13 振動
柴崎チェックの場合4
氷鬼ごっこの終わった日の13時すぎ、チェックはソレナのところに行く予定だった。玲点の静止を振り切って、その保育園に1人で向かった。電車にはまばらに人がいた。
「どうして、僕を止めたんだろう」
チェックは思いを口に出す。周りの人に見られて口を閉ざした。
玲点は怪しいからだと言うのだろうけれど、自分には父が好きで、離婚した母も好きだった気がする。というのも自分が4歳位の時に両親は離婚したのだ。楽しかった思い出が先行していく。
あ、そうだいきなり行って取り込み中だったらまずい。電話しておこう。
チェックは大事にしている名刺を手に持った。
なんて言おう?
とりあえず、次の駅で降りる。目的地まで二駅といったところだ。
「ええい、なすがままだ」
チェックはケータイの通話ボタンを押した。
『もしもし、こんにちは、僕はチェックです。今日会えますか?』
『ただいま、留守にしております。ファックスを送られる方は、スタートボタンを押してください。電話の方はピーッと音が鳴りましたらお名前とご要件をお話ください』
固定電話だと気が付かないで電話をかけてしまった。恥ずかしい。
ピーッ
『こんにちは、僕はチェックです。今日、それか、近いうちに会えませんか?』
通話を切ると3分と待たずに電話がかかってきた。
え?
チェックは信じられなかった。
父ちゃんだ!
『よくぞ電話をかけてくれた。息子よ。俺は良輔だ。ソレナとペケちゃんが救出してくれたんだ。このまま二人暮らしをするか、それともソレナとその家族を交えて暮らすか悩んでいたところなんだ。実はソレナはな、1年前に離婚したんだ。元さやっていうと聞こえが悪いが、俺はずっとソレナの事が忘れられなかったんだ。電話をしたってことは一緒に住んでもいいと思っているんだろ』
『うん、僕は構わないよ。というかぜひ一緒に暮らそう!』
チェックは舞い上がりそうだった。ペケが借りを返してくれたんだ。あの怖がりのペケが。
『よかった』
電話口で2人は安堵の息をはいた。
浜川優空恵の場合2
警察が口に貼られたガムテープをとった痛みではね起き、悶絶する。ここはパトカーの車内だった。
「大丈夫ですか?」
婦警が優空恵の顔を覗き込む。
「ここは、どこです?」
「コミュニティ競技場から1キロ離れたところです。任意で事情聴取頼ますか?」
「明日、警察に行って話すのでもいいですか?」
優空恵は頭を振った。
「それでも構いません。ご協力ありがとうございます」
「お姉さん、麻林ミスはどこですか?」
「優空恵ちゃん、起きるの遅いぞ」
ミスはタバコを指ではさみながら、優空恵を見下ろした。
優空恵は見上げる。青空が眩しかった。太陽は真上より少し低い、お昼は過ぎているようだ。
「家には電話しといたから、遅くなるって」
「早く帰りませんか? ペケちゃんが心配です」
「そう? じゃあ帰るか!」
白いワゴンに2人は乗り込んだ。
「ミスさんはどこで働いているんですか?」
「普通の会社員だよ。今日は有給とったんだけど」
ミスは相変わらずタバコをスパスパしている。
「杉浦先輩ってどうなったんですか?」
「あんなやつ、捕まったよ、鬼じゃなくて警察にね!」
「あんなやつ?」
「好きでいた自分が馬鹿みたいね。多くの子を捕まえて得る500万を5人で山分けするつもりだったようだね」
「私達、良く無事でしたね」
「動画が拡散されて助かったの、宮内淳子さんってわかる?」
「隣のクラスの担任じゃないですか!?」
優空恵の発言にミスは目を見張った。
「それなら、お礼伝えられるね。今度小学校行くわ」
赤信号で止まり、助手席の優空恵を眺めた。
優空恵も見つめ返して頷いた。
「少し、落ち着いたらね」
ミスは信号が青に変わると、目の端で捉えているようですぐ前を向いた。車は発進した。
「それなら後で電話番号交換しましょう」
「そうだね」
ミスの生返事に優空恵はうなだれる。そしてすぐにケータイを取り出した。
「今交換しましょう、番号言ってください」
「私の番号は〜〜〜〜」
麻林ペケの場合2
最後の氷鬼ごっこ。
良輔を助けるためソレナとともにセンター前までやってきた。ソレナの元旦那の連れ子の11歳の子に配られた鬼の衣装を身にまとっている。
ソレナの家族は大家族らしい。子供は連れ子含めて6人で、DV気質の旦那とは離婚した。そこで良輔と再婚したいと思っているらしい。
チェックに借りを返すために頑張ろう。
センター前には鬼の格好をした人が3人。
「向こうに3人、子が逃げています、手を貸してください」
「いや、俺達は、このセンターを守れと言われているから」
「早く、呼んできてと言われてるんです、お金持ちの人が追いかけていて、恩恵はすると言ってました!」
「恩恵? 俺行ってくる」
鬼の男が2人、ペケについていく。
後は拳銃を持ったソレナがやってくれる。
「はあっはあっ、このまま一直線に走っていってください。私、足が遅いので!」
「「わかった」」
鬼たちはお金持ちの恩恵につられて欲深い足取りで遠くへ行った。
ペケはセンターの場所に舞い戻った。
『センターに到達した子がでました。さあ20分の内にどれくらいの子を助けるのでしょうか。これは見ものです』
「ソレナさん、平気ですか!?」
センター前には片足を撃たれている鬼がいた。
「あんた、よくも騙したわね」
その鬼はだみ声の女性だった。
ソレナは既にセンター内に入っている。
エレベーターの光から見て40階にいるようだ。
コールドスリーパーの人が多すぎて、皆目見当もつかない。
バツがいてくれたらなんとかわかったかもしれないが……。
39階と適当にエレベーターのボタンを押した。
エレベーターは早い勢いで上へ上へと登っていく。
そうだ!
ペケは胸にあるトランシーバーを手にとった。
「お願いします、柴崎良輔の場所を教えてください!」
『41階のfの33だよ』
お爺さんの声が聞こえてきた。
ペケはおっかなびっくりトランシーバーを戻す。
ともかく、これで居場所が判明した。
ペケは階段をあがって40階にきた。
「ソレナさん、良輔さんは41階のfの33ですって!」
「どうして知ってるの?」
「トランシーバーに聞いたんです」
ペケは再び階段を登る。ソレナもついてきた。
「fの33? あ、あそこだ」
ソレナは先に走り、ペケも送れて到着する。
「良輔さん」
ソレナは肩のチップに棺桶の石のようなチップを合わせた。
ジュー
棺桶は開いた。
良輔は白いトレーナーに白いズボンを着ていた。
「良輔さん、起きて、起きて」
反応がない。何日間も入れられたので勝手が違うのかもしれない。
ソレナはそっと口づけをした。
良輔は目を開けた。思いが届いたようだった。
「う? ここは?」
「センターの中」
「ソレナ!」
良輔はえらく驚いている。
「話している時間はない、早く出よう」
「そ、そうだな、いてて、頭がズキズキする」
良輔は足元がおぼつかないので2人で支えてなんとか前進する。
エレベーターに乗っているとチープな蛍の光と放送が流れた。
『もうすぐ20分を迎えます、直ちに退室してください』
「助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「別に、子供のためだから」
ソレナは顔を背けた。
そして、ペケは自宅へと帰った。
ワン!
良かった、まだいた。
ペケは外に繋がれたバツを抱きしめた。
「バツ、ごめん」
ペケは家に入って犬用のおやつをすべて持ち出した。その後、バツの餌皿に入れた。
バツは嬉しそうにガツガツ餌を頬張っている。
食べ終わると、ペケはバツのリードを持って家の前まできた。
バツは散歩に行くと思っているのかウキウキした足取りをする。
ちょうど、黒い車が麻林家の前に止まった。
「麻林様、王政府の命令で家族を引き渡してもらいたい。麻林丸夫、麻林佳代子、麻林ペケ、麻林バツのいずれかを選んでいただきたい」
「バツを宜しく頼みます」
ペケはバツの顔を見ることができなかった。
泣いている顔を見せたくなかった。
背広で鬼の被り物をしている男にリードを渡した。
ワン!
その場から動かないようにバツは踏ん張っている。
「……いけ、バツ」
ペケのバツに対する誓いの言葉になった。
バツは観念したかのように鬼の男に連れて行かれた。
ペケは家に入る。
氷鬼ごっこの終了のベルが鳴り、正午を表す鐘もなった。
心が乱れたペケは2階の自室に入り、思い切り声を上げて泣いた。
「うわあああああ」
家にはもう慰めてくれるバツはいないんだ。
そのまま泣き寝入りした。
読んでくださりありがとうございます。
面白い、続き読みたいと感じましたら、下のブクマ、★評価、感想などお待ちしてます。




