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純粋に空想世界を楽しみたい!  作者: 倉科ユウ
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不安のはじまり

「黒宮。ちょっと物理準備室まで来てくれないか」


 帰りのホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り、教室から走って出て行く部活生たちや教室に残っておしゃべりをする生徒がいる中、鞄を持ってそそくさと一人で帰ろうとしていた俺――黒宮夕希(くろみやゆうき)は、担任である桜井司(さくらいつかさ)に呼び止められた。


「何か用ですか」


「ああ少し頼みたいことがあってね。とりあえず一緒に来てくれないかね」


 特に用事もないし、その点では断る理由も思いつかない。だが、


「すみません、司先生。ちょっと俺これからどうしても外せない用事がありまして―――――――」


 この人の用事は非常に面倒くさいことであるか危険なことであるかの二択に決まっている。


「ほほう、その用事とやらは何かね。言ってみろ」


「あれですよ。と、友達と遊ぶ約束をしてまして急いで帰らないといけないんです」


「君はまだ友達いないだろう」



 …………一瞬で嘘がばれた。


 でもその通りだ。実は俺はこの古市高校に今日転校したばかりで友達はまだできていないのだ。


 俺が中学二年生のとき、両親が海外出張で家を空けるというので、今日までの約二年間は隣の県の祖父母のところで生活し、学校もそっちにあるのに通っていた。しかし両親が出張から帰ってきて元の家に戻ってきたので、近くの高校に編入することになったのだ。


 また、司先生とは家が隣同士であり、小さい時よく一緒にいたのだが、当時まだ幼かった俺にこの先生は、崖にしか咲かない花があるらしいと言っては、絶壁に咲く花を取りに行かせ、はちみつが食べたいと言ってはミツバチの大群の中に放り込むなど子供に対するものではない行いを散々してきたのだ。


どうせ今回もまともな頼みじゃない。


「なんだ。いいわけはもうおしまいか? それじゃあついて来てもらおうか」


「い、いやいや! お、おなかが……そう! おなかが痛いんです!」


「一応私も教師だ…………暴力という手段には出たくないのだが、仕方ないか…」


「ごめんなさい!」


 何が教師だ! 第一に暴力かよ! しかも一応教師って、一応って!


「ほら、無駄な抵抗はよしてさっさとついて来たまえ」


 そう言って先生は歩き始める。


「…………はぁ」


 先生について行く以外の道へと逃れることはどうやら不可能みたいだな……

 仕方なく俺は先生に続いて物理準備室に向かうことにした。


「なッ――――――――」


 物理準備室に着くや否や、俺は目の前に広がる光景に驚いた。


 絶句である。学校内にこんな場所があるなんて信じられない。


 というかこの光景を生み出した先生には逆に「よくがんばりましたね」と、称賛の言葉をかけてあげたいくらいだ。


 物理準備室の室内はガラクタで埋め尽くされており、足の踏み場といえばドアから教室の一番奥にあるデスクまでの人一人がぎりぎり通れるほどの一本の道のみである。 


「なんですかこの部屋! 汚いというレベル超えてますよ!」


「ああ、なんか次から次へと積み上げていったらこんなになってしまったんだ。この間掃除しようと思ったんだが、動かそうとすると崩れてきそうになったので諦めたんだ」


 無念とばかりに悔しそうな顔をする先生だが、それはこんな有様になるまで放っておいた人がする表情じゃないだろ……


残念がるならもっと早くに手を打てよ………………


「まあ、そんなことはどうでもいいんだ。例の君に頼みたい用事のことなんだが……」


 俺がそんな思いを胸に秘めているのを感じたのか、先生は話を本題へと持っていく。


「まさかこの部屋の掃除ってことはないですよね? それは絶対嫌ですよ!」


「心配ない。私が黒宮に頼みたいことはこの部屋の掃除じゃない。黒宮にはちょっとしたテストプレイをしてもらおうと思ってね」


「テストプレイ?」


「ああ、私は最近あるものを作っていてね。それが昨日完成したんだ」


「俺にそのテストをして欲しいということですか」


「そうだ」


「いやですよ! なんか危なそうじゃないですか!」


 というか絶対に危ない。それならまだこの部屋の掃除のほうがよっぽど楽なのではないだろうか。


「大丈夫だ。生徒に害を与えるようなことをするつもりはない。安全は保障する」


「安全は保障するって…………」


「なんだ。私が信じられないか?」


「いや、信じる信じないの前に単に面倒くさいです」


「ふっ、まあそう来るだろうと思って、私はお前がやる気になるような品を持ってきている」


 そう言って先生はコートの内ポケットから黒いノートのようなものを取り出した。


「お前の中一の時の黒歴史ノートだ」


「やめてくださいお願いします! 何でも言うこと聞きますから! テストプレイですね、はい喜んでさせていただきます!!」


 俺は一瞬にして先生の手からノートを奪い取る。


 なんでこれを先生が持ってるんだよ! これは俺が引っ越す際に燃えるゴミに出したはずなのに…………


 これノートは俺が中一の時に書いたこっ恥ずかしい恋愛ポエムだ。


 くそっ……今思い出しても顔から火を噴きそうだ。

 過去に戻れるならあの時の自分をぶん殴ってでも止めたい……


「それな、お前が引っ越しした日ゴミ捨てに行ったら捨ててあったんで何かに使えるかと思って取っといたんだ。役に立ってよかった」


 なにこの人、抜け目ないわ! 普通ごみとして捨てられたもの持ち帰るかよ…………


「まあとにかく引き受けてくれるようで何よりだ。明日の放課後、この隣の教室に集合な」


 そう言って先生は部屋を後にする。

 

 

 …………ん? よく考えれば人質(いや、物質か?)は今俺の手の中にあるわけだし、明日行かなくても問題ないんじゃないか? 先生め、初歩的なミスを犯したな! ははは、俺は危険を避けることができたぞ! 



…………そう思っていた。


 

「あ、そうそう。あとそのノートは前ページスキャンして私のパソコンに入れてあるから、心配はいらないぞ」


 それじゃあ、また明日――――と戻ってきた先生の一言により喜びは再び絶望に変わった。



 ほんっっっと抜かりないなあの先生! 



「はあ………………」


 ため息がこぼれる。

 一体明日は何が待ち受けているのだろうか



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