『恋』の歌
「どうしてみんな、『恋』を歌うんだろう?」
古今東西、恋は実に様々な形で謳われています。
その最たるものが、歌でしょう。
近現代のポップミュージック、西洋のクラシック音楽。
大昔から書かれてきた、詩歌、和歌。
どれをとっても、『恋』とは切っても切り離せないものがあります。
でも、どうしてなのでしょう。
『恋』について考えている内に、翠狸はふと、そう思ったのでした。
自分でふんふん唸って考えてみたものの、答えらしきものが見つからなかったのでしょう。
翠狸は、紅狐のきものの袖を引っ張って、もう一度問いました。
「紅狐さんは、どう思う? どうして『恋』は、こんなにも多く、歌われるんだろう?」
紅狐は、しばらくじっと動かず、翠狸を見つめた後。
その頭をやさしく撫でて、静かに答えました。
「伝えたい、とか、募りすぎて溢れんばかりの想いを吐き出す、とか。理由は、それぞれ違うだろうけど。
恋を、その想いを『秘める』のって、本来、つらいものだからじゃないかな。
……なんでもあっけらかんと、ひどいことじゃなければ全部喋っちゃうキミには、分かりにくいかもしれないけれど」
好きなら、好きって言えばいいじゃんか。
そんな風に思ってしまう翠狸には、確かに、恋の歌はむずかしいのかもしれません。
「つまりは、一言では収まらない想いを表すために、歌にする、ってことかなあ」
「……その大きくなりすぎた火に、焼け焦がされることがないように。あるいは、水嵩が増えすぎて、濁流に流されて溺れ死ぬことのないように。想いに形を与えることで、ある程度の整理をつけられる、ということもあるかもしれないね」
納得できたような、やっぱりまだ、なんだかよく分からないような。
甘い恋、悲しい恋、恋の喜び、恋の苦しみ。
様々な恋の歌。
似ているようで、どれも違う。
翠狸はそれらをひとつひとつ、噛み締めるように歌いながら。
ぼくの恋は、どんな歌になるだろう?
そんなささやかな思いを巡らせたのでした。




