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19話 エドワード 後編

お気に入り登録数が100件越えました、読者の皆様に最大限の感謝を。


今回久しぶりの執筆にあたって、試験的に三人称視点に挑戦してみました。

この物語が処女作なので、三人称なんて勿論書いたことがなく、上手く書けているか不安がいっぱいですw

なお、久しぶりということで、主人公の口調がおかしいかもしれません。

三人称視点に関しては、一人称とどちらが読みやすいか感想をいただけると嬉しいです。


ジンが扉を開くと途端にむあっとした空気が吹き付けてきた。

当たり前である、ここは武器屋でもなかれば道具屋でもなく、工房なのだから。


周囲を見渡し、目的の人物が居ないのを確認するとおもむろにジンは住居用スペースだと思われる部屋の奥に移動。

その奥に備え付けられた鉄製の扉を押し開けた。

ギィィィ―――――――

金属が擦れる音と共に扉が開き、一層熱気の籠った空気が頬を撫でる。

ジンはそれに構わず、轟々と高熱を発し続ける溶鉱炉の前に座るガタイの良い肌の浅黒い男に声を掛けようとした瞬間、目の前の男、いや……このゲームで屈指の鍛冶師エドワード・エドガルが此方を振り返った。


「誰かと思えばダーリンだったのね? ふふ、貴方が態々アタシの工房まで足を運ぶなんて珍しいわねぇ」


短髪でガタイがよく引き締まった筋肉は工房の熱により汗でテカッている。

そんな見た目から暑苦しい男が、ダミ声でしかもおねぇ言葉で話す姿は何度見ても心臓によろしくない後景だ。

ジンは内心の葛藤を押し殺し、用件を伝えるべくエドワードの疑問に答えた。


「エドが俺に頼んだんじゃないか、“竜の涙”の調達及びその他の鉱物。丁度時間が空いたから届けに来たんだよ」


「あら、そうだったかしら? ダーリンに会えるかもしれないって思って、そんなどうでも良い依頼も頼んだかもしれないわ」


ジンがエドワードにトレードの申請を申し込んでいると、その申請そのものを覆しかねない言葉が飛び込んできた。

これには流石のジンも呆れるほかない。

つまり、エドワードはジンに会いたい、あるいはちょっとしたメールのやり取りの為に態々あんな依頼を寄越して来たってことである。

ジンだからこそ依頼の完遂は楽々であったが、これが一般のプレイヤーならどんなに最善を尽くしたとしても数日から数週間掛かっていたことだろう。


「おいおい……俺だからこそ手持ちにあったけど、他の奴にんなことするなよ?」


「あら、いやだ。アタシが貴方以外に浮気するわけないじゃない」


手を頬に当て、腰をくねくねと踊らせるエドワードに、内心乾いた笑いを零しながら米神に手を当てるジン。

彼、エドワードの言動及び行動は何も今に始まったことではない、そう何度も自分の心に言い聞かせる。


「あっ、そういえばダーリン」


丁度トレードが終わるのと同時にエドワードが何やら喜色満面、悪戯が成功したかのような表情でジンに話しかけてきた。

(はて、俺はエドを喜ばせるような行動でもとっただろうか?)

内心で疑問符が乱舞するが、それをおくびにも出さずジンはエドワードに続きを諭す。


「大分前に、アタシに依頼した槍の作成あったでしょ? 完成したわよ、しかもアタシからみても過去最高の一品だと思えるわ」


エドワードの台詞でジンは思い出す。

(そういえば確か2週間くらい前にとあるダンジョンの最下層、そこのボスから偶然入手した設計図、それに記されていた槍の製作を頼んだんだっけか)

すっかり忘れていた事実であったが、思い出した瞬間にジンは己の心に喜悦が滲み出すのを止められないでいた。

理由は単純、その作成依頼を出した武器が所謂このゲーム内で“ファンタズムウェポン”と呼ばれる物の一種であるからだ。


ファンタズムウェポンと呼ばれる装備がこのゲームに存在する。

簡単に表すなら、それはこのゲームで最高のレア度を有する装備を示す称号だ。

現在―神々の黄昏―に存在するファンタズムウェポンの数は六つ、全ワールド合わせてたったの六つである。

その貴重性は謂わずもながら、このファンタズムウェポンと呼ばれる武器・防具は同レベルで装備可能な物と比較すると、その性能に天と月程の差が存在する。

まぁ、どれも奇跡的な確立の図面のドロップ運が必要なうえ(図面からは一つしか装備が作れない)、更に製作に必要な材料が法外でしかも成功率が50%を大きく下回るという鬼畜仕様ではあるのだが。


しかも現在発見されているファンタズムウェポンの最高装備レベルは50。

対してジンがエドワードに作成依頼をだした武器、レッドランスと記述されたそれの装備可能レベルは“85”。

一体どれ程の能力を有しているのか、想像すらジンにはできなかった。


「ちょっと、ダーリン? 聞いてる? まぁ……嬉しいのは分かるけど、本当に喜ぶのはその性能を見てからにしてよね」


「あ、あぁ……」


ジンは震える声を抑えようともせず、興奮したまま申請されたトレードを受諾する。


「うふふふ、驚くわよぉー! アタシだって長いこと色々な武器を見てきたけど、こんなぶっ飛んだ武器は初めて見るわよ」


作成成功報酬として、ベテランが何ヶ月とかかって稼ぐ金額をトレードに乗せながらジンはエドワードとのトレードを完了させ、早速レッドランスを装備する。

今まで装備していた剣と盾が光に溶けるかのように消滅し、代わりに一本の長槍が両手に出現した。

一見シンプル極まりないかのように見える外見だが、そこに使用されている素材は主に穂先の部分に“ヒヒイロカネ”が、それ以外の部分、柄に“ダマスカス鋼”と少量の“アダマンタイン”が使用されており、更には直径30cm程の矛の根元には魔力伝道の為の“賢者の石”が埋め込まれ、握りの部分には“聖獣の革”が巻かれている。


グリップの役割として使用された聖獣の革が使用者に加護を与え、柄のダマスカス鋼特有の美しい色合いと木目のような模様は見た目とは裏腹に信じられない強度を誇る。

更に真っ赤な穂先に使用されているヒヒイロカネは、直視しようとすればするほどまるで陽炎のようにブレて相手にその性格な矛先の視認を許さない。


しかもその切れ味と硬度は優に金剛石を越え、埋め込まれた賢者の石の効果により、各属性の魔法を効率的に伝道、増幅してくれる。

しかも、ヒヒイロカネ特有の熱伝導の効率により、ジンの最も得意とする炎をより効率的に増幅及び伝道してくれる。


ジンは室内の熱気だけではない、興奮からなる汗をじっとりと体中に感じながらもその性能を文字として確認する為に、装備の一覧からレッドランスのカーソルを固定させる。


「すげぇ………ははっ。マジか、こりゃ確かに驚くな……」


アイテム名:レッドランス+5

効果:基本ステータス全て+20% クリティカル率+15% 命中率+15% 回避率+15% 使用者の炎属性のスキル及び魔法の威力に20%を上乗せする。 炎属性以外の魔法の威力に10%を上乗せする 炎耐性+50%

付与スキル

貫通3(一定の確率で相手の物理防御を無視してダメージを与える)

聖獣の加護1(毎秒毎にHP・MP・SPを5回復させる)


以上がファンタズムウェポン・レッドランスに記された効果である。

ジンが思わず無意識に上記の言葉を漏らしたのも無理のないことであった。

攻撃力に関しても片手装備を考慮したヘリオトロープから見ても規格外、まさにバランスブレイカーと呼ぶに相応しい一品である。



「驚いたでしょー。アタシも出来上がったときは流石に仰天したわー。既存の槍ではダントツじゃないかしらぁ?」


「だろうな、手に持っているだけで力が湧き上がってくるようだ」


その言葉に嘘偽りはない。

事実、レッドランスの効果により能力は上昇し、それが実際の感覚としてジンに活力のようなものを与えているのだ。

それは例えるなら少々大げさながら、万能感に近いかもしれない。

まるで自身が全能にでもなったかのような感覚、ジンのステータスを覗けば恐らく“昂揚”の表示が足されていることだろう。


「これは扱いに慣れとかないと危ういな……ちょっと裏庭の案山子で軽く試し斬りしてもいいか?」


「えー! 折角ダーリンに会えたのに、ツレナイわねぇ。まっ、アチシもその槍の威力には興味があるからついていくけれどもね♪」


背筋に何か冷たいものが走るが、ジンはそれを極力無視しさっき来た鉄の扉から居住スペースに戻り、別の木製の扉から半径15メートル程の庭に移動する。

そこには複数の案山子、字面につき立てられた剣や鎧があちらこちらに乱雑に置かれていた。


「随分とごちゃごちゃしているな……この前来たときより酷くなってないか?」


「あらそうかしら? それより、早く試して頂戴」


エドワードが早く早く、と催促してくる。

無理もないだろう。彼は鍛冶師によくある自身が鍛えた武器が如何程の威力を発揮するのか? という疑問に対して人一倍強い執着がある。

それが過去最高の一品で且つ、最高の担い手が操るというなら己の目で耳で肌で感じたいと思うことは自然の成り行きであった。


ジンはその思いに気づいているのか否か、諭されるままに、準備運動がてらにレッドランスをおもむろに両手で支えると、軽く振り回す。

ジンが柄の中心近くを握り、曲芸のように槍を振り回しながら思ったことは“異様なまでの軽さ”であった。

最初装備したときにも感じたその違和感は、直接操ってみることで確信に至る。


ジンが今も次々と刺突や払い、薙ぎを繰り返しながらも感じた事。

このレッドランスという槍はその能力に目が行きがちだったか、それとは別で異常なまでに軽いのだ。

まるで重さを感じない。

その癖、内部に鉄を仕込んである案山子になぎ払いをかましてみれば、まるで遠心力など必要ないとばかりにあっさり斬鉄してみせたのだ。

その手ごたえはまるでこんにゃくでも切り刻むかのように軽く、一切の抵抗を感じさせないものであった。


これならあるいはと、ジンは一体の案山子からレッドランスの間合いの外に出ると、自信が放てる最高速度でレッドランスを薙ぎ払った。

その速度は音速を優に越え、戦闘職ですらないエドワードには視認すら許さなかったことだろう。

そして、その結果はジンの予想通りであった。


「あら、まぁ……今の何? スキルじゃないわよねぇ。そんなスキル、アタシは少なくても知らないし」


エドワードが半ば呆然と呟いたのも無理はない。

ジンの数メートル先にあった案山子は、まるでバターでも切り裂くかのように断たれ、その斬り口はまるで高熱で焼かれたかのように黒ずんでいる。

勿論この一連の現象はスキルなどではない。


何度も記述した通り、このゲームの仮想世界は限りなく現実に近い世界だ。

物理法則等もかなり忠実に再現されている。

つまり、なんてことはなく、ジンの放った一撃があまりに早かったので斬撃が空気を切り裂き、カマイタチとして目標を切り刻んだだけである。

ただし、斬撃時にはちょっと炎属性の魔力を込めていたのだが。

似たようなスキルに火炎斬りと呼ばれるスキルがあるが、中距離から放てるこちらの方が明らかに有利なのは疑いようのない事実であろう。





その後、30分程レッドランスの扱いに集中しジンは当初の昂揚も薄まり、まるで手足のように扱えるようになっていた。

エドワードに関してはとっくに工房に戻っており、ジンもそろそろ戻ろうかと思ったころ。


《新着メールが一件届きました》


と、機械的な合成音が脳裏に響いた。

恐らくリリエ達だろうと思いメールボックスを開けば、案の定リリエ・シフォンカートの文字が表示されている。

メールはこっちも今用事が終わったことと、今からグランスバールの何時もの喫茶店で待ち合わせしないか? という内容だ。

俺はそれに15分くらいでそっちに向かうと返信し、裏庭から工房に戻る。


「んじゃ、俺はそろそろ行くな! また何かあったらこっちから頼むかもしれないから、その時はよろしく」


住居スペースで紅茶を見た目に似合わず優雅に飲んでいたエドワードは、矢継ぎ早に俺を行かせまいとあの手この手を弄してくるが、俺はそれを生来のスルースキルで無視。

俺にとって鬼門とも呼べるエドワードの工房を後にした。



後書きぽいもの



先ず最初に、長らく投稿できなかったことをお詫び致します。

さて、今回は最強要素を強化する為に主人公を強化してみました。

序に厨二御用達の伝説的金属も登場です!w


次回遂に新キャラクターが登場します。お楽しみに。


それでは感想、評価、誤字脱字、アドバイス待っています。

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