330話 ドラゴンスレイヤー『ハーデラン』の真実
オレの長い戦いは幕を閉じた。
もう、世界を悪に染めようとする者は誰もいない。
守る者さえも・・・・・・・・・・・・
悲しみや絶望などなく、ただ虚無感のみが心の内を充満していく。
体全てで、現実を受け入れることを拒んでいる。
ただただ全ての命を奪った己の掌を、物語を見る読者のように無気力で眺めるオレの姿が、そこにはあった。
死ぬことのできない不死身の肉体。
オレはこの世界にただ一人残され、もう二度と誰かを愛することも叶わず、永劫の時を生きなければいけない。
その程度の罰でオレの大罪が許されるわけはない。
許してくれる誰かなどもういない。
許してくれない誰かももういない。
この世界には今も変わらず時間が流れ、永劫の時の中で次第にこれまでの色々なコトが色褪せてしまうのだと思うと、恐怖を感じる。
笑っちまうよな。
大切な者を失った現実よりも、これから真の意味で孤独となっていくオレ自身に対して恐怖心を抱いてるなんて。
何もかもあいつのせいだ。
オレに、心臓を植え付けた。
そのせいで全てを失い、これからの未来に恐怖を覚えている。
とてつもない嫌悪感で吐き気を覚える。
あいつはこの世界の全ての支配を望んでいた。
つまりこの無となった世界への孤独感に対する恐怖は、あいつの感情を映し出しているようなモンだ。
思考はオレのはずのに、感情があいつに染まっていく。
どうしてこうなっちまったんだ・・・・・いつからオレの人生は、絶望一色に染められ始めた——————
かつて竜王だった頃、妻であるシエルの命がエメラルに奪われ、絶望した頃に今の状況は酷似してる。
けど、明確に絶望の始まりを意味するなら、暗黒世界に落とされたあん時からだろう。
そこでオレは、転生した妻と、初めて出会った息子の命を奪った。
もう一度過去に戻れるのなら、オレは間違いなく死を選ぶ。
大切な奴らが悪に支配されていたとしても、その後に待ち受ける残酷な未来を知ってしまっているからこそ、オレは大切な奴らを見捨てる選択をしなくちゃならねえ。
オレが邪神と戦う運命な以上、オレは必ずあいつの色に染まっちまう。
そうなれば、今と同じ未来が待ち受けるだけ。
けどこんなのは架空の話だ。
オレはこれから孤独の終わりなき暗闇へと誘われていく。
そう思っていた。
偶然かそれとも運命か、その時のオレの視界が捉えたのは、一つの小さな時空の歪み。
胸の高さくらいの空中へと、ガラスに生じた亀裂のようなモノがそこにはあった。
隙間から見える景色は暗闇。
向こう側には一体何があるのか未知。
けどオレは、そうするのが自然であるみたいに気がつけば手を伸ばしていた。
途端に亀裂からとてつもない強風が外側から内側へと吸収するように生じる。
ちょっとやそっとの力じゃ抗えないほど凄まじい吸引力に負け、オレの体はそのまま闇の中へと吸い込まれてしまった。
目を覚ますと、広がっていたのは目を疑う景色。
ついさっきまで更地だったその場所には、人類が豊かに暮らす王国があった。
知っている。
オレはこの国を知っている。
ここは、クリメシア王国。
ここは・・・・・過去か?
始めはそう思った。
けど、直後に頭へと流れ込んできたこの場所で起きたであろう悲劇。
それは、神人によりクリメシア王国が一方的に蹂躙される姿だった。
それなのに、みんながオレを見ている。
その瞳に映るのは、恐怖。
悲鳴をあげ、みんながオレから逃げていく。
全てにおいてわけが分からなかった。
その後、招かれた王城で出会った国王ダビュール・サラン・クリメシア。奴に聞かされた「勇者運命改変物語」に絶句させられたのが今から約3年前のこと。
それからオレは、この世界には、オレとは別のユーラシア・スレイロットが存在していること、竜王がみんなから恐怖されている理由が邪神にあることを知る。
当然、今のオレになら邪神の力を消滅させ、この世界のユーラシアを救うことのできる力はある。
だが、それはできなかった。
オレの中に流れる奴の力を使おうとした途端、オレの体は崩壊を始めたからだ。
元々、オレはこの世界の存在じゃない。
この世界の運命を大きく変える事象に干渉すれば、オレ自身が消えてなくなる。
まぁ、それでもかまわねえ——————一瞬そう思ったが、オレはこの世界での使命を定めた。
『この身が滅びようとも、この世界のユーラシアへと、オレの有する力の全てを継承すること』
『この世界で勇者を見つけ、真実を伝えること』
勇者は知らなくちゃなんねえんだ。
自分たちがやった事の代償を。
それからオレは、この世界の運命へとできるだけ干渉しないよう、この世界の邪神に見つからないよう、その身を隠し偽り、この世界のユーラシアと勇者を探す旅を始めた。
そして次第に、オレはこの世界でこう呼ばれ始める
——————ドラゴンスレイヤー『ハーデラン』と。




