第1話 キャラメイクしたらのじゃロリになった
新連載始めました。
初日は2話一挙掲載です。
追記:冒頭に戦闘シーンを追加しました。
「おーおー、やっておるのう」
戦場には無数の人々が争っていた。
そんな光景を高台から見下ろす小さな影。
『うぉぉぉぉっ!』
剣が火花を散らし、魔法が戦場を割る。
だがこれは現実の戦争ではなくゲームの光景だ。
体感型VRゲームIF LIFE LIVE内での一幕。
「ではわらわも参加するとしようか!」
小さな影が高台から飛び降りる。
「ロイヤルバスター!!」
小さな手に握られた剣から放たれたのは極彩の魔力。それは天を割り地を砕く。
「ハハハハハッ!!」
直撃を受けた者はプレイヤー、NPCを問わず吹き飛ばされる。
「の、のじゃロリ姫が出たぞーー!」
「経験値泥棒ののじゃロリ姫だー!」
小さな影の登場に戦場のプレイヤー達が悲鳴を上げる。
姫、その名の通り小さな影の正体はドレスを纏った美しい少女だった。
「我が名はマルシエル=リム=オーヴァロド、大帝ザルマルクの娘なり!! さぁ、わらわを倒したい者は名乗りをあげるのじゃ!!」
「うおぉー! 今日こそお前を倒して経験値を奪ってやるぜ!」
「今まで経験値を奪われた恨み、晴らしてやる!」
何十人ものプレイヤーがのじゃロリ姫に向かって魔法を、スキルを放つ。
だがのじゃロリ姫はそれらをあっさりと回避すると逆にカウンターで一掃した。
「ロイヤルカウンター!」
「「「「ぐわぁぁぁぁっっ!!」」」」
吹き飛ぶプレイヤー達。
「さぁ! ボスの首を頂くのじゃ!! ロイヤルスラッーーーシュッ!」
そのまま戦場のボスエネミーの下へと跳びこみ、スキル一閃。
『ガァァァァァァッ!』
ボスが破壊エフェクトを表示させて崩壊させてゆく。
それと同時に戦闘終了を告げる画面がプレイヤー達の前に現れる。
「それではさらばじゃ!」
「くっそーまた強くなってるぞあのNPC!」
「必ずイベントで出てきて経験値分捕っていきやがって!」
「強すぎだよ! いつになったら倒せるんだよ!」
プレイヤー達の怨嗟の声をしり目に戦場から離脱するのじゃロリ姫。
そしてプレイヤー達の姿が見えない場所まで離脱した彼女は一人呟く。
「本当はNPCじゃないんだけどね」
それは事実だった。
のじゃロリ姫と呼ばれた彼女は、人間が操るゲームアバターである。
「さらに言うと、中身は成人男性なんだけどな」
しかも男であった。
◆
「おお、これがILLのゲームセットか!」
―IF LIFE LIVE―
通称ILL、世界初の多角的VRゲームの名称だ。
何故多角的なのかと言うと、通常のVRゲームはヘッドセット内部の小型モニターに移された……いや面倒な説明は止めよう。
要は凄くリアルな体感が得られるゲームって事だ。
部屋の中に居ながら外に居る感覚、物を触る感覚や飲み物の味、それに現実とは違う時間間隔で遊ぶ事が出来る。
特に時間間隔を変化させる画期的なシステムにより現実の一時間でゲーム内では一日を過ごしたように経験できるのだ。
時間が足りない現代人にとってこれほどありがたい機能があるだろうか。
更に現実でどんなに疲れていてもゲーム内では関係ない為、ゲームを起動すれば元気いっぱいで楽しめる訳だ。
まぁ現実の肉体のバイタルチェックをするから本当に調子が悪いときは強制的にログアウトして場合によっては自動で医療センターに通報が行くらしいが。
ともあれ俺はそんなILLの第一期プレイヤーに当選した。
聞いた話だと申し込みの倍率は1/50000だったとか。
「全世界一斉配信な事を考えると凄い倍率なのも納得だよな」
早速最新の小型ヘッドセットを装着すると俺はリラックスできる姿勢でゲームを起動する。
『ようこそIF LIFE LIVEへ。まず貴方の分身であるキャラクターを作って頂きます』
俺の眼の前に人間のシルエットが浮かび上がる。
『最初に貴方の分身の名前を付けてください』
「名前は……マルスで」
これはいつも使ってるプレイヤー名をそのまま使う。
マルスは火星を意味する言葉だが、筋肉が好きな俺としてはマッスルのアナグラムでもあったりする。
『性別を選んでください』
「当然男で!」
目の前のシルエットが男の体になる。
ちなみに外見は中肉中背で裸じゃなくタンクトップとボクサーパンツ姿だ。
『次に種族を設定してください。初期種族は人間、魔族、妖精、獣族、鱗族から選んでください』
「これは魔族だな。ゲームでまで人間やるのもつまんねぇし」
ちなみに事前情報だと人間はバランス型、魔族はやや魔法寄りのバランス型、妖精は魔法寄りの小柄な羽の生えた子供、獣族は獣人というよりは二足歩行するややデフォルメされた獣で格闘型、鱗族はリザードマンとか爬虫類系で肉体寄りのバランス型だ。
爬虫類プレイは中々に難易度が高そうだが、進化とか上位職とかのパワーアップ要素でドラゴンになれる可能性があるからと期待しているプレイヤーも多い。
エルフが居ないのはどうも妖精の進化先なんじゃないかと予想されている。
「妖精と獣族は特化型なんだよな」
俺としてはこの美しい筋肉を楽しむために魔族を選んだわけだ。
妖精は自動的に小柄に、獣族は毛におおわれ、リザードマンは二足歩行するトカゲになってしまうので消去法でもある。
「キャラクターのデザインを決めてください」
俺は目の前のキャラクターのデザインをイメージする。
通常ゲームのキャラクターデザインと言う奴は細かい調整を必要とする。
これに慣れていないと思った通りのキャラクターが作れないんだよな。
「でもILLはヘッドセットからイメージを抽出してくれるから大雑把なデザインは自動で作ってくれる」
目の前のキャラクターが俺のイメージに合わせて巨漢のマッチョマンになってゆく。
「やっぱりVRゲームなら自分と体格が似ていた方が良いよな」
余談だが俺は結構鍛えているので筋肉がある。
ただしそれは俺が筋肉信者とかボディビルダーとか格闘家だからではなく、ある事情から筋肉を鍛えることにしているだけだ。
「ただイメージってぼんやりしてるから、細かい調整は自分でしないといけないんだよな」
これは脳のアウトプットの関係で、例えば絵を描いている人が目の前の題材を見ながら書いてそっくりに描けるかというとそういう訳じゃないのと同じだ。
脳内のイメージというのは人間が思っている以上に漠然としているのである。
と言う訳で俺は時間をかけて理想の自分を作り上げてゆく。
「本当は身長もあげたいけど、あんまりリアルの体とサイズが変わるとゲームに支障をきたすらしいからなぁ」
仕方ないのでその辺りは妥協だ。
「あんまり遅くなると他のプレイヤーに置いていかれるが、ここで妥協して雑なキャラにすると後で絶対後悔する!」
ちなみにこのゲームは不正対策としてキャラの再作成が不可能である。
絶対できない訳じゃないんだが、不正防止のために再登録には時間がかかるのだ。
今だとリリース直後の順番待ちもあって数か月かかると当選通知に注意事項として書かれていた。
「だからまじめに作るぜ」
そしてかかること数時間(体感)、遂に俺は理想の分身を作り出した。
「うーん素晴らしい筋肉。人間って鍛えてもイメージ通りの筋肉やシルエットにならないもんな」
現実でもパワータイプのマッチョとか細マッチョとか筋肉の付き方にも色々あるからね。
『次にステータスを設定します。経験値は固定値にしますか? それともディスティニースロットにしますか?』
「勿論ディスティニースロット!」
ディスティニースロット、それはこのゲームのキャラメイク時における目玉の一つだ。
このゲームにはレベルの概念はなく、基本的に経験値を消費して能力値を上げたりステータスを習得する。
イベントでスキルを習得する事はあるが、基本は経験値を消費する。
「で、経験値は一律同じだけどディスティニースロットなら最大で固定値の数倍になる!」
勿論スロットなので固定値よりも低くなることがあるが、スタートダッシュを決めたいのならスロット一択だ!
『ディスティニースロットを回します。お好きなタイミングでボタンを押してください』
3つのリールがグルグルと回る。ここで999を出せば大勝利だ!
「むむむむむ、今だ!」
俺は自分の動体視力を信じてボタンを押す!
『タラララララララ……ピタ』
そして出てきた数字は……000
『0です』
「嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
よりにもよって最低値だとぉぉぉぉぉぉっ!?
『最低値の保証として3経験値が送られます』
「3桁のスロットで3って誤差じゃねぇか!!」
マ、マジかよ……
『経験値を割り振ってください』
俺は3と書かれた経験値でどのステータスを上げるかを考える。
表示された数値はHPが10 MPが12 能力値はオール1と思ったらおそらく種族特性で魔力だけ2、スキルは0。
「能力値を上げるのに必要なポイントは現在値+1ポイントってことは最低でも3ポイント必要か。スキルは……駄目だ。最低10ポイントいる」
なるほど随分半端なポイントだと思ったら最低でも能力値を1上げられるようにか……でもこの状況だと誤差レベルだよね!?
スキルを取得できない以上ステータス一択だがどこに入れる?
「1個だけ高い魔力を上げるか? 駄目だ、魔力を上げるには4ポイントいる」
「なら初志貫徹で筋肉だ!」
力の数値が1上がって2になる。
パワーキャラとしてはあまりに切ない数字。
「だが、まだだ! まだ俺には希望がある!」
『次にキャラクターの血統アイデンティティを設定します、リストから選びますか? ディスティニースロットにしますか?』
「ディスティニースロットで!」
アイデンティティとはこのゲームの目玉要素で、これを選ぶことでキャラの背景設定や個性が決まるものだ。
例えば貴族の生まれとか、人間と魔族のハーフなど。
これらの設定は初期の所持金や装備、場合によっては能力値にまで影響すると書かれていた。
「通常リストの背景設定は全員共通、だがディスティニースロットなら特別なレア設定が手に入る可能性がある!」
それならランダムを選ぶのは当然だよな!
デメリットのある設定になる場合もあるが、
「どうせ俺のステータスはほぼオール1、今更怖いもんなんざねぇぜ!」
『ディスティニースロットを回します。お好きなタイミングでボタンを押してください』
今度は三つのリールではなく文字が高速で変わってゆく。
「唸れ俺の動体視力! 今だぁぁぁぁぁ!」
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魔王姫
王族特権:様々な最高位の特権が行使できる。
大いなる血統:ステータスバフが得られる。
最高級教育:ロイヤルスキルを習得できる。
デメリット
女性専用アイデンティティ:キャラクターが強制的に女性になる。
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「おお! 王族! 大当たりだ! しかもステータスバフにロイヤルスキルとかめっちゃ強そうじゃん! 王族特権ってのも期待できそうだ!」
これならステータスの件もチャラだぜ!
『外見を血統アイデンティティに合わせて調整します』
「え?」
アナウンスと共に目の前の俺の姿が変わってゆく。
筋骨隆々な男の体から、筋肉質な女の体に。
「はぁー!? 何でだ!」
数時間かけた力作が目の前で崩壊し、俺は絶叫する。
「どういうことだよ!?」
何が起こったのかと俺は背景設定の文章を確認する。すると説明の後半にはこう書かれていたことに気付く。
『条件:女性専用アイデンティティでキャラクターが強制的に女性になる』
「これかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
強制的ってマジかよ!?
「せっかく作ったのにこれはねーだろ! 元に戻してくれ!」
『ディスティニースロットはやり直せません。やり直す場合はキャラクターリセットをしてください。その場合リリース直後のログイン混雑の関係でリセット対応は数週間から数か月かかります』
「うぐっ!」
そうだった、不正防止もあってILLのリセットは条件が厳しいんだった。
「くぅ~~~~~~~~~、筋肉、筋肉はある、それに王族とか滅茶苦茶レア設定なのは絶対有利だ!」
ゲームに反映される王族設定なんて他のプレイヤーはまず持ってない筈。
キャラメイクをしたときにこれ程レアなものが来る可能性はかなり低い。
「~~~っ、分かった、これでいい」
『最後に個性アイデンティティを設定します。リストから選びますか?ディスティニースロットにしますか?』
「ディスティニースロットで!!」
ここまで来たら最後まで天に運を任せるぜ! 王族をゲットしたんだ! この時点でもうおつりは来ている!
「この流れに乗ってアイデンティティもレアをゲットだ!」
ソシャゲでもSSRが出た直後は流れが来ているってよく聞く! 俺もこの流れに乗る時だ!
『ディスティニースロットを回します。お好きなタイミングでボタンを押してください』
個性アイデンティティは血統と違って個人の生まれ持った個性という設定だ。
例えば両親は長身なのに自分は小柄とか、幼い頃に大怪我をして大きな傷があるとかだな。
「だがディスティニースロットなら、神に選ばれた聖痕を持つとか、精霊に愛されしものといった魔法バフが得られる! ……らしい」
そういう意味でもやはりディスティニースロット一択だ!
俺は高速で変わってゆく文字を睨み、運命のボタンを押した。
「これだぁぁぁぁぁ!」
そして表示された個性は……
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のじゃロリお嬢様
甘えん坊:周りの反応が甘くなる。
教育係:お付きのNPCが付いてくる。
デメリット
口調:のじゃロリ言葉を使わないと一定時間ステータスダウン、一部スキル封印。
身だしなみ:高貴な装備以外装備不能、一定のクオリティの装飾が施された装備以外装着できない。
外見指定:強制的に外見が小柄な美少女になる。
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「ネタキャラじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
こうして、俺が数時間をかけて作り上げたマッチョメンは一瞬でのじゃロリ美少女に作り替えられてしまったのだった……
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