16 未来
「うわあああ」
誰かが死んだ。
玲点はもう誰かの悲鳴や断末魔の叫びを聞きたくなかった。1人になりたかった。
「ココロ全員止まれ! 玲点、しっかりしろよ! 死にたいのか?」
玲点は指示を出さないので、チェックが代わりに檄を飛ばす。
「死にてえわけじゃねえよ。ああ、悪かったな」
「ゆっくり休めよ。……アクさん、玲点が代わってほしいって」
「案外やわじゃのう。いいぞ、わしが代わったるわい」
「すまない、ありがとう」
玲点はスキンから降りると、足に激痛が走った。
「いてえ」
足を酷使しすぎたかな。
玲点は宇宙船に入る。
ヘルメットをとった。
「玲点どうしたの? 大丈夫」
バツにつけられたペンダントが玲点に喋りかけた。
「足が痛くてな」
「足のどのへんが痛いの?」
「右足の裏から来ているな」
「外反母趾か扁平足か足底腱膜炎かな?」
「かかとの部分だ」
「病院に行ったほうがいいよ」
「うーん、今仕事中だから、休暇取ったらマサカにある病院に行くか」
「ところでこの後バツってどうなるの?」
「何も取って食わないよ。優空恵ちゃんの家で飼うことになるかと。あの家には郁美ちゃんっていう小学生がいるから可愛がられると思う。俺は目標達成記念にこの仕事、引退させてもらうかな」
「玲点。マサカって広いの?」
「うん、人口は約500人だけど」
「そう」
「驚かないのか?」
「ここでは皆が死んでいったからね。大陸の面積は?」
「日本とどっこいどっこいだな」
「ふーん、それで、この地球のセンターから人を集める旅をしているんだね」
「勘違いをしないでほしいが、俺はペケに会うためにここまで来たんだ。他の人口増加作戦などは二の次三の次だ。マサカは色々なもので溢れかえっているなか、何故か女性は子供が1人しか産めないんだ」
「へえ、そりゃ人口減るね」
「地球人の力が必要なんだ」
「元々マサカ人は100人くらいで生活していて、一夫多妻制だった。宇宙船に乗って逃れて地球人100人と混血が増えていった。因みにマサカ人の寿命は30歳、地球人は120歳だ。混血の人は60歳くらいだ。地球人同士で子供を産めばいいんだけど、マサカ人の人は男女ともに美形が多くて混血が多くてな。ともかく今、地球人を探している」
「へえ、そうなんだ」
「まだマサカには帰れないな。助けた地球人が少なすぎ」
「だめよ、その足で無茶するつもり? やめな」
「それでも帰ろうとはいえない、せめてここにいる地球人の面倒は見る」
「そうか、それならいいよ、その代わり帰ったら病院ね」
ペケが言っていると3回目の救助された方々がやってきた。
ドアの閉まる音がする。窓から外を見ると地平線の夕日が綺麗だった。
チェックと残りの男女が入室してきた。
「おかえり、チェック」
ワン!
バツはべろを垂らして吠えた。
「バツ、ただいまペケ。おい、玲点! 平気か? 顔に生気が感じられないけど」
「大丈夫だ」
「無理するなよ」
「次はどこに向かうんだよ?」
「北だ」
「わずかながらチップの生態反応あるから」
「チェック、玲点は」
「何でもねえ! 俺のことは気にするな」
「でも!」
「そうだね、玲点は休んでいたほうがいいよ」
「いや、ちゃんと歩ける。スキンに乗れば走ることもできる」
ガコーーーン!
何かが宇宙船にぶつかった。
皆が顔を見合わせる。
窓にスキンがぶつかって倒れた。
「何だろう、すぐに発たないとだめな気がする」
ペケはバツの首にかかっているので遠くが見えなかったが赤い何かがいた。
「鬼だ」
「へ? 鬼!?」
「ココロ、ハートに入れ!」
チェックはスピーカーでココロ達をハートに戻すように促した。細いハートの門も小さくて大きな赤い手は入らない様子だ。
「すぐに出発だ」
「ああ」
玲点はパソコンのキーボードのような黒い薄い板を打っている。
ピィイイン
動き始める宇宙船とハート。空を高く登った。どうやら逃げ切れたようだ。ハートはどうやら隙間がガラスになり、外気を通さない様子だ。
「鬼って何?」
「空から降ってきた隕石内の蜂蜜を大量に接種した人間のことだ。でかい身体をしていて頭に角が生えているから鬼と呼んでいる」
「もうこのまま帰ろうよ、鬼がいるんじゃ救助不可能だよ」
「待っている人がいるかもしれないんだ、もう少しだけ頼む。宇宙で1晩時間を潰してまた明日地球に向かおう」
「その通り、地球人は宝なんだ。諦めてはならぬのだ」
アクは同意した。
「そうでしょ」
チェックの意見はなんとか通ると、全員にブランケットを渡して小さくなって眠った。
地球人の避難民は無重力空間だとよく眠れそうになさそうだった。
「皆、起きてくれ!」
玲点はチェックの声に目を覚ました。
宇宙船はどこか岩に囲まれた地面に降り立っていた。
「100メートル離れたところに、鬼がいる。皆に倒し方を熟知してもらいたい。玲点はここにいてくれ」
「足手まといだな」
「そんな事言うな。いいか見ててくれ。スキン、キライン、戦いの時間だ」
チェックはスピーカー越しにハートへ声を届かせると宇宙服のヘルメットを被った。そして外へ出ていった。
ドシーン! ドシーン!
赤い大きな鬼が歩いてくる。爪が長い様に見える。そして大きい目をしていた。
スキンは鬼の周囲を囲む。キラインは四方を取り囲んだ。キラインがスキンの身体を踏んで空高く飛んだ。鬼に噛みついていた。
「目を狙え!」
大きな目は噛みつかれた。
ぎゃああああ!
目から赤い涙を流して、逃げていこうとしたが、スキンの群れに足を引っ掛けて転んだ。
ココロが鬼に噛みついていく。
その光景はアリが大物の獲物に食らいついているようであった。
鬼は動かなくなった。
ココロはぺっと口から血を吐いていた。
鬼は食べないらしい。
「行こう」
「だめ。玲点は私とここにいて」
「仕方ないな」
玲点はバツの首にかかっているロケットペンダントを自分の首にかけた。
「これで最後まで一緒だからな」
「玲点、ありがとう」
皆は宇宙服にヘルメットをつけていなくなった。
どうやら無重力の空間が嫌らしい。
「いなくなっちゃったね。昔はあんなに人がいたのに」
「マサカに行けば人はいるよ」
「そうね、空から蜂蜜は降ってこないよね?」
「あれは隕石によるものらしいから、そうそう降ってこないと思うぜ」
「玲点、浦島太郎みたいだね」
「浦島太郎じゃなくて、お前の年が止まったままだからだよ」
「ありがとう、これから私達マサカに行けるのかな?」
「褒めてないから。行けるよ、これからはずっと一緒だ」
少し時間が経って、全員あわせて30人が救助された。
「もし誰かが地球上に降り立ったら、ココロを仲間にしてほしい」
「「「はい、わかりました」」」
「これからモシモという惑星の名前のマサカという国に行く。公用語は違うが、日本語は知れ渡っている」
「私達はどうなるんですか?」
「しばらくは地球人の人のエリアで出ないで暮らしてもらう。元日本と相違ない場所だ。1年以降は好きに暮らしてくれて構わない」
宇宙船は再び飛び立ち始めた。
モシモへの道は2時間くらいだった。
木が見える、海も、川も。空気も綺麗のようだった。多くのスキンとキラインがいる。
玲点は宇宙船が降りた後、じっと座っていた。
「玲点、まずすること分かるよね?」
「わかってるよ。チェック、アクさん、俺足が痛いので少し休暇をもらえますか?」
「宇宙局長に聞いてみるね」
「ありがとうございます」
「玲点、僕も休みとるよ。言っていたじゃないか、一仕事終えたら皆で飲むんだろ」
「ありがとう」
これからは病院に行きながら、楽しく余生を暮らせそうだ。そうだ、ペケとの結婚式をあげよう。
バツも一緒に暮らそう。
ここまで来れたのもペケとチェックのおかげと言っても過言ではない。
「チェック、ペケ、大好きだ」
ーー完ーー




