮に関連した仕事も引き受けられたらベストね。ギルドの連中は迷宮に関する仕事で、食いつないでいる奴もいっぱいいるし」
レファナートはいかにも金に困っていそうな連中を見ながら言葉を続ける。
「まっ、あんたもこの王都で暮らすことになったら、迷宮での仕事は欠かせなくなると思うわよ」
レファナートは俺の心中など知らずにそう言った。
「迷宮で人生を支えるなんて、まっぴらご免だよ。それなら、元の世界で死ぬまでサラリーマンをやっていた方がマシさ。はっきり言うが、もし、死んだりしたら恨んでやるからな」
俺は据わったような目で言った。迷宮でやる仕事なんて、かなりの危険を孕んでいるような気がするし。
「別に構わないわよ。死んだ人間なんて怖くも何ともないし、幽霊なんてこの世界にだっていやしないしね。とにかく、万が一のためにガステュークは付けてあげるから、大船に乗った気持ちでいなさい」
泥舟の間違いじゃないのか。
それから、レファナートはズカズカとした足取りで、広間を横切って、受付のようなカウンターに歩み寄った。
「これはレファナート様。ギルドに顔をお見せになるとは、随分と久しぶりのことですね」
カウンターの中に立っていた、たおやかな感じの女性はにっこり笑った。この人もレファナートのことを知っているのか?
「ええ」
レファナートにしては気後れしたような顔をしているな。武器屋で、ズバズバと物を言いながら値段を交渉していた時とは大違いだ。
何か含むところでもあるのか?
「それで今日は何のご用でしょうか?レファナート様が請け負うに相応しい仕事は今のところありませんが」
女性は作り物めいた笑みをそのままに尋ねた。
「こいつが迷宮に潜るための許可を貰えないかしら?それも今日中に潜りたいから診査とかは手短にして欲しいの。まさかできないとは言わないわよね?」
レファナートは肘で俺の脇腹を突っついた。もっとしゃんとしろとでも言いたいのか?
「その少年が・・・ですか?」
女性はあからさまに訝るような顔をする。その目は妙齢の女性、特有の綺麗さはあるが、どこか抜け目のないような印象も受ける。
「そうよ。何か不満でもあるかしら?一応、こいつは十五歳には達しているし、形式上は問題ないはずだけど」
「ですが、見たところ、その少年はこの国の人間とは感じが違うような気がしますし、ギルドを利用するのも今回が初めてなのではありませんか?」
女性の視線が俺に注がれるのを見て、俺は小恥ずかしくなった。どうせ、俺はギルドの初心者だよ。
「その通りよ」
「なら、そう簡単には迷宮に入る許可は与えられません。軽い気持ちで迷宮に足を踏み入れて命を落とす冒険者は後を絶ちませんし」
女性はあのレファナートを前にしても謙ることなく、きっぱりと言った。これには俺も尊敬にも似た念を感じてしまう。
やっぱり、この女性はレファナートとは相性が悪そうだ。
「それは分かっているわ。でも、こいつは迷宮で命を落とすような、情けない冒険者なんかじゃないし、それはこの私が保証する。だから、あんたもさっさと審査を担当する奴に話を通してよ」
「と言われましても、その審査を受けられるかどうかは私の権限で決められることになっています」
女性はキリッとした顔で言葉を続ける。
「ですから、ギルドにおいて何の実績もないその少年を迷宮に入らせるわけにはいかないことは理解して頂きたいのですが」
女性はそう言い連ねた。
「宮廷に仕える王国一の魔法使いと言われた私が推薦しているのに、それでも駄目だって言うの?たかが受付嬢のくせに何様のつもり?」
レファナートは苛立ちを募らせるように言った。俺はレファナートを言い負かしてくれと女性を応援したくなる。
「ですが、あいにくと今のレファナート様は宮廷魔法使いの地位にはいません。ならば、その推薦は意味のないものです」
女性の声はあくまで冷静だった。
「しばらく来ない内に随分と頭の硬い組織になったようね、ギルドは。そんなことだから、最近のギルドはパッとしないのよ。その流れを変えるためにも、もっと積極的に有望な人材を集めるようにした方が良いんじゃないの?」
レファナートは当て擦るように言った。
「レファナート様がギルドに顔を出していられた時とは時代が違うのですよ、時代が」
この言葉にはさすがのレファナートも歯ぎしりした。
「時代なんて関係ないわ。そういう官僚みたいな気質が染みつき始めたから、ギルドに嫌気が差すような人間が出てきたり、フリーの便利屋が幅を効かせるようになるのよ」
レファナートは毒を吐くように言うと言葉を続ける。
「もっとも、受付嬢のあんたにそんなことを言ってもしょうがないでしょうし、このままじゃ埒があかないから、四の五の言わずにお偉いさんを私の前に出しなさい!」
「そういうわけには」
女性はタジタジになりながら食い下がろうとする。
「別に構わないじゃないか、レオナ。ここはレファナート様の言い分の方に理があるし、ギルドとしても柔軟な対応を示すべきところなんじゃないかな」
俺の背後から騎士のような服を着た、線の細そうな青年が現れた。この顔はどこかで見たような気がする。
「リード様!」
レオナと呼ばれた女性は声のトーンを上げる。もしかして、偉い人か。
「あんた、誰?」
レファナートは不審がるように尋ねた。
「私は近衛兵騎士団の副団長を務めているリード・グラムフォートと言います。副団長に取り立てられたのはつい最近のことですし、レファナート様が私を知らないのも無理はありませんね。ですが、そこの少年も私の顔に覚えがありませんか?」
そう言われて、俺はようやく青年の顔を記憶の片隅から手繰り寄せた。
「あなたは、あの時、女の子を守るためにグリフォンに立ち向かってた人だ」
俺は思わず大きめの声を上げた。それを聞き、レファナートもようやく気が付いたように瞳の瞳孔を広げる。
「その通りです。君の助けがなかったら私はグリフォンに殺されていたでしょう。あの時のご恩は忘れていませんよ」
リードと呼ばれた青年は柔和な笑みを浮かべる。その丁重かつ、礼儀を弁えた態度には素直に好感が持てた。
「はあ」
俺は偶然にしても、こうやって出会えたことに運命的なものを感じていた。
「そういうことだから、レオナ。彼に迷宮に入る許可を与えて欲しい。推薦状なら後で私が書いておくし、責任も全てこの私が持つから」
リードさんははきはきとした口調で言った。その態度からは、グリフォンを前にして震えていた面影はない。
「リード様がそう言われるのでしたら、私も反対はいたしません。ですが、こういうことは今回限りにしてくださいね。そうでないと私も立場がありませんから」
レオナさんも言葉とは裏腹に快く承諾する。うーむ、この展開は喜んで良いものなのか?
「よし、なら決まりだ。まあ、グリフォンをいとも簡単に倒した君なら、迷宮で命を落とすこともないでしょう。ですが、くれぐれも油断は禁物ですよ」
そう俺に告げると、リードさんは「じゃあ、私はこれで」と言い残してその場から去って行った。




