表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/318

【103】 レベルを操れる男(ルナ視点)

 ソレイユが連れて来たわけではなかった。

 彼女は緊急(・・)の用事で遠征(えんせい)に出て行ってしまった。

 そこで彼女の幼馴染(おさななじみ)であり、部下でもある『クレール』と『アメリア』という少女たちが例の男を連れてきた。


 二人は男をこちらに引き渡す。

 お辞儀(じぎ)すると早々に立ち去った。



「…………」



 この人物が【月と太陽の誓約クエスト】を果たし――『レベル売買』の力を持つという男か。


 わたしは男を警戒し、予め顔を隠していた。

 ブラックベールという特別な布を頭から(おお)い、プライバシーを高めていた。こちらからは男の姿が見えるが、向こうからはわたしの顔は見えない。


 情報の信憑性(しんぴょうせい)は高いようだが、まだ完全に信用したわけではないし、男とは初対面。そもそも、わたしは若い男とはまともに会話を交わした事もない。故にわたしは強く警戒したのだ。



 今は護衛もなく、男と二人きり。

 父は怒り狂うほど反対したが、わたしは押し切った。どうしても対面して話がしたかったのだ。自分でもなぜそんな事を言ったのか理由は分からない。なぜかそうしたかった。



「男……名をなんと申す」



「……あー、はじめまして、かな。

 俺は『カイト』っていうんだ。なんだか知らんけど……昨日くらいからこの世界に居たようでね。これまたよく分からんけど『レベルを操れる能力』があるらしい。一度試したけど、本当っぽい」



 男の名は『カイト』というのか。

 短くて覚えやすい名だった。無駄に美しい銀髪に、青い瞳を持っていた。背はわたしより高く……優しい顔立ちをしていた。


 これが若い男。不思議な感じだ。


「それだ……。その『レベルを操れる能力』を詳しく聞きたい」


 男は腕を組み、悩んでいた様子。

 だが、軽く(うなず)き言葉にした。



「うん。どうやらね、(セル)さえあれば『レベル』を上げたり下げたり出来るみたいなんだ。便利だろ。でもさ、その肝心(かんじん)の金……この世界の貨幣、セルだっけ。手持ちがなくてね。一度試した時は、貴族の人が資金を提供してくれたから」



 やはり、そのような奇跡が可能なのか。

 これは凄いことだ。不可能だと思われていたレベルの操作をこの男は出来ると、自信を持って口にする。しかも、一度試したという前例もある。


 もう(わら)にも(すが)る思いで……いくしかない。



「金はいくらでも払う。だから……わたしのレベルを下げて欲しい。お願いできないだろうか」


「レベルを? どうして? 普通、高レベルの方が有利だろう、こういう世界って。強い方がいいんじゃないのか」



「わたしは、ある病気に(かか)っている。決して治すことのできない(やまい)だ。でも、あなたの『レベル売買』というスキル。それが本当の力であって、わたしのレベルを下げられるのなら……それを治せるかもしれない」



「変わった病気だな。(ちな)みにいくつなんだ?」

「Lv.9999だ」


「はぁ? Lv.9999だって!? すげぇな……」

「わたしが怖いか。恐れるか。怪物に見えるか」

「いや、別に。ただ純粋に凄いって思った」

「凄い?」



「レベルはそう簡単に上げられるものじゃないって、さっき、騎士の女の子に聞いたんだよ。『転生クエスト』だって大量に(こな)さないといけないんだろう? 凄いじゃないか。でも、それで病気になってしまったんだよな。治したいんだよな」



「そうだ。わたしを『Lv.1』にして……この忌まわしい呪いを解いて欲しい。それが叶えば、きっと延命できる。わたしはまだ……生きたい」



 男は直ぐには返事をせず、悩み、答えを出した。



「じゃあ、分かった。その見返りをくれ」

「金か?」



「いや、金はいらない。俺はこの素晴らしい世界を冒険してみたいんだよ。せっかく転生したんだ。少しは楽しまなくっちゃな!

 そうだな、噂に聞いたけど世界最強のギルド『シャロウ』だっけ。そいつらの仲間に入って、最強の商人になるってのはどうだ。俺はきっと商人向けだと思うし」


「――分かった。ギルドへの加入でよければ望みを叶えよう。その代わり、わたしのレベルを下げてくれ。それで交渉成立でいいかな」


「分かった。じゃあ、金をくれ。でなければ『レベル売買』スキルは発動できないらしいからな」



 ◆



 カイトには、既に『インプラント術式』が手の甲に組み込まれていた。……あれは、我が帝国の大賢者であるアプレミディ卿の御業。


 いつの間に(ほどこ)したのだろうか。

 いや……今考えるのは止そう。


 わたしは念のためも考え、彼に『20,000,000セル』を渡した。カイトは、こんなに必要ではないと困惑していたが構わない。未来を生きられるのなら、金よりも命だ。誰だってそうする。



「じゃあ……顔の見えないお姫様。どうせなら、一目だけでも顔を見たかったけど我慢しておく。よし、さっそく『レベル売買』スキルを発動するよ。それではお手を拝借(はいしゃく)



 そうだ、わたしは布で顔を隠していた。

 これはちょっと不公平だったかな。

 でもいい。これが終われば、もう彼とは二度と会う事もないだろう。これはそう、それだけの関係にすぎないのだから。



 それだけの、なんてことのない一期一会(いちごいちえ)のはず。



 ――この時は、そう思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ