3話
今回試験的に他人から見た視点を入れてみました、少しでも面白く感じていただけると幸いです。
4/22 一部誤字脱字修正
5/8ご指摘により一部修正
5/11 ご指摘により一部修正
6/20 指摘により、感嘆符・三点リーダを修正
木製の飴色をしたドアノブをまわせば、頭上に括り付けられたベルからカランコロンと音が鳴る。
店内は落ち着いた雰囲気で、オーク調を中心とした木材で彩られている。
店内は普通の喫茶店より広く、かなりの人数が一度に入れる仕様となっており、広々とした雰囲気だ。
レジに立っていたNPCが「席にご案内します、どうぞこちらへ」と、案内を勧めてきたので後でもう一人来る主旨を伝えることにする。
「畏まりました、お客様の名前とお着きになるお客様のお名前をお願い致します」
「ジン、それと後で来る方がエリナだ」
名前を告げると同時に、店内で小さなざわめきがおこる。
過大評価するわけではないが、俺はこの―神々の黄昏―ではそれなりに有名なプレイヤーである、不本意ながらも伝説と呼ばれるような事も幾つか成しえているし、自分がそれなりに有名だという自負もある。
ざわめきに耳を傾けてみれば「おい、聞いたか? あの最高峰難易度のダンジョン、イヴァール山脈をソロでクリアしたっていうあのジンだってよ!?」とか「ああ、どこのギルドからの誘いも断っているのにのに、それでも大手ギルドから幾度も誘いの話が来てるって話だぜ?」など等。
イヴァール山脈、龍族が多種多様に住む峰で、全ダンジョン中10指に入る難易度と言われているが、偶々欲しいアイテムがあって行ったに過ぎないし、ギルドに関しても何となく柄じゃないと感じただけにすぎない。
多少の居心地の悪さを感じつつ、俺は店員にモカを頼んでエリナから連絡が入るの待つ。
丁度モカが出来上がり、店員が俺の席に置いていった時エリナから秘匿回線仕様通信(WISとよく言われる)が入った。
「兄様、申し訳御座いません。どうしても後にできない用事が入ってしまいまして……今どちらにいらっしゃいますか?」
「今グランスバールの喫茶エルトワーズにいるよ。店員に俺の名前を出せば案内してくれると思うから」
「分かりました、直ぐに向かいます」
さて、ログイン直後にWISを入れて来たのならここに来るまでおよそ数分てとこだろう。
俺は店員に従妹の好きなホットココアを頼み、自分はまだその温度を保ったモカを冷めないうちに処理しようと口を付けた。
時間にして数分後、カランコロンと独特のベルの音が鳴る。
「お待たせしましたお兄様」
そう言ってエリナは俺の真向かいに腰を降ろした。
周りを見渡せば半数以上がエリナに視線を向けているのが見える。
当たり前だろう、エリナの容貌は随分と整っているのだから。
身長は大よそ160cmを少し下回るくらいで、髪は腰まであり軽くパーマが掛かっており波打っている、色は薄い金色。瞳はスカイブルーで目尻はやや下がり気味、顔立ちは欧州系で深窓の御令嬢と言う言葉がこれ程に似合う人物も珍しい。
服装は聖職者用の装備、聖衣でほぼ全体を包まれており、その白を基調とした格好と相まって一種、幻想的とすら思える雰囲気を放っている。
エリナは自分とは違いハーフで、祖父の妹の娘がエリナの母にあたり、父が日本人だ。
エリナ自身はしかし、日本で育ったため英語は勿論仏蘭西に独逸、露西亜語も話せはするが、日本語を常用している。
因みに俺も上記の言語は一通りマスターしているのだが。
「いや、エリナが珍しく遅刻なんてしてくれたお陰で、露店で面白い物が見つかったし、全然気にしてないよ」
side エリナ
そう言ってお兄様はそのお顔に柔らかな微笑を浮かべました。
よくお兄様は私のことを綺麗だよ、て言ってくれますが、私からすればお兄様だって十分容姿に恵まれていると思っています。
平均より少し高めの身長にすらっと伸びた手足、色味の強い金色の髪は少し男にしては長いけど、綺麗に中分けされており、時折頬に掛かる髪の毛が女の私から見ても色っぽく感じる程です。
瞳にしても薄めの色の私と違い、深海を思わせる深い青で、鼻梁は品良く高く突き出ており、眉は墨で描いたかのように流麗です。
顔立ち一つとっても繊細にできており、欧州の大貴族の御子息です、と言われれば誰もが納得することでしょう。
只、そんな繊細な容姿をしているお兄様ですが、その性格がなよっとしているかと言われれば首を傾げざるをえません。
容姿による想像を裏切る形でお兄様は存外剛毅な性格をされています。
一度決めたことは曲げずに貫き通す芯の強さ、困ったことがあればいつだって私に手を差し伸べてくれました。
「ん、どうしたエリナ、悩み事でもあるのか? 随分と思案顔をしていたが……遅れてきたことと関係があるのか?」
どうやら先程考えてたお兄様の容姿に関してのことが、どうも顔に出ていたらしい。
どう返事を返すべきか……私は少しの逡巡の後、結局こう答えたのだった。
「いえ、少し考え事をしていただけですので。お気になさらないで下さい、お兄様」
「そっか、いやエリナがそう言うなら勿論信じるさ。ああ、そうだったそうだった。エリナ、さっき面白い物を露店で見つけたと言っただろ? エリナの職で使えそうだし、ちょっとしたプレゼントに良いんじゃないかって、買って来たんだ。トレード申請するから受け取ってくれ」
そういって少し嬉しそうな顔をしたお兄様は、視線を宙に泳がせました。
恐らく、仮想スクリーンを目で追っているのでしょう。
少しの間を置き、私の脳内と視界の隅に『ジン様よりトレード申請が行われました。受諾しますか?』と、音声と共に表示される。
私は仮想スクリーンを表示し、ポップアップされた表示のうち、YESを選択する。
続いて仮想スクリーン画面にトレード一覧と表示され、一つのアイテム名が登録された。
表示名に指を合わせて詳細を表示してみれば
レウコテアの指輪
ランク:A
効果:(装備者の最大MP+1000 光攻撃魔法の威力+10% 回復魔法の効力+15%)
と、書かれていた。
聞いたことのない装備です、まだ報告されていない未開のダンジョンでのアイテムでしょうか?
私だってお兄様程ではないにしても、このゲームをプレイしてそれなりになります。
これ程強力なアクセサリーなら、その名前くらいは耳にしても良い筈です。
「あ、あの。お兄様、これは一体? 見たところ確かに私向きの装備ではありますけど、聞いたことのないアイテムです。先程露店で見つけたとおっしゃっていましたよね? これ程の装備、随分と値がはったのではないでしょうか?」
「ああ、どうもまだ発見報告がなされていないダンジョンで発見されたお宝の一つらしい。値段の方は確かにそれなりではあったけど、エリナが気にする程じゃないさ。それよりはエリナがここで受け取ってくれない方が、保管庫の肥やしになって困るんだけどね?」
そう言って悪戯気味に笑みを浮かべるお兄様はずるい人です。
私がそう言われれば否はないと、知っていてそうおっしゃられるんですから……
私は溜息を一つ吐き出すと、きっとお兄様から見て困った様に見える笑みを浮かべながら完了のボタンを押した。
「もぉ~、お兄様はずるいんですから……そんな風に言われれば受け取るしかないじゃないですか。それにいくら資金に余裕があるとは言え、無駄遣いはよくないんですからね? 分かってますか? お兄様」
お兄様はそれに対して分かってるよ。なんて返事を返しましたが、私には分かります。
きっといつか今のようなやり取りがまた繰り返されるんだってことに。
そんな他愛のない、お兄様にとってはそう感じる一連の出来事はしかし、私から見ればきっと掛け替えのない宝物なのだから。
そっと気持ちに蓋をする、私とお兄様は本当の兄弟ではないけれど、所詮は只の、血の繋がりがある親戚程度に過ぎなくても。
私は誰よりも何よりもお兄様をお慕い申し上げているから。その気持ちを気取られないように。
お兄様は鋭い方だから、細心の注意をはらって笑みを浮かべる。
きっと今の私はもう、仕方のないお兄ちゃん! そんな顔を浮かべている筈です。
私はそのままお兄様に向けて、何度目ともなる言葉を吐く。
「もう……仕方がないんだから」
side end
後書き
如何でしたでしょうか?
作者妹属性好きなんですよね(聞いてないからw
今話、実は見直し回数が少ないので、誤字脱字、矛盾した表現があるかも・・・。
それと僅か数日にも関わらずお気に入り登録をしてくれた方々には、本当に感謝しています!
同じく評価までつけてくれた方まで・・・。
もう暫く先では、日常編も絡めて行きたいと考えていますので楽しみに待っていて下さい!
感想や評価、お気に入り登録等は作者のエネルギー源となるので、よろしくお願い致します。