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9 逃亡

佐藤王の場合3


国王は走っていた。2万人に追いかけられる恐怖を知るものはそうそういないだろう。

目の前の草が揺れた気がした。

がさ!


「ひゃ!」


思わず声を上げた国王。見たものは野生のうさぎだった。

こんな時に脅かさないでもらいたかった。普段なら殺していたところだ。

空を翔んでいた玉座は充電切れになってしまった。

持っているのは拳銃一丁だけだ。もし誰かにあったらと思うと怖くて仕方なかった。


がさ!

またうさぎかと思って前を向く。

鬼だ!

バン! バン! バン!


国王は自らの手を汚したことはなかった。

そうなのだが、初めて人を殺した。1人の鬼は死んだ。

こんなにあっさりと人は死ぬのか。

太った鬼に銃弾は頭に当たって、脳漿と血を出しながら、前のめりに倒れた。そして力尽きるように手の指先を握って動かなくなった。3発撃った銃弾は一発しか当たらなかったが、悪運の良い事に脳を破壊して殺せたのだ。

確か死んだ人はチップに血が通わなくなり、鬼じゃなくなるはず。

出くわしたのはとてもいいタイミングだった。

国王は殺した鬼から衣類と鬼の被り物を剥ぎ取った。すると、衣類を脱ぎ捨て、鬼の衣装に着替えた。新しい拳銃を手に取る。拳銃は使われた形跡はなかった。


「これならチップさえ隠せばバレないぞ、しめしめ」

チップは服を貫通して情報を知らせるので手で覆うしかなかったが、鬼に見つかる心配はほぼなかった。

「そっちはいたか?」


誰かの声が聞こえる。スコープ越しに見るとチップが反応して本庄(ほんじょう)ちりりというの名と年齢と血液型が映し出された。


「こっちにはいないぞ!」


国王は先陣をきって走り出す。


「どこ行った?」

「遠くに入ってないはず! 探せ!」


集まってきた鬼達は散開して捜索する。

時間は残り5分だった。

肩を強く握りながらふらふらと歩く。

暑い。鬼はこんなに暑い中氷鬼ごっこに興じているのか。ああ。かき氷が食べたい。庶民の感覚がわかった。帰ったらじいに……いや殺してしまったんだ。新たなじいに作ってもらおう。


「お兄さん、大丈夫?」


不意に隣で幼声がした。

小さな背丈の鬼が真横にいたのだ。男の子だ。


「さ、触るな!」


まるで殺し屋に背後を取られたかのような声が出てしまった。


「肩、怪我したの? あ、僕の名前は後藤京、お兄さん、名前は?」


京は健やかな少年らしい態度で国王に話しかけた。

言わなくてもチップの情報で分かる。後藤京、8歳とゴーグルの端に書かれている。


「俺は、さと……、里山智(さとやまさとる)


国王は佐藤姓を名乗りそうになった。これを言ったら確実にバレていただろう。


「智お兄ちゃんか、宜しく!」


京は手を差し出す。

それは絶対に触れてはならなかった。

足を痛めたふりをしてしゃがみ込む。


「ん?」


ジリリリ

カーンカーン


ベル、そして正午の鐘だ。

ついに逃げ切ったんだ!


「残念だったな! 私は国王の佐藤だよ、少年」

「国王!? かっこいい! 鬼の服はどうしたの?」

「う、うむ。剥ぎ取った服だ」


思った反応と全く違う反応に戸惑う国王。真剣に答えるのもつかの間、京は国王の肩にのせている国王の手を触った。


「何をする!」

「肩、怪我したんでしょ、僕、救急医療セット持ってるから」


京はかけているショルダーバッグを指さした。


「これは国王と悟られないためのフェイク。つまり偽物。少年、さらばだ」

国王は京の目に入るように手で砂をかけて、走り出した。

トランシーバーを引っ張って城の者に繋げた。


『私は生きている、助けをよこせ』

『よくぞご無事で、ただいま助けに向かわせます』


優の声が森に霧散する。


『とりあえず、町に出るから車で迎えに来い、今すぐに。以上だ』

『はっ!』


町へ出るとジャストタイミングで車が来た。


「ここまですれば、私の威厳も保たれたものだなじい」

「そうですな。よくぞ逃げ切りましたのじゃ」


城に近づくに連れ、なんだか眠くなってきた。

「何人、コールドスリーパーになった?」

「九百万人ほどかと」

「よしよし」

「しかし困りましたな」

「どうした? 便秘か?」

「いえ、……自分で決めた法の存在忘れてございませんか?」

「なにをだ? 私は逃げ切った。氷鬼ごっこに勝ったんだ」

「家族で誰も子を捕まえなかった場合、家族の内誰かをコールドスリープに引き渡すと、仰っていらしたのですぞ。この場合、国王の家族は国王1人なので、引き渡す者は当然国王となりますのじゃ」

「何!?」


国王はじいに向かい罵倒しようとした時に、肩のチップから強力な電撃が走った。そして意識を失った。

そうか、元じいさえ殺さなければ、生贄にできたのに。

国王は後悔した。


斎藤海桜の場合3


鬼に扮したトムはヘロヘロになりながら帰ってきた。玄関で寝転んだ。それは、まるでよっぱらいのようだった。


「あなた、捕まえられた?」


海桜の問いにトムが人差し指と中指をたてた。

どうやら捕まえてきてくれたようだ。


「よく頑張ったわ。これで地獄の氷鬼ごっこも終わりね」


というのも、11時になっても抽選会は行われなかったからだ。

安心しているとテレビで特報が流れた。

国王はコールドスリープにかかった事が報道された。


「これで氷鬼ごっこは終わったんだ」


しかしなにか、何かを忘れている気がする。



斎藤玲点の場合4


人のなるべくいない道路を、チェックと玲点は走っていた。ペケはやはり走るのに荷物になるので置いてきた。


「センターはどこにあるんだよ」

「住宅街にある。僕は案内する」


2人とも息を切らしている。

鬼は子の集まるところにいるのか?

ビーー!

振動している、近くに鬼がいる。

2人は音を殺して歩いた。

鬼だ!

向かい側に背を向けて足を伸ばしている。。骨格から見ておそらく成人男性だ。太っている。


「細い道に迂回しよう」

「オッケー」


玲点はつぶやく。


「わかった、わかったよ、皆、アホ王を殺りに行ったんだ」

「じゃあ、大手を降って助けに行けるな」


玲点の言い終わった瞬間に警戒音がなった。

2人はキョロキョロする。先程の目の前の鬼がこちらに向かってきていた。


「まじか」

距離は30メートル程あるためすぐ捕まったりはしないだろう。


「センターまで走ろう」

「うん、ついてきて」


そしてタワーマンションのように大きなセンターにゴールした。

センター前には人っ子ひとりいなかった。

そして、その時はとんでもないことが起こっていることを知る由もなかった。



斎藤海桜の場合4


しかし何か、何かがおかしい。

ケータイの着信音がなった。


『もしもし、玲点? 捕まらなかった?』

『お袋! もちろん大丈夫だったよ』

『ああ、よかった』

『それが良くないんだ。実はチェックの親父がさ、誰も捕まえられなかったみたいで身柄を確保されちゃったんだ』

『ええ? 良輔さんが? もう氷鬼ごっこ終わったんじゃ?』


海桜はテレビを見ると。例の赤い箱が中央に置かれている。

カメラワークが動く。威厳のある若い人物が、国王の格好をして豪華な椅子に座っている。


『吾輩はおじである国王の、甥っ子である。名を佐藤(まもる)という。吾輩は28歳だ。そのことを知れば察しがつく人もいるのではないか? 今日、吾輩は必死こいて逃げていた。そして思っていた。ここで氷鬼ごっこを止めるのは、不平等ではないかと』


守の言葉に海桜は驚いて口が塞がらなかった。

血が繋がっていることだけはある。


『もしもし?』

『今テレビで国王の甥っ子が抽選しようとしてるんだけど!』


画面はまた中央の箱に移り変わる。ゆっくりと歩を進める守は箱の前まで来た。


『吾輩はおじに代わって抽選を行う。以後よろしく頼むぞ』


守は強く言い切った。

嘘でしょ。


『甥っ子が、今、抽選を!』

『これから六日目の鬼と子が決まります。完全に平等な抽選です。ちなみにもう出た数のボールは抜いてあります』

『もうすぐ、子と鬼が決まるわ』

「それでは」と言って守は抽選箱に手を差し入れる。

『23、51、62、70」

「23、51、62、70歳の皆さん明日の11時から決行される氷鬼ごっこの子となり、思う存分逃げてください』


鬼と子の役割が発表された。


『もしもし、玲点? 子が決まったわ。23、51、62、70歳よ』

『良かったー、セーフ。……それで、チェックと今日、センターに行って優空恵ちゃんと宮内淳子先生を助けたんだ』

『まあ、そうなの?』

『皆が国王に集中していたからね。センター前はもぬけの殻だったよ』


玲点と話していると夢がぐずり始めた。


『帰ってきてから話し合いましょう。チェック君もおいでって伝えて』


海桜はできる限り落ち着いた声を出した。

どうしよう。チェック君、家族が連れて行かれて、1人だなんて可愛そうに。


『お袋、ありがとう』


玲点はどこで覚えたのか、自分をお袋、トムを親父と呼んでいる。

別に嫌な訳では無い。教えたわけでもない。アニメ、漫画の見過ぎなのだろう。もしかすると、我が家にもルールが必要なのかもしれない。


読んでくださりありがとうございます。


面白い、続き読みたいと感じましたら、下のブクマ、★評価、感想などお待ちしてます。

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