【104】 下がるレベル(ルナ視点)
彼と手を繋ぐと光に包まれた。
呪いが解けていくような感覚が全身を襲う。
ふと見れば、下がっていくレベル。
どんどん下がっていく。
そしてついに……わたしは『Lv.1』に落ちた。
カイトという男の『レベル売買』スキルが発動した途端――病の元凶であったレベルはみるみるうちに減ってゆき『Lv.9999』もあったソレは今や『Lv.1』へ。
これは夢だろうか。
あまりに現実離れしているこの事象に、少しも確信が持てなかった。実感がない。ありえない。普通はレベルを下げるなんて出来やしない。それが世界の理なのだから。でもその奇跡を少年は可能にしたのだ。これが誓約の力……。
そうして、わたしの忌むべき死の呪いは解かれ、命を救われた。
「――――」
身体にこれといった変化はない。
手も足も。意識もハッキリしている。変わった部分といえば『死』だけ。それが忽然と消え、わたしの寿命は常人と変わらなくなった。
――でも、少しだけ変化はあった。
心臓が少しだけ高鳴っていた。
死を回避した副作用か? それとも健康体になり、ずっと乖離していた身体が、回復速度に追い付いていないだけなのか。――ただ……わたしを助けてくれたあの少年を見ると……鼓動が震え、とても苦しかった。これでもう会えないと思うと、少し辛いとさえ思ってしまった。
こんなよく分からない感覚は初めてだった。
わたしは、死から解放されたと同時に、また新たな病をわずらったらしい。けれど、これは死よりも恐ろしいものではない。それはだけは分かった。
「――じゃ、俺は行く。顔の見えないお姫様、助かって良かったな。まさかこの世界に来て早々に人助けするなんて思わなかったけど、誰かの役に立てたのなら俺は嬉しいよ。そういう商人に成りたいと思っていたから」
少年は照れくさそうに話し、背を向けた。
「ま、待って……」
「ん?」
「どうしてもお礼がしたい。……カイト様。あなたには命を助けて戴いた恩があるから……。なにが欲しい? 金か、女か、名誉か、地位か……望みのモノは何でも叶えよう」
「――いや、俺はもう莫大な報酬を受け取ったよ」
「……?」
わたしには少年の言っていることが理解できなかった。彼は何も受け取っていないはずだ。余ったお金も丁寧に全額返してきたし、なぜそれほど欲に執着がないのだろうと、不思議に思った。
釈然としない疑問が渦巻く中、カイトは青い瞳でわたしを真っ直ぐ見据え――ゆっくりと、そしてキッパリと言った。
「キミの『レベル』だよ。これで十分。俺は『レベル売買』が出来るんだよ。これを元手に稼ぐさ。じゃ、お大事に! お姫様!」
そう少年は明るく去っていく。
なにも見返りを求めないとは……まるで聖人君子のようだ。
……あるいは英雄か。
けれど、彼は言っていた。
最強の商人になりたいと。
それが彼の最大の望みなのだ。




