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恋のてつがく!  作者: 蜂矢ミツ
5/8

『秘める』恋

 ざりざりざり。

 ごそごそごそ。


 真夜中、月の光も届かない鬱蒼とした林の中で。

 翠狸が何やら、穴を掘っています。


 しばらくそうしていると、不意に、ぼうっと辺りが明るくなりました。


「ひっ、火の玉!?」


 急いで穴から這い出ようとするものの。


「何してるの?」

「ぎゃっ」


 ぴょんと飛び上がった翠狸のおでこと、穴を覗き込んだ紅狐のおでこが、見事にごっつんこしてしまいました。

 翠狸は石頭なのでわりと平気でしたが、紅狐のきれいな顔に傷がついては大変です。


「ごめんねえええええ!!!」


 翠狸はそのちいさなからだで、衝撃で目を回している紅狐を担ぎ上げ。

 猛烈な速さで、彼らの棲み処まで走っていきました。








「ほんとに、ごめんね。だいじょぶかなあ」

「気にしないで、先に狐火でおどかした私がわるいから」


 棲み処に戻り、翠狸は紅狐に気つけの水を飲ませてから、急いで手当をしました。

 腫れが少しでも早く引くように、冷湿布をはりその上から氷水をあて、一息ついたところで。


「それで……結局、何してたの?」


 現場を押さえられては、下手な言い訳もできません。

 紅狐の訝し気な視線から目をそらしながら、翠狸がその手を背中にまわし、何やらもじもじとしています。


「……おねしょ?」

「ちがいますうううう! ぼくもう一才だし! そんなのしません! たぶん!」


 しおらしくしていたかと思えば、次には些細なことでぷんすこ怒っています。


「あんな時間にひとりで出ていったら、心配、する」


 語気を強めて言われたことで、怒っていたのもどこへやら。

 翠狸は再びおとなしくなり、目を泳がせ、しどろもどろになりながらも。

 観念したかのように息を吐いて、へたっと座り、白状しました。


「『秘める』恋、ってどんなものかなあ、って思ってさ。

 ぼく、よく分からなかったから。好きって気持ち、言ったら恥ずかしくなっちゃうようなこと、たくさん書いて埋めたら、少しはわかるかなあ? って」


 そのために、ふたりで眠りにつき、夜も更けた頃。

 代わりの精巧なぬいぐるみを置いて、こっそりと寝床を抜け出したというのだから、呆れたものです。


「……それで、何か分かった?」

「んー、特には。……って、何してるの?」


 気づけば、いつの間にやら。

 穴に置いてきたはずの手紙たちが、紅狐の手の中にあるではありませんか!


「せっかくだから、秘密があばかれたらどんな気持ちになるか、体験してみるといい」

「いやああああ、待って待って! 謝る、もうしないからああああ!!!」


 はてさて、何が書かれていたことやら。

 内容は存じませんが、紅狐は何やら顔を赤くしていましたし、翠狸は開き直って床の上をころころ転がりまわっていました。


 秘められた恋は、知られぬままがいいのか。

 それとも、知られてこそ、何かが始まるものなのか。


 それは当人たちか、もしくは、神様のみが知るところ、といったものなのかもしれません。

その後、その手紙たちは紅狐の秘蔵コレクションとして大事に保管され、翠狸がおいたをした時に読み上げられ悶絶させられる、秘密兵器になったそうな。

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