344話 別れと決意、紡がれる意志
ユーラシアはその後、ウィータルへと戻り惑星全体へと癒しの力を施した。
そのおかげで太陽の意思との戦いで消失した大海の一部と北側領土の文明、西側領土が負った損傷は全て元通り。
魔大陸と呼ばれた地にかけられていた邪神の力も消失し、自然の緑が小さく芽生え始め、人が住める地となる基盤が作られた。
竜王跡周辺にも魔大陸同様に自然のエネルギーを創造したため、魔力のない者たちでも問題なく活動できる空間となった。そしてこの地は後に、竜王の魔力樹が存在していた場所として、世界一有名な観光スポットとなるのだが、それはまだ数年先の話。
最高神をも超えた存在となったユーラシアは、オーレルとの戦いを終えた後に発動した『最高神の恩恵』の力ですら復元させることが叶わなかったエルフの都を、完全に復元させることに成功。
そのことを伝えるために、残された時間を使ってエルフたちが待つ『L』へと赴く。
しかし『L』へ来た本当の理由は、最後に心から会いたいと思う存在に別れを告げるため。
「——————ユーラシアくん・・・・・」
シエルと同じくらい生涯愛したい女性。
自身の名を久しぶりに呼ばれたことで、ユーラシアの目には涙が滲む。
「会いたかった・・・・・」
「私も・・・・・誰よりも忘れたくない。忘れてはいけない存在だったのに、本当にごめんなさい」
「シェティーネは悪くない。だからあんま自分を責めんな」
「ええ」
シェティーネは嬉しさの笑みを浮かべながら、ポロポロと涙が頬を伝う。
「すごく遠くに行ってしまった気がしたけれど、こうして言葉を交わしていると、貴方がとても近くに感じられるわ」
二人の距離が近づいていく。
ゆっくりと一歩、また一歩と、手を伸ばせば届いてしまいそうなほどまで歩み寄る。
「初めて私を救ってくれたあの時から、私は貴方のことが好き——————大好きよ」
愛おしい笑顔をユーラシアへ向けるシェティーネ。
もう二度と離したくない。そう思ってしまうほど、ユーラシアはシェティーネのことも愛している。
しかし、今抱きしめるわけにはいかない・・・・・ユーラシアはこの先、シェティーネの側にはいてあげられないから。
心でそう思っていても、体はどうしようもない。
気づけば二人の唇は重なり合っていた。
何度も、何度も・・・・・何度も——————。
二人の愛はどこまでも深く繋がっていく。
「愛してる。この先何十、何百、何千年も——————」
「私もよ。貴方がこの先どこにいようと、私の愛は———いえ、私たちの愛は消えることはないわ」
こうして二人は、永劫の愛の下、永遠の別れを告げた。
「もうそろ時間だな」
オルタコアスは竜王を神の如く崇める地。
この地はこの先、世界中で名を轟かせる大国へと発展していく。
皆から誇らしく思われ、種族差別などない、国民自身が外国へと誇りを持てる国となる。
ユーラシアから見る今の民たちの瞳には、生きていくことの強い意志と未来への渇望が浮かんでいた。
勇者が施した『創生世界』も素晴らしい出来栄えで、何の加護もなくともこの国は大丈夫だと、そう思わせられたことをユーラシアは嬉しく思う。
幾度となく危機が襲って来ては、ユーラシアがオルタコアスを救って来た。
世界樹が生み出したこの国は、ユーラシアにとっても母国である。
しかしもう心配はいらない。巣立った雛は自分たちの力で歩き始めている。
剣聖村のみんなも、ドラゴニュートたちも、これからは竜王の力なくとも大切な存在を守っていける居場所を、自分の力で作っていける。
最後の時、貴方は誰と過ごしますか?
大抵の者は、大切な存在と答える。
その中から誰か一人を選ぶとしたら、誰を選びますか?
ユーラシアが選んだのは、兄弟。
ケンタとともにソルン村へと移動する。
「お前には辛いことを背負わせる。ミラのことや、シスターたちのこと」
「俺は兄ちゃんみたくなりたかった。だからこれからは、兄ちゃんの背負ってきたものを俺が背負うよ」
「ありがとな」
「ハハッ、けど・・・・・俺、兄ちゃんみたくやれるかな? 兄ちゃんのいない世界で、みんなを守れるかな?」
目前に広がる光景を目にしながら、震えるケンタの肩に手を回す。
「どんなに強くても、守れないものは存在する。けど、一度貫くと決めた思いは、何があっても必ず貫き通せ。それでも、絶望の淵に立たされて自分を見失いそうになった時は、オレを思い出すんだ——————側にいてやれねえけど、ずっと見守ってるから」
「・・・・・兄ちゃん」
邪神はこれまでも、この先の未来も、決して見ることのできないほど強大な闇の存在だった。
しかし、世界の闇は無限に存在している。
ユーラシアは、その闇に立ち向かう存在の中で、ケンタが最も輝く希望となれるよう力を授ける。
「これはオレからの贈り物だ。全ての闇を呑み込む炎」
「——————弱気になるのはここまでだ!」
ケンタとユーラシアの拳が重なり、ユーラシアの力がケンタの体へ流れ込む。
「元気でな・・・・・兄ちゃん」
ケンタは歯を見せ、元気いっぱいの笑顔を作る。
「ケンタもな!」
ユーラシアも昔に戻ったかのような、少年のような笑顔を浮かべる。
ソルン村の緑が息を吹き返す。
生まれ育った教会がケンタの目の前へと現れた頃には、ユーラシアの姿は消えていた。
これから先、全てが平和な未来とは限らない。
それでも生きている限り、感情がある限り、争いは生まれる。
それはこの世に巣食う闇かも知れないし、人間の愚かさが現れた結果によるものかも知れない。
歴史は繰り返される。しかし、刻まれた歴史は消えない。
この世界もまた、竜王が邪悪を祓った伝説は永遠と受け継がれていく。
そして竜王の意思は紡がれていく。
竜王が新たに刻み込んだ『竜魔伝説』の歴史の下に。
完結。




