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15 精神

98年前の麻林ペケの場合3


中学生になったペケは今日もぎりぎり滑り込みセーフを決めた。

朝の始業のチャイムとともに椅子に座った。


「今日の天気はあいにくの雨ですが、皆さん元気を出して、授業に集中してください」


そう言うと担任は出ていった。

「今日はフルーツバスケットしようぜ」


クラスの上級カーストに所属する男子が言った。


「いいね! じゃあやりたい人は放課後集まってくれ」

「私も私も!」


ペケはクラスの輪に溶け込んでいて最高に楽しい学校生活を送っていた。まるで2年前の悲劇がなかったかのように。


「1時間目移動教室だよ。科学室でだって。一緒に行こ?」


福葉流那(ふくはるな)という赤いメガネをかけている可愛い女子がペケを待っていた。


「うん! 待っててくれてありがとう」

「後さ、流那さ、今日塾だから先帰るね」

「え! 流那はフルバしないんか?」

「子供じゃないんだからさあ」

「堅物だなあ、世の中、楽しんだ勝ちだよ」


それから2人は科学室で実験をする。そして、2時間目、3時間目、4時間目ときて給食が入り、最後の授業が終わった。

雨は止みそうにない。今日はなんだかいつもと違う気がした。


「ペケ、お前担任に呼ばれてるぞ」


同じクラスの玲点がペケの名を口に出す。


「えっ何だろう、成績かな?」

「しっかりしろ。おバカちゃん」

「ちょっと、ま、まだ成績のことか決まってないでしょー!」

「ペケがいないんならフルバしないで帰るわ。じゃーなー」

「んもう! またね!」


ペケは真面目腐った顔で職員室に向かった。


「麻林さん。悪いんだけど、校長室まで同行してくれ」


否応なしに校長室に連れて行かれた。

何だろう?


「座っていいよ」


校長は静かに窓の外を見ていて、ペケが来ると校長椅子に座り、ペケも座るように促した。


「麻林さん、君は選ばれたんだ! 98年後のコールドスリープの監視役に! これは警察の科学班が作り上げたロケットペンダントだ。❞ラブ❝という」


どこからどう見ても白い、普通のロケットペンダントに見える。


「へ?」

「君は知力、考察力、運の良さなどでこの学校のすべての平均に値する人間だ」

「全てが平均って。私の拒否権は?」

「もちろん無い」

「具体的に何をするんですか?」

「君の精神と身体を引き離して、ペンダントに入れ込む、そして人から人へ受け継いでいき、98年後の世界が見えるわけだ。もちろん壊れない限り、一生ペンダントの中だ」

「なんで、私なんですか!? 嫌です!」

「選ばれたのは無上の誉れである。上の人からの指示なんだ」

「いつ、私は殺されるんですか?」


ペケは死刑宣告を受けた囚人の気分になっていた。


「殺すのではない、精神を分けるだけだ。食事、排便、交配などができなくなる。だが直に慣れる」

「身体は?」

「由緒正しい神社で火葬される」

「いつなんですか?」

「早くて3日後だな。遅くても1週間後には分離しているだろう」

「3日?」

「ロケットペンダントに入れて誰でもいいが好きな人に持っていてもらう。その人の子供に託す。繋げていき、100年後の世界を目指すんだ」

「止めてください」

「家族には話しは通している。条件は揃った。後は君の分離までの最後の時間を見つめ直してほしい。……悪霊にならないでほしい」

「せっかく、あのリアル氷鬼ごっこから救われたのに、そんなの、ひどい」

「その功績を称えてのことだ」

「私ではいけないです。悪霊になりますよ」

「そう言うな。すごく誇らしいことだ。それから明日から3日間から1週間、好きに過ごしていいからな」


ペケはもう嗚咽以外何も言えなかった。


「それでは、政府関係機関が家に迎えをよこすそうだ」


校長はそれだけ言うと椅子を回して後ろを向いた。


「行こう、麻林さん」

「し、つうれ、しま、した」


ペケは涙をこらえて言った。

窓を見る。外は雨が止む気配もない。


「ペケ! カバンはとってきたぜ、帰ろうぜ?」


後ろから、玲点の声がした。ペケは振り向けなかった。

玲点はペケのそばに寄って、かがみながら顔を覗き込んだ。


「先公、ペケに何をしたんだ!」


玲点は沸点を超えたような声をあげた。


「いいの、玲点、あのね、私が精神と身体を引き離して、98年後の監視役に抜擢されたの」

「……へえ、それがあんた等のやり口か?」

「どこに隠れてもチップがある限り居場所は特定されるし、頸動脈と繋がっているから、取ったら大量出血で死ぬからね」

「覚悟は決まったよ。玲点、お願いがあるんだ」



98年後。麻林バツの場合


ワン!

バツが吠える。すると太郎が起きた。


「せっかく女子中学生になれる夢見てたのに、あーあ」


太郎は大あくびをする。


「「おはようございます」」


宇宙服を来た少し背の曲がった男性の2人が挨拶をする。


「「「おはようございます」」」


15人が挨拶を返した。


「そういえば、あんた達名前は?」

「玲点」

「僕はチェックです」


宇宙人の名前は玲点とチェックと言った。

2人はヘルメットを外し、お辞儀をする。

思っていたよりも老いていた。70代に見えた。そういえば少し懐かしい匂いがする。


「宇宙服は人間用5着、犬用1着しか持ってこれなかったので5人ずつ参りましょう。もちろん犬用の宇宙服も着せてやるよ。バツ」



白い服に白っぽいヘルメットに皆が着替える。犬も例外ではない。

外に待っていたのはハートの耳と模様を持った狐と、桃のような耳と模様を持った狸だった。それも50匹程度いた。


「乗ってください、スキンのほうが乗りこなせやすいです」


チェックは狐のようなスキンに軽々と乗ってのけた。

玲点、バツ、守、リム、英、太郎、沙帆、チェックが先に行くことになった。


「ココロはこの世界でも生きていけるんですね」

「我々の世界ではココロのほうが人間よりも多く、知能も面でも体力面でも卓越している存在ですので」

前方に大きなクワガタを確認する。

ココロとバツは避けて通っていく。

ココロを恐れているのか、襲われずに済んだ。

何も無い砂利道をざくざく音を立てて進んでいくと次に目にしたのは砂煙だった。


砂漠地方。


「砂漠地方は絶対に振り返らないでください。人間だとバレたら食べられてしまいます。我々をロボットだと思わせましょう。全員無言でお願いします」

「いったい何が」


沙帆は小さな声で尋ねる。


「喋らずに。どうせ姿を見せて動揺を誘います」


チェックは冷静な声を上げた。

「ぎゃああああ」


前から2番目を歩いていた、英の絶叫が聞こえた。どうやら振り向いてしまったようだ。

なにかに血液や体液を瞬時に吸われて、骨と皮だけになった。重力に従い落ちたというわけだ。

コロンコロン。

骨と骨のぶつかった音がした。

何故振り向いたのか?

彼にしかわからないだろう。

お前が死んだら、誰が婆さんの面倒を見るんだよ。


「ごはー……ああああん」


喋りだしたリムの上半身にくっついているのは20センチくらいの小さなサメの群れだった。噛み付くと離れずに血を吸っている。

リムも骨と皮だけを残して死んでいった。

コロンコロン。

玲点もチェックも顔色1つ変えない。

砂漠にサメがいた。

たくさんのサメに囲まれている。ココロは襲うつもりはないようだ。しかし、人間の動きをした場合、搾取されるようだ。バツも襲われない。

砂漠を抜けた、するとオアシスのような緑があった。

そこに宇宙船は控えていたようだ。


「ココロ、止まれ!」


玲点の声に皆が止まった。


「2人死んだか、まあ男女さえいればこの旅は成功と言ったところか」

「玲点、言うようになったね」

「あ! ペケ、バツのところに! いつの間に!」

「最初からいたよー」

「なんだよ、まあ、バツと一緒の方がいいな? 俺だと心まで持っていかれそうだココロだけにな」

「ここではバツに乗り換えさせてもらったけど。昔はミスさんから、ミスさんの息子のバッテンさんに持ってもらってたよ。ちょうどバツが目を覚ました翌日に寿命で亡くなったけど。それで、さっきまで威勢の良さはどこいったのかな?」

「威勢の良さはともかく、この星を救うためにお前が頼んだんじゃねえか。地球は滅亡するから新たな星でコールドスリーパーを生き返らせてほしいって」

「よく覚えてるよ。玲点もチェックもおじさんになったね」

「宇宙は広いから、地球人よりも寿命が長いのさ。随分前にチェックは結婚したんだ、優空恵ちゃんって覚えてるか? マサカにはその子の子孫がいる」

「覚えてるよ、良かったね、チェック。玲点は?」

「俺は別にどうでもいいだろう」

「モテないの?」

「うるせえ」

「玲点はペケと一緒に居たいんだって」

「地球上はわけ分からなくなった、ここ50年で。ペケのチップはないけれど、チップのある人間をずっと探してたんだ。いろんな人を助けて周った。バツがいるということはと思ったがな。やっと、やっと会えたな! ペケ!」

「玲点! 私のこと好き?」

「……好きだ!」

「じゃあ、この世界の皆を全員助けるぞ!」


チェックの発言にここにいる全員が手をあげた。


「「「おーーー!」」」


大型の宇宙船の中にバツと人々は入っていった。玲点は3重扉の鍵を開けた。中は無重力の世界だった。1人の宇宙飛行士のおじさんが空中を散歩しながら待っていた。


「もうヘルメット外してもいいぞ。私の名前は悪真千賀絵(あくまちがえ)。アクと呼んでくれ」


アクの名前に若干引きながらバツは窓を見た。

玲点とチェックは首尾よく大型のスキン3匹と大型のキライン2匹に宇宙服を縛って乗せているようだ。5つ運ばせるようだ。


「玲点、気をつけてね」

「行ってきます。もしも俺達が2時間待っても帰らなかったら。宇宙船を動かして帰ってくれ」


100年後。斎藤玲点の場合6


「大丈夫、大丈夫」


不安なときは声に出すようにしている。

50年前、空か降ってきた謎の隕石内の蜂蜜のせいで昆虫が巨大化してしまった。その時、既に航空宇宙飛行士だったので、なんとか宇宙に逃げ延びることができた。

地球上に戻ると多くの人が死んでいた。世界遺産の影は残っているけれど、廃れていった。

昆虫は酸素がなくても生きられるのかと言うと、酸素がなくては生きられない。しかし、酸素の消費量は少ないらしく、少ない酸素でも生きていけるということがわかっている。

つまり、残り少ない酸素と肉を巡って虫たちは戦ったり牽制したりしているということだ。


「それでは、スキンに乗ってくださいね」


チェックの声にはっとした。

気がつけば、センターに着いていた。

既に5人着替えて出てきた。


「それでは行きましょう」

「俺が先頭に行く」


玲点はチェックと会話する。


「具合悪そうだけど平気?」

「帰ったら、アクさんと交代する」

「わかった、無理だったら言ってな」

「ああ、わかった」


ココロの軍を率いて進む玲点達。

砂漠の地帯は身も心も固まらせて進む。

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