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もう一度最初から

調律。

まひるは俺の前で正座している。

別にしろって言ったわけではないけれど。

たいていそうして聴いていたそうだ。

俺もたいていしていたように、体育館の中心に立った。


太陽は南天、両面の窓から光が差し込んでいる。

鳥のさえずりさえ聞こえない。


沈黙。

館内の音が、完全に静まるまで、目を閉じる。

そしてまひるも、目を閉じている。


目を閉じたまま、俺は旋律を紡ぎだした。


空間を揺らし、音の波動が強弱に揺れる。

切り裂かれるような、悲鳴。

轟くような、雷鳴。


ヴァイオリンの音は、人の声に近いという。

誰が言ったかは知らない。

でも言い得て妙だ。

旋律を通して、まひるの心を叩いている。

鼓膜から肌の細胞一つ一つから、空間を支配し、絶えず揺らす。

鳴くように、泣き叫ぶように、弦を震わせる。


最後の一音が、館内にこだまして行き場を失っていく。


まだ音の余韻が神経を支配している。

目を開く。

光が、眩しかった。

まひるの頬には、光る涙が零れていた。

何かに祈るような姿。

そして開かれる、赤い瞳。

恐怖はなかった。

ただ、美しいと思った。

ここで死んでも、また殺されても、いいと。


でも、まひるはずっと泣いていた。

声が枯れるまで、まひるはずっと泣いていた。



それから二年…

ゆうちゃんの言ったとおり、経済界の混乱は収束に向かいつつあった。

と、白月さんは言った。

鞘と名乗ることを辞めた黒霧さんの看護を続けながら、白月さんは囲ヵ原にまだ仕えていた。


神官だった当主としての特別な役割は一切なくなり、『黄昏会』の一員である奥方様のただの子どもとなった焔は、白月さんに再び交際を申し込んだそうだ。

囲ヵ原内もシステムが変わり、侍従・侍女の一人とされてきた白月さんも、囲ヵ原の遠い縁者に相当するので立場は関係なくなったのだ。


でも、白月さんはそう簡単に落ちないだろう。

…それでも惹かれてないとは言えない態度なんだよな、やっぱり。

恋路は遠いけれどね。


「まひる、今日はお腹空いてるか?」


「んー…あんまりだよ。でもココアは飲むのだ」


まひるは、俺の『音楽療法』とゆうちゃんの斡旋した『満腹中枢の刺激』による治療で、狂いを抑えることができた。

『鞘』なんて役割は、いらなくなった。


「それでもまひるとすーちゃんの子どもには、うつっちゃうかもしれないけど」


遺伝性だから仕方ないけれど、これも同じ治療で何とかできるそうだ。

しかも幼少期なら治癒は早い。


っていうかそこまで話は進んでねぇよ!


「じゃ、まひる。お湯沸かしてくれ」


「あいやー」


今では一緒に部屋を借りて住んでいる。


変わったことは、それだけ。

あとは何も変わらない。



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