はじめまして、をしよう
華童子には生まれついた時から、自分の『鞘』になるべく人間の匂いを知っているという。
そしてそれを探り当てることができる人間を、かぎ分けることができるのだ。
鞘さんは続ける。
「私は今までまひる様のお世話をしていたのも、すべては貴方の代わりなのです。
そして『華童子』の『鞘』となる人と婚姻し、子を生むまでが、『華童子』としての役目なのです」
「え、じゃあそれって、つまり将来の旦那ってことかよ!!」
さらっと言うから勢いで納得しそうになったけれど。
それってすごいこと言ってるんですよ、鞘さん!
「鞘さんだって、きちんとまひるのこと制御してたじゃあないですか。
それじゃダメなんですか?」
結婚とかそういうことは置いておく。
まだ先の話過ぎるし、俺は本土に恋の告白を告げたままの人がいるし。
「私は…ただの傍仕えですから。
それに道祖土様しかできない、まひる様の制御の仕方があるのです。
それこそがたった一つの正式なやり方なのです」
ぱちっとまひるの目が開く。
一点を見つめたまま、その赤い瞳が大きく見開かれる。
「…さや、おなか…すいた」
ぞくり、と鳥肌が立った。
右手に握られているカニを見向きもせず、まひるはそう呟いた。
このまひるが『喰う』のは、人間なのだ。
「まひる様、道祖土様の前ですよ」
鞘さんの声に一気に正気にかえったのか、焦点が俺に向けられる。
そして照れるような笑い顔を見せる。
「ごめん、さい君の前なのに。はしたないな。
話は鞘から聞いただろ?
まひるの『鞘』はさい君なのだから、これからよろしくなのだ。
それから頑張って、やり方、見つけようぜい」
可愛らしく笑っている女の子と二人きり。
絶海の孤島!学校生活からの脱却!そしてラブ!
もう願ってもないゲームのような展開だが、
「まひる、さい君のこと、
頑張って殺さないようにするから」
身近に迫る死の恐怖から逃れたい。
そして俺は誘拐され、まひるとの生活が始まった。