『秘める』恋
ざりざりざり。
ごそごそごそ。
真夜中、月の光も届かない鬱蒼とした林の中で。
翠狸が何やら、穴を掘っています。
しばらくそうしていると、不意に、ぼうっと辺りが明るくなりました。
「ひっ、火の玉!?」
急いで穴から這い出ようとするものの。
「何してるの?」
「ぎゃっ」
ぴょんと飛び上がった翠狸のおでこと、穴を覗き込んだ紅狐のおでこが、見事にごっつんこしてしまいました。
翠狸は石頭なのでわりと平気でしたが、紅狐のきれいな顔に傷がついては大変です。
「ごめんねえええええ!!!」
翠狸はそのちいさなからだで、衝撃で目を回している紅狐を担ぎ上げ。
猛烈な速さで、彼らの棲み処まで走っていきました。
「ほんとに、ごめんね。だいじょぶかなあ」
「気にしないで、先に狐火でおどかした私がわるいから」
棲み処に戻り、翠狸は紅狐に気つけの水を飲ませてから、急いで手当をしました。
腫れが少しでも早く引くように、冷湿布をはりその上から氷水をあて、一息ついたところで。
「それで……結局、何してたの?」
現場を押さえられては、下手な言い訳もできません。
紅狐の訝し気な視線から目をそらしながら、翠狸がその手を背中にまわし、何やらもじもじとしています。
「……おねしょ?」
「ちがいますうううう! ぼくもう一才だし! そんなのしません! たぶん!」
しおらしくしていたかと思えば、次には些細なことでぷんすこ怒っています。
「あんな時間にひとりで出ていったら、心配、する」
語気を強めて言われたことで、怒っていたのもどこへやら。
翠狸は再びおとなしくなり、目を泳がせ、しどろもどろになりながらも。
観念したかのように息を吐いて、へたっと座り、白状しました。
「『秘める』恋、ってどんなものかなあ、って思ってさ。
ぼく、よく分からなかったから。好きって気持ち、言ったら恥ずかしくなっちゃうようなこと、たくさん書いて埋めたら、少しはわかるかなあ? って」
そのために、ふたりで眠りにつき、夜も更けた頃。
代わりの精巧なぬいぐるみを置いて、こっそりと寝床を抜け出したというのだから、呆れたものです。
「……それで、何か分かった?」
「んー、特には。……って、何してるの?」
気づけば、いつの間にやら。
穴に置いてきたはずの手紙たちが、紅狐の手の中にあるではありませんか!
「せっかくだから、秘密があばかれたらどんな気持ちになるか、体験してみるといい」
「いやああああ、待って待って! 謝る、もうしないからああああ!!!」
はてさて、何が書かれていたことやら。
内容は存じませんが、紅狐は何やら顔を赤くしていましたし、翠狸は開き直って床の上をころころ転がりまわっていました。
秘められた恋は、知られぬままがいいのか。
それとも、知られてこそ、何かが始まるものなのか。
それは当人たちか、もしくは、神様のみが知るところ、といったものなのかもしれません。
その後、その手紙たちは紅狐の秘蔵コレクションとして大事に保管され、翠狸がおいたをした時に読み上げられ悶絶させられる、秘密兵器になったそうな。




