【95】 ブルームーンの象徴
俺は何も鬼ではない。
人間、隠し事なんてひとつやふたつあるものだ。
――だが、こればかりは見過ごせない。大袈裟に言えばこれは隠蔽の一歩手前。だから、今はただ部下の不祥事を窘める上司、いや――社長としてミーティアに責任追及をする。
「あ、あの……カイト。そんなオークのような顔で寄られると怖いというか……あうっ」
逃げ場を失いつつあるミーティアは今も尚、壊れた人形のように後退っている。しかしその背後には彼女の身長よりも大きな岩。もう詰みだ。
「大丈夫。優しくしてやるからな」
「ひ~…! そ、その発言、一歩間違えるとキケンですよ!」
「とにかくだ、ミーティア。お前も隠し持っているよな。しかもソレイユのより超高額で、ぶったまげるほどのウルトラレアアイテムだ」
俺は「ブツを出せ」と壁ドンならぬ岩ドンをした。俺の両腕が牢獄のような役目を果たし、狡猾なミーティアをより威圧し、完全に逃げ場を失くした。八方塞がりとは正にこの事だろう。
「はぁ~~…。バレましたか」
降参したミーティアは深い溜息と共に観念した。そして『決して悪意はなかった』と言わんばかりの深緑の瞳を俺に向けた。
「帝国に到着次第、サプライズを仕掛けようと計画していたのです。だから純粋にみんなを驚かす為でした……黙っていて申し訳ありません」
「本当だな」
「はい、持ち逃げとか命に懸けて絶対ないです。みんなの信頼を裏切るようなことなんて……そんな愚かしい真似をするくらいなら死んだ方がマシです」
「でも、隠し持っていたよな」
「…………はぃ。それは言い逃れの出来ない事実ですぅ……(泣)」
ぶわっと涙を流し、ガクっと項垂れるミーティアは顔を青くした。あー…、別にいじめるつもりはなかったけれど、これは所謂、ピエン状態だ。
「顔を上げな。――で、ブツは?」
「……これです」
割とふっくらしている胸元から取り出される――碧く透き通る宝石。それを受け取った。てか……んな所に隠していたのかよ。
うぁ、ミーティアの体温がまだ残ってるぞ。
本人もその事に今更気づき、顔を赤くした。
いかん、鼻血がっ!!
そ、それより宝石だ。その澄み切ったオーシャンブルーの輝きは、心を奪われるどころか――本当に魂を奪われて、取り込まれてしまいそうなほどの神秘そのものだった。
これは、どんな人種でも喉から手が出るほど欲しいだろう。
「パライバトルマリン。これはね、ダイヤモンドより価値があるんだよ。時価だが、このたったの一個で『5億セル』はくだらないだろうな」
「「「ごごごごごごおくぅ~!?」」」
その圧倒的な金額にルナもソレイユも、そして隠し持っていた当人のミーティアでさえ驚愕し、腰を抜かした。……そこまで驚かれるとはな。
ミーティアのヤツ、本当の価値を知って顔面蒼白だ。戦慄さえしている。あんなショックを受けるとか……そこまで高価だと思わなかったんだろうな。ていうか、大丈夫かあの顔。なんだか今にも漏らしそうだぞ。
さて、なぜこれほど高額なのか?
世界を渡り歩いた商人である俺は知っている。
なぜなら――
これは【共和国・ブルームーン】の象徴なのだから。




